投稿日 2023/08/28

ウエルシア薬局の PB 商品名に学ぶ、お客さんの心をつかむネーミングの秘訣

#マーケティング #ネーミング #顧客インサイト


商品の名前は、ただ単にそれを呼ぶためだけにあるのでしょうか?それとも、もっと深い意味を持たせられるのでしょうか?

今回は、ウエルシアのプライベートブランド (PB) の商品名が、どのようにお客さんの心に響き、購入につながっているのかを掘り下げます。

お客さんの心をつかむネーミングの秘訣をぜひ一緒に探っていきましょう。

ウエルシア薬局 PB の商品名


商品名は 「誰も傷つけたくないスポンジ」 (出典: ウエルシア薬局

取り上げたいのはウエルシア薬局の PB 商品です。

2021年7月に発売し、SNS でも話題になったのが 「誰も傷つけたくないスポンジ」 だ。同商品は、水切れがよく、耐久性に優れたウレタン素材を使用したキッチンスポンジ。形は手になじむようなウェーブ状になっており、泡立ちと水きれの両方を考えた穴が開いている。

ウエルシア薬局によると、一般的なスポンジに使われている不織布やナイロンと比較して柔らかいため、デリケートな食器をやさしく洗えるのが特徴だという。また、スポンジの一部に植物由来素材を使用しており、環境にも配慮している。つまり、食器と地球環境にやさしいので、「誰も傷つけたくないスポンジ」 というわけだ。

ユニークなだけでなく、商品名が長いものもある。それは 「ブラシはいらないそう思う人に使ってほしいフェイスブラシ」 だ。

商品名の意図について担当者は次のように説明する。

 「ブラシでメイクすることは、メイク初心者に難しそうというイメージがあり、ハードルが高いかと思います。その中でも、チークブラシ、アイシャドウ、アイブロウブラシは付属のブラシが商品に付いていることもあるので、ブラシを使用することは比較的容易に受け入れられるかと思います。

ですが、フェイスパウダーは、ブラシに変えただけで簡単に薄く均一にパウダーが広がり、崩れにくさ & キレイなプロ級な仕上がりになります。

『ブラシでメイクする? しかも仕上げのフェイスパウダーをブラシでする? そんなの私には必要ないよ!』と思っている ―― そんな方にこそ使ってみてほしい! そんな思いをネーミングにしました」 

学べること


ではウエルシア薬局の PB 商品から、商品名に焦点を当てて学べることを掘り下げていきましょう。

ユニークな商品名にする効果


ウエルシアの PB 商品のユニークな商品名の特徴は、消費者に気づきを与えることです。

ご紹介した 「誰も傷つけたくないスポンジ」 という商品名は、単に 「スポンジ」 と名付ける以上に、消費者に訴えるメッセージ力を持っています。商品名を見たときに 「自分の使っているスポンジは知らないうちに誰かを傷つけているの?」 という疑問から、消費者の中に新たな気づきや考え方を生み出します。

また、「ブラシはいらないそう思う人に使ってほしいフェイスブラシ」 という商品名は、メイクの時にブラシを使う必要はないと思っていた人に、ブラシの重要性をあらためて見直すきっかけをつくります。

顧客インサイトに響く商品名


マーケティングの観点から見ると、ウエルシア薬局の PB 商品のユニークな名前は 「顧客インサイト」 という心の琴線に触れる役割を果たしています。

顧客インサイトとは、お客さんを動かす隠れた気持ちのことです。普段は意識しない深層心理ですが、そうだと気づかされると態度が変わり行動変容につながる、心の奥に潜む感情や欲求です。

ウエルシアの PB 商品 「誰も傷つけたくないスポンジ」 や 「ブラシはいらないそう思う人に使ってほしいフェイスブラシ」 は、この顧客インサイトを巧みに刺激します。

具体的には、

  • 台所での家事をしているときに穏やかに優しい気持ちでいたい
  • (ブラシなどを使って丁寧にやれば) 自分はお化粧によってもっと輝いた女性になれる

などのお客さんの心の琴線に触れ、「潜在的な気持ちや奥にある望み」 が 「そうなりたい欲望」 として呼び起こされるのです。

インサイトからの価値提案


ここにマーケティングでの重要な要素があります。お客さんの価値観、奥にある望みや不満までを理解し、お客さんにとっての価値にして提案することです。これが 「顧客インサイトからの価値提案」 です。

ウエルシア薬局の PB 商品のネーミングから学べるのは、商品名自体が価値提案の一環にできるということです。商品名を通じて、お客さんの顧客インサイトに訴求することで、その商品がもたらす価値を伝えられます。

ネーミングは、ただ単に商品を呼ぶ名称としてだけでなく、お客さんの心に響く価値を伝えるメッセージとしての重要な役割を担うのです。


まとめ


今回はウエルシア薬局の PB 商品を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 顧客インサイトを捉えた商品名は、普段はお客さん自身も意識してないが、そうだと気づけば態度が変わり行動変容につながる潜在的な感情や欲求を刺激する

  • このような商品名は価値提案の一環として機能する。商品名は商品を呼ぶ名前としてだけでなく、価値を伝えるメッセージの役割を果たす


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。