投稿日 2022/10/05

ある卸売企業の KPI 設定に学ぶ、顧客視点になることの本質


今回のテーマは、顧客視点です。

おもしろかった対談記事をご紹介し、マーケティングに学べることを掘り下げます。

✓ この記事でわかること
  • 楠木建さんと西口一希さんの対談記事
  • 在庫回転率の KPI に見る 「売り手と買い手のギャップ」 
  • お客さんの視点になることの本質とは?

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

顧客と企業の利益は相反する


こちらの記事を読みました。

頭では大切だと分かりながら『顧客起点』になれないのはなぜか?|日経ビジネス

楠木建さんと西口一希さんの対談記事です。

顧客と企業の利益は相反するという議論が興味深かったです。以下は引用ですが、後半に出てくる、ある卸企業の在庫回転率の話が印象的でした。

西口氏: 顧客と企業、双方の合理性が合致しないときに顧客側を選べないというのは、おっしゃるとおりだと思います。

楠木氏: 双方の合理性が大きくズレてしまったり、まったく相反したりしてしまうこともよくありますよね。そのときにどちらを選ぶのか、そこに経営の地力が現れるという意味を込めて、御本へのコメントに 「商売の根幹を問う」 という言葉を使いました。

放っておいても自然に起きることや、皆が大切だと思うことを実行するだけなら、僕は経営という仕事はそもそも要らないと考えています。例えば、企業活動において法令順守は当たり前の話です。「法に反することはやめましょう」 と旗を振るのは経営者の仕事でも何でもないですよね。放っておくと、顧客にとってあるべき状態からどんどん離れてしまう項目を見極め、それを守り達成できるように全体を率いていくのが経営者の仕事であり、力量が問われる部分だと思います。

僕の好きな話で例を挙げると、卸売業を営むある企業では、他の卸売業と違って 「在庫回転率」 を一切追求していないんです。経営者の方に理由を聞くと、「在庫回転率は100パーセント、企業の都合だから」 とおっしゃる。「お客様が受け取る価値と何の関係もない指標です、そんなものを追求してどうするんですか」 と返されて、そのとおりだなと思ったんですよね。

西口氏: たしかに、そうですね。在庫回転率を使わないなら何を指標にされているんですか?

楠木氏: 代わりに 「在庫出荷率」 を算出し、指標として一番重視されているそうです。受けた注文のうち現状の在庫から即納できるものの割合ですが、これが高いということは、ものすごい量の在庫を抱えるということです。

西口氏: まさに、企業の合理性とは相反しますね。

楠木氏: ええ。ですがその経営者の方は、こんなふうに話を続けられた。「この商売、3つしか顧客のニーズはないんです。1 すぐ持ってこい。2 今持ってこい。3 いいから持ってこい」 (笑) 。

西口氏: なるほど (笑) 。顧客の立場なら、よく分かります。

楠木氏: 在庫出荷率が高いことは、顧客にとって価値がありますよね。たとえその業界が後生大事に抱えてきた 「在庫をいかに効率よく "回転" させるか」 という合理性を真正面から否定するものだったとしても、在庫 "出荷" 率を追求する。これは、顧客起点の経営の一例だと思います。

買い手には関係のない KPI 設定


在庫回転率ではなく 「在庫出荷率」 を KPI として追求しているのは考えさせられる話です。

ちなみに在庫回転率とは、一定期間内に在庫がどの程度入れ替わったかを示す指標です。例えば、ある商品の平均在庫数が100個で、その期間で200個売れれば在庫回転率は 2 です。金額ベースでも同じ考え方で、平均在庫の価値が10万円の商品が20万円分売れると在庫回転率は 2 となります。

在庫の回転数は、あくまで売り手の話なんですよね。買い手 (お客さん) にとっては何回転しているかはどうでもよく、売り手の都合にしかすぎないわけです。

お客さんにとって大事なのは、必要なものがどれだけ早く届くかです。「いいから持ってきて」 に応えてくれることが重要なんですよね。


顧客視点になることの本質


そろそろまとめに入っていきますが、今回の話から学べるのは 「顧客視点になるとはどういうことか」 です。

顧客の視点になるとは、お客さんが自社をどう見ているかです。もっと言えば、お客さんにとって自社はあくまで one of them にすぎないので、お客さんがどんな景色や世界を見ているかを同じ立場で理解し見ようとすることです。これが本当の意味での顧客視点です。

KPI を1つとっても自社都合のものか、お客さんの価値に直接つながっているかで、お客さんの視点になっているかどうかが表れます。

顧客起点になる重要性はよく言われるが、本当にできているかはあらためて意識したいです。


まとめ


今回は顧客視点について掘り下げました。

最後にまとめです。

✓ お客さんの視点になるとは
  • 顧客視点とは、お客さんがどんな景色を見ているかを同じ立場・目線で理解し見ようとすること
  • 自社はお客さんにとっては one of them にすぎない。お客さんの世界の中という相手の文脈を理解することで、顧客視点になれる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。