投稿日 2022/07/11

PDF と鉄道に見る 「マーケティング近視眼」 。高い次元での存在意義を持つ重要性


今回のテーマは 「マーケティング近視眼 (Marketing Myopia) 」 です。

2つの事例からの教訓として、マーケティングにとどまらず、ビジネス全般で大事なこと解説しています。

✓ この記事でわかること
  • コピー機事業を脅かした PDF
  • イノベーションの芽を見逃した末路
  • かつての鉄道会社が衰退した理由
  • PDF と鉄道会社の共通点は 「マーケティング近視眼」 
  • 高い次元での存在意義 (学べること) 

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

コピー機と PDF のジレンマ


こちらの記事を読みました。

 「PDF」 のアイデアは当初、ダメ出しを食らった? イノベーションの在り方を "失敗" から考える|ITmedia

ゼロックス (Xerox) の話です。

1980年代、Xerox はコピー機だけでなく、将来のオフィスで使われる可能性のある製品やソリューションを開発するというミッションを持っていた。その一つとして社内で挙がった提案が 「PDF」 (Portable Document Format) の考え方だった。

ところが PDF は当時の経営陣のかんに障った。Xerox はコピー機を手掛けている会社だ。PDF が世の中に普及してしまったら、コピー機はもちろん紙もトナーも不要になってしまう。そう懸念した経営陣は PDF のアイデアを却下した。最終的に PDF の開発者たちは社外に飛び出し、「Adobe」 という会社を設立するに至った。

実は Xerox では、この PDF のように "金の卵" を逃した事例は他にもあった。Xerox 社内でアイデアや開発が認められず、社外にスピンアウトした企業は Adobe をはじめ35社ほどあるといわれている。そうしたスピンアウト企業の時価総額を足すと、Xerox より大きくなってしまう。結局、Xerox は2000年前後に業績が悪化したことを受け、オープンイノベーションの考え方に変わっていった。

Xerox (ゼロックス) にはメイン事業のコピー機があり、もし PDF を手掛けてしまうとコピー機とカニバリが起こることをゼロックスの経営陣は危惧しました。それ見た PDF の開発者たちは Adobe として社外にスピンアウトする道を選びました。

こうした事業アイデアは PDF 以外にもあり、社外に分離した35社を合わせるとゼロックスの時価総額を超えたというのは、なんとも皮肉な結果です。

結果論や、外部の人間からすると合理的な判断には見えませんが、当事者にとってはイノベーションのジレンマという難しい問題です。


鉄道会社の 「マーケティング近視眼」 


ゼロックスの PDF の話は 「マーケティング近視眼」 の説明でよく使われるかつてのアメリカの鉄道会社の話に通じます。

マーケティング近視眼は1960年にセオドア・レビットが提唱した概念です。

マーケティング近視眼の例で出てくるのが鉄道会社なのですが、昔はアメリカでの人や物の移動手段には鉄道が使われていました。しかしその後に自動車や航空機が発達し鉄道に取って代わっていきました。

鉄道会社はあくまで鉄道という手段にこだわり、その結果は後発の会社が自動車での輸送会社や飛行機での航空会社として成長したわけです。一方の鉄道会社は衰退していきました。

鉄道会社は、自社の事業定義を 「鉄道事業」 と捉え続けました。もし 「総合的な輸送会事業」 と存在意義を設定していたら、鉄道会社は違う未来を築いたかもしれません。

この鉄道会社の話が 「マーケティング近視眼」 の説明として用いられ、セオドア・レビットは次のように指摘しています。

鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的とせず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

because they assumed themselves to be in the railroad business rather than in the transportation business. The reason they defined their industry incorrectly was that they were railroad oriented instead of transportation oriented; they were product oriented instead of customer oriented.
Marketing Myopia, HBR, July-August 1960

学べること


PDF と鉄道の話 (マーケティング近視眼) から学べるのは高い次元での自己認識と存在意義を定義する重要性です。

一般的に人は視野が狭くなりがちです。目の前のやっていることに注力していると言えば聞こえはいいかもしれませんが、視野が狭くなっていると大局的な判断ができなくなります。PDF を開発したゼロックス、かつてのアメリカの鉄道会社はまさにこの状態でした。

私たちが教訓として残しておきたいのは意識して視野を広げることです。2つあり 「見る領域の空間的な広さ」 と 「時間軸」 を長く見ることです。

その上で自分 (たち) は何者なのか、お客さんへ提供している本質的な価値は何かです。例えば移動手段としての鉄道なのか、人や物を安全に早く快適に運ぶ移動方法かです。

組織や会社の存在意義は何か、お客さんから見た自分たちの存在理由を明確にしよう。今回の学びとして最後に残しておきたいメッセージです。


まとめ


今回は PDF と鉄道会社のマーケティング近視眼の話から、高い次元で存在意義を持っておく重要性についてでした。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

マーケティング近視眼
  • 人は視野が狭くなりがち。大局的な判断ができなくなる
  • 自分たちの事業領域や存在意義を局所的に捉えると業界の外からの変化を捉えられず、衰退につながってしまう
  • 例えばかつてのアメリカの鉄道会社。「マーケティング近視眼」 の説明でよく出てくる話

高い次元での存在意義
  • 教訓として残しておきたいのは意識して視野を広げること。見る領域の空間的な広さ、長い時間軸
  • 自分 (たち) は何者なのか、お客さんへ提供している本質的な価値は何か
  • 高い次元での自己認識をし存在意義を定義しよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。