投稿日 2023/08/31

ニッチ市場を狙え!市場を創造する 「リバース STP」 というマーケティング戦略

#マーケティング #ニッチ市場 #リバースSTP


どうすれば、ビジネスで新たな市場を生み出せるのでしょうか?

マーケティングには STP という定石とも言えるアプローチが存在します。実はもう1つ、STP を逆にした 「リバース STP」 という方法もあります。

今回は、小林製薬の経営やマーケティングを入口に、STP とリバース STP というレンズから新しい市場をつくる秘訣に迫っていきましょう。

小林製薬のアイデアをヒットさせる経営


ご紹介したい本は、小林製薬 アイデアをヒットさせる経営 - 絶えざる創造と革新の追求 (小林一雅) です。


本の内容は、著者である小林製薬・会長の小林一雅氏が、これまでの小林製薬の事業を振り返って、どういう経営をしてきたかを綴ったものです。

構成は大きく二部構成になっています。前半は商品開発、マーケティング、販売についての事業の目線で、後半は経営の話です。

小林製薬のキャッチコピー 「あったらいいなをカタチにする」 は有名ですよね。この言葉に象徴されるように、小林製薬の商品開発やマーケティングは、今までにありそうでなかったものを他社よりも先んじて開発し、狭く深く刺さる新商品を出していくアプローチです。

それだけニッチな市場でシェアを取りにいくわけですが、これを本書では 「小さな池で大きな魚を狙う」 と表現されていたのが印象的でした。ニッチ市場 (小さな池) で、高いシェア (大きな魚) を目指すという意味です。

小林製薬で有名な商品に 「熱さまシート」 や 「ブルーレット」 があります。

小林製薬では 「わかりやすさ」 を重視していて、パッケージ・商品名・広告を生活者が見聞きしたときに、「内容が理解でき欲しいとパッと思えるか」 を徹底的に追求します。熱さまシートは名前の通りで、ブルーレットはブルーの洗浄液をトイレに使用することからのネーミングです (発売当時は液体は青でしたが最近は透明が主流) 。

この本は、小林製薬の事例から商品開発やマーケティングを学べる1冊です。本の後半の経営についてもおもしろかったです。


マーケティング STP


先ほどの 「小さな池で大きな魚を狙う」 という、限られたニッチ市場でシェアトップを実現するためには、どうすればいいのでしょうか?

ポイントは、他にはないユニークな価値提供から明確なポジションをとることです。

ポジショニングを実現するために、マーケティングでは 「STP」 という方法があります。STP とは、Segmentation (セグメンテーション) 、Targeting (ターゲティング) 、Positioning (ポジショニング) の頭文字をとったものです。

もう少し具体的にご説明すると、次のようなステップで STP を進めます。

  1. セグメンテーション: 市場の分解
    市場を細分化し、類似のニーズや消費特性を持つグループを見つける。たとえば顧客属性 (年齢, 性別, 居住地域, 生活スタイルなど) 、ニーズ、価値観などの切り口を使い市場を分ける

  2. ターゲティング: 細分化した市場の中から重視するターゲット市場の選定
    自社がニーズを満たせる顧客グループを決める。市場の大きさ、成長性、競争状況、自社のリソースと解決能力などを選定基準にする

  3. ポジショニング: ターゲット市場でのポジションの確立
    選定したターゲット市場 (顧客グループ) において、自社商品・サービスへの認識や価値イメージをつくっていく。お客さんが商品に他社商品とは違う便益を持ってもらうプロセス


リバース STP (PTS) 


マーケティングでは通常は STP の順番で進めますが、あえて順番を逆にするアプローチがあります。それが 「リバース STP (または PTS) 」 という手法です。

はじめに実現したい Positioning (お客さんに持ってもらいたい価値イメージ) を決めてしまい、その positining から逆算してターゲティングをするやり方です。

具体的なステップで 「リバース STP」 を見ていきましょう。

  1. ポジショニング
    最初に自社の商品やサービスが提供する価値を定義する。
    価値とは、お客さんが商品・サービスを使うことで得られる具体的な体験や便益、エモーショナルな感情的価値。
    自社商品がどのように認識され (パーセプション) 、そのためにどう価値提案 (バリュープロポジション) をしていくべきを決める

  2. ターゲティング
    お客さんに提供する価値定義が最も響くであろうお客さんを特定する。
    様々な顧客属性、行動特性、ライフスタイル、求めるニーズ、奥にある望みなどの視点からお客さんになるであろう人たちを深く理解する。顧客理解をもとにマーケティングを企画し実施する

  3. セグメンテーション
    定義された価値定義 (ポジショニング) に響くターゲット顧客に商品を訴求し、価値を提案する。
    集客できたお客さんを集団としてグループ化し、市場全体におけるその顧客グループの規模や性質、他との違いを相対的に把握する。結果として、自社商品からの提供価値に需要がある新たな市場セグメントが明確になる

以上が、一般的なマーケティング手法の STP を逆にした 「リバース STP (PTS) 」 のアプローチです。

リバース STP は、新しい市場をつくり出したり、競争の少ないニッチな領域で生きるために使えるアプローチです。


まとめ


今回は小林製薬の商品開発やマーケティングからの着想として、どうやって新しい市場をつくるのかを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティング STP : 市場を細分化し (Segmentation) 、重視する顧客グループを定め (Targeting) 、狙う市場で独自のポジションを確立する (Positioning) 。マーケ戦略の定石

  • リバース STP (PTS) : 最初に提供したい価値を定義し (Positioning) 、その価値に共感するお客さんを見つけ価値提案を行う (Targeting) 。結果として市場全体の中に自分たちがビジネス活動をするセグメントができる (Segmentation) 

  • リバース STP は、新しい市場をつくり出したり、競争の少ないニッチな領域で生き抜くために有効な戦略

STP は PDCA において Plan に時間をかけ、リバース STP は Do と Check に重心を置いているイメージです。


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。