投稿日 2022/10/09

クラブでのラグビー中継イベント (お値段22万円) 。Product と Price での差異化

#マーケティング #価格設定 #提供価値


今回のテーマは、差異化です。

おもしろいと思ったラグビー中継の観戦イベントをご紹介し、マーケティングに学べることとして差異化について掘り下げます。

✓ わかること
  • 22万円のラグビー中継イベント
  • どうやってこんな価格に決めたのか?
  • 競合と同じ土俵に上がらない価格設定
  • 高い価格がもたらす体験価値
  • Product と Price での差異化

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

クラブで開催されたラグビー中継イベント


出典: ITmedia

ご紹介したい話題は、ユニークなラグビー中継イベントです。

東京の渋谷でこれまでになかったイベントが開かれ、たくさんの人がヒートアップしていたのだ。場所は、CE LA VI CLUB LOUNGE (セラヴィ クラブラウンジ) 。普段はクラブなどに使われているところに、80人ほどのラグビーファンが詰めかけた。

照明はキラキラしていて、音楽のボリュームは大きい。大型のスクリーンに映し出された試合を DJ が中継して、ゲストが解説する。観客は試合を見ながら、料理やドリンクなどを楽しむ。
ゲストとのトークショーも行われた (出典: ITmedia

最高額は定員7名で22万円


価格はというと、20万円を超えるとのことです。

驚きは、チケットの価格である。一番高い席は、なんと22万円である!

定員7人なので、割り勘すると、1人当たり3万1428円。た、高い。他のチケットを見ても、20万円で定員5人 (1人当たり4万円) 、17万5000円で定員4人 (同4万3750円) 、15万円で定員4人 (同3万7500円) である。庶民の手が届くチケットはないのかしら?と探してみると、最も安いものはスタンディングで (つまり、イスに座ることができない) 1万2500円である。

安いニッポンではちょっと考えにくい値付けであるが、チケットは売れたのだろうか。22万円の席は初日に完売。その後も20万円、17万5000円、15万円の席は売れていって、最終的には7割ほど売れたとのこと。スタンディングも7割ほど売れたそうである。

ちなみに価格ごとの席や場所はこのような配置でした。

出典: ITmedia

どうやって価格は決まったのか


価格の決め方が興味深かったです。

チケットの価格は、どのようにして決めたのだろうか。

プロジェクトのメンバーから 「5000 ~ 1万円でもいいのでは?」 といった声がでてきたが、その案は見送ることに。スポーツビジネスデザイン室の大木茂男さんに聞いたところ、「価格を安くすれば、パブリックビューイングやスポーツバーと同じ土俵にのぼることになりますよね。そうではなく、これまでになかったイベントをやってみようという話にまとまったので、価格は『それ以上』に設定することにしました」 とのこと。

さまざまな案がでてきた中で、試合会場に目をつける。場所は、愛知県の豊田スタジアムである。東京から新幹線の往復チケット、宿泊費、食費などを考えると、1人5万円ほどはかかる。であれば、それに近い金額に設定しても、お客さんは来てくれるのではないかと見込んだ。

前半のまとめ


では一度ここまでをまとめておきます。

  • 渋谷のクラブで開催されたラグビー中継イベントには80人ほどのラグビーファンが集まった。DJ が試合を中継しゲストが解説。観客は試合観戦と共に料理やドリンクも楽しんだ

  • 最高額の22万円の席は初日に完売し、他の高額チケットも順調に売れていった。最終的には7割ほどのチケットが売れた

  • チケット価格の決定方法は、新幹線往復チケットや宿泊費を考慮し、通常のパブリックビューイングとは一線を画した高価格に設定。イベントはパブリックビューイングやスポーツバーとは異なる新しい体験を提供した


学べること


では今回の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

競合と同じ土俵に上がらない


価格の決め方で学びがあります。

一般的なスポーツのパブリックビューイングの価格は1万円前後です。クラブを貸し切ってクローズドな場でのラグビー中継イベントも同じようにする手もありましたが、1万円の価格感だとパブリックビューイングやスポーツバーでの観戦と同じようなものになってしまいます。

これまでにないイベントという期待をしてもらうために、あえて価格を上げて1人当たり5万円ほどに引き上げたわけです。

競合 (パブリックビューイングやスポーツバー) と同じ土俵に上がらずに、競合を過度に意識することなく価格を決めたところに示唆があります。

お客さん視点での納得感


ここまでは売り手の視点なので、逆の立場になったお客さんから見た時に納得できる価格感にすることが大事です。

着眼点がおもしろいのは、ラグビー観戦を東京から愛知に行った場合に必要なお金に見合うような値段にしたことです。

愛知県の豊田スタジアムに行く場合の東京から新幹線の往復チケット、宿泊費、食費などをトータルすると、1人5万円ほどはかかると見立てました。ここに近い金額に設定すれば、お客さんは来てくれるはずというお客さん視点での価格設定なのです。

高い価格というフィルター効果


高い価格設定によって、本気でラグビー観戦を楽しみたい人しか来られないようになっています。価格がフィルターの役割を果たしているわけです。

当日の会場には万単位のお金を払ってもラグビー中継を見たい人しかいません。会場の熱気は否が応でも上がり、全員の一体感が高まります。普通のスポーツバーにはない、もしかするとラグビー場でのリアルでの試合観戦でも起こらないような興奮の中でラグビー観戦ができます。

これが高い価格がもたらす体験価値です。

Product と Price での差異化


一般的な話として競合との差別化をする場合は、商品そのもので違いをつくります。

ご紹介したラグビー中継イベントは、中身の体験でこれまでになかったものを実現したことに加え、価格でも他とは一線を画しました。

マーケティング 4P に当てはめれば、Product (そこでしかできないラグビー観戦体験) と、Price (最高で22万円) の2つで、今までにない価値をもたらしました。

よくある価格を下げてお得感を出すような差異化ではありません。あえて価格を上げることでトータルで楽しさ・充実感などの価値を提供できれば、高い価格でもお客さんは納得してくれるでしょう。

コスト増からの価格転換 (値上げ) だけではなく、これまでの延長ではない新しい価値提供を実現しての価格設定はもちろんハードルは高いですが、マーケターとしてぜひ挑戦したいことです。


まとめ


今回はクラブでのラグビー中継観戦のイベントを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ Product と Price での差異化
  • 高い価格というフィルターがあることで、本当にそれが欲しいと思う人のみが買ってくれる。物にもよるが、例えば同じ熱量の人が集まり一体感が生まれ、お客さんへの価値になる
  • 商品・サービス (Product) で違いをつくるだけではなく、価格 (Price) からも、(値下げやコスト増からの値上げではない) 高い価格からの差異化と価値提供ができないかを考えてみよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。