投稿日 2022/10/18

20年ぶりに復活したサーモス 「保冷炭酸飲料ボトル」 に学ぶ、過去の失敗の捉え方


今回は、「本当に競う相手は、変わり続けるお客さんのニーズである」 という話です。

おもしろいと思った炭酸飲料ボトルから、マーケティングに学べることを掘り下げます。

✓ この記事でわかること
  • サーモスの 「保冷炭酸飲料ボトル」 
  • かつては早すぎた商品の復活
  • 過去の失敗の捉え方 (学べること) 
  • お客さんのニーズ、背後にある心理と行動に目を向けよう

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

サーモスの 「保冷炭酸飲料ボトル」 


出典: 家電 Watch

ご紹介したいのは、サーモス社の 「保冷炭酸飲料ボトル」 です。

炭酸飲料やビールなどを入れて、炭酸の冷たさを保ちながら持ち運んで飲めるボトルです。


実は、サーモスの炭酸対応保冷ボトルは2000年に発売していました (真空断熱イージーキャップボトル (FDD-500) ) 。しかし、その後2004年に終売となっています。

今回のニュースリリースには、次のように詳しく書かれています。

サーモスでは、初めてとなる炭酸飲料対応ボトル 「真空断熱イージーキャップボトル (FDD-500) 」 を2000年に発売しています。

当時、スポーツボトルのラインアップ拡充を検討する中で、水筒に入れることが難しいとされていた炭酸飲料に着目しました。試行錯誤しながら、ガスの圧力によりフタが開きにくくなる、中せんが外れるなどの現象に対応できる新たな飲み口や中せん構造を開発。2004年まで販売しました。

その後、炭酸飲料の需要の高まりと 「炭酸飲料を冷たいまま持ち運びたい」 とのお客さまの声を受け、新たな炭酸飲料対応ボトルの開発に着手。サーモスが培ってきた技術を駆使し、シンプルな構造でお手入れしやすく、普段ご使用いただいているボトルと同じ感覚で使える仕様を目指し改良を重ね、約3年をかけて本製品の発売に至りました。

2000年当時も技術的には良かったのかもしれませんが、炭酸飲料を水筒に入れて持ち運びたいというニーズは今ほどはなかったのでしょう。振り返ってみると、市場に出すのが早かったわけです。

しかし近年の炭酸水への注目などを受けて、保冷炭酸飲料ボトルは再び製品化されたのが今回の話です。


学べること


サーモスの 「保冷炭酸飲料ボトル」 から、学びとして掘り下げたいのは2つです。

✓ 学べること
  • 過去の失敗の捉え方
  • 市場環境を理解する方法

では順番に見ていきましょう。

 「昔やってダメだったから今度もダメ」 は本当か?


企業でよくある新しい企画アイデアの反対意見に、「それは昔やってダメだったから、どうせ今度もうまくいかない」 があります。

今回の事例が教えてくれるのは、この見立てはいつも正しいのかということです。

 「昔やってみて失敗したのだから、今やっても失敗する」 という考え方の前提にあるのは、取り組んだ環境など自分たちが置かれた状況は変わっていないということです。

もし前提が変わらず同じであれば、次にまたやっても失敗する可能性は高いでしょう。しかし一歩立ち止まって掘り下げたいのは、前提がどうなっているかです。

市場環境という前提


マーケティングに当てはめれば、前提の1つが市場環境です。

もう少し解像度を上げると、既存顧客や未顧客 (見込み客) 、競争相手です。特に、未顧客と顧客の価値観やものの捉え方 (メンタルモデル) などの心理、やっている行動です。

以前と今で前提が変わっていれば、「昔ダメだったから、またやっても失敗する」 というロジックは成り立ちません。

サーモスの保冷炭酸飲料ボトルで言えば、2000年代前半と2022年では、炭酸飲料への生活者の認識や飲まれ方は異なります。特に炭酸水は2000年頃は、アルコールを割って飲むために使うのが主な利用用途だったはずです。

今はそれ以上に、ミネラルウォーターやお茶と同じように炭酸水をそのまま飲みます。保冷できるボトルで炭酸を持ち運びたいというニーズが生まれたわけです。

常に変わり続けるお客さんのニーズ


マーケティングで大切にしたいのは、自分たちが競っている相手は誰かという認識です。

一般的な考え方は、争っている相手とは競合他社です。この捉え方に加えて、強調したいのは 「自分たちが本当に注力すべきは、常に変わり続けるお客さんのニーズである」 ということです。

そして、ニーズの奥にあるお客さんの 「心理」 と 「行動」 です。お客さんの立場になって、お客さんの心理を読み、行動を予測し続けることがマーケティングでは大事です。


まとめ


今回はサーモスの保冷炭酸飲料ボトルを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

過去の失敗の捉え方
  • 「昔やってみて失敗したのだから、今やっても失敗する」 の前提は、自分たちが置かれた状況が変わっていないこと
  • 前提の1つが市場環境 (既存顧客や未顧客, 競争相手) 。特に未顧客と顧客の価値観や捉え方などの心理、やっている行動
  • 以前と今でこれらの前提が変わっていれば、「昔ダメだったから、またやっても失敗する」 というロジックは成り立たない

顧客ニーズの捉え方
  • 自分たちが本当に注力すべきは、常に変わり続けるお客さんのニーズ
  • ニーズの奥にあるのはお客さんの 「心理」 と 「行動」 。お客さんの立場になって、お客さんの心理を読み、行動を予測し続けよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。