投稿日 2022/10/20

1999年当時は画期的すぎた WebTV の失敗談に学ぶ、新しい商品のマーケティングでの 「二段階のニーズ創出」 の重要性


今回のテーマは 「新しい商品をどうやってマーケティングしていくか」 です。

興味深かったあるプロダクトの失敗事例をご紹介し、マーケティングに学べることを掘り下げていきます。

✓ この記事でわかること
  • 早すぎたプロダクト 「WebTV (ウェブティービー) 」 の失敗談
  • 新しい商品のマーケティング方法を解説
  • 二段階のニーズ創出
  • 「売り手の目的」 ≠ 「買い手の目的」 

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

早すぎた WebTV の失敗


こちらの記事を読みました。

 「CMO に求められる2つの条件と、マーケターに伝えたい3つのこと」 - Preferred Networks CMO 富永朋信インタビュー|Marketing Native

インタビューで語られていた中で考えさせられたのは、

  • WebTV の失敗談 (メンタルモデルの捉え方) 
  • マーケティングの人間理解とは
  • 信頼蓄積の重要性

でした。

今回の記事は1つ目の 「WebTV の失敗」 を取り上げます。

出典: Wikipedia

1999年頃の話で、WebTV はアナログの電話回線とテレビを接続するだけで、パソコンがなくてもインターネットができるプロダクトです。当時としては画期的なものでした。

しかし富永さんは WebTV の取り組みはうまくいかなかったと言っています。

―― うまくいかなかった経験で、学びになったこともあれば教えてください。

2社目に勤めたウェブ・ティービー・ネットワークス時代の1999年頃の経験が今も活きています。

私はそこで、「WebTV」 という専用端末を日本で普及させる仕事をしていました。WebTV はアナログの電話回線とテレビを接続するだけで、PC がなくてもインターネットができる、当時としては画期的なプロダクトです。

マイクロソフトの強力な営業力で全国の家電店に配荷を作り、テレビ CM も大々的に流しました。また、値つけも PC よりはるかに安く、ランニングコストも毎月2000円。「これは売れるだろう」 と思っていたのですが、売れませんでした。

―― なぜですか。

理由はいくつもあると思います。その中で一番大きかったと感じるのは、「インターネットとは何か」 というメンタルモデル (無自覚の中に持つイメージや思考の前提) の理解・共有が当時の日本にあまりなかったことです。

だから 「WebTV が良い」 と伝えるためには、まず 「インターネットとは何か」 「インターネットで何ができるのか」 「インターネットを使うと、なぜ良いのか」 をコミュニケーションして概念を社会と共有し、その上で 「インターネットを使うなら WebTV がお得で便利」 という二重の認知形成が必要だったのです。

それをせず、インターネットのメンタルモデルが作られていない中で、勝負をかけたのが敗因だったと思います。それどころか、商品名が WebTV なので、テレビだと見なされました。「テレビなのに追加コストで毎月2000円かかるなんて、なかなか理解できないだろうな」 と今となってはわかります。

学べること


WebTV から学べるのはマーケティングでの 「ニーズ創出」 についてです。

教訓として残しておきたいのは、新しい商品には 「見込み客からのニーズを二段階でつくり出す必要がある」 ということです。

二段階目の一段階目は新しい商品が受け入れられるための 「下地づくり」 です。

新しい商品への下地


WebTV に当てはめると、WebTV が1999年当時の生活者に買ってもらうためには前提である下地が整っている必要がありました。インタビューで語られていた表現を使えば下地とはメンタルモデル (ものの見方や思考をつくる価値観や思い込み) です。

WebTV は2000年頃の時代では画期的でした。電話回線とテレビに接続するだけでテレビでネットが使えるという商品・サービスでした。

ただし、いわばこれは売り手の発想です。買い手である普通の生活者のネットの知識はここまで到達していなかったわけです。生活者はもっと手前にいて、そもそもネットとは何か、何ができてどう便利なのかが明確になっていない段階です。

ネットへの利便性や魅力を理解していないかぎり、テレビで簡単にネットが見られる WebTV の提案をしても価値が伝わりません。

以上が WebTV が受け入れられる 「下地」 です。一段階目としてネットへのニーズをつくり、ここをクリアして初めて WebTV というプロダクトへのニーズが生まれるのです

前提は何か


学びとして一般化すると 「自分たちがやろうとしている前提を捉える重要性」 です。

WebTV で言えば、商品・サービスの前にネットへの人々の認知度や理解度合いを高めていかなければいけませんでした。

この前提を見落としたままで進めても、前提の上に成り立っているマーケティング施策や販売方法は機能しないのです。

売り手の目的は、買い手の手段


もう少し学びへの着想を広げると 「売り手と買い手の認識ギャップ」 に話がつながります。

売り手は商品やサービスを売ることが目的です。一方の買い手は商品・サービスを使うことで便益を得ることが目的です。買い手には、商品はあくまで目的のための手段にすぎません。

ここに両者の認識の不一致があります。売り手の目的は 「買い手の手段」 なのです

WebTV は買い手にとってはネットを気軽に簡単に使うためのツールです。しかし2000年頃の生活者には、そもそもネットを使う目的や利便性などの価値イメージがなかったので、WebTV というツール (手段) は魅力的に映らなかったわけです。

確かに商品そのものは画期的で、技術的にもよくできていたかもしれません。WebTV から学べるのは生活者やお客さんからの認識やニーズをつくる難しさと大切さです。


まとめ


今回は WebTV の失敗談をご紹介し、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

✓ 新しい商品のマーケティング
  • 買い手にとって商品は目的のための手段。目的へのニーズがあるから、商品を買う
  • 新しい商品が受け入れられるためには下地を整える。カテゴリーレベルでのニーズをつくり、その後にプロダクトの価値を訴求すると良い
  • 新しい商品には見込み客からのニーズを二段階でつくり出そう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。