投稿日 2023/08/10

高齢者向けロボットサービス 「あのね」 。本質的価値からお客さんの心をつかむマーケティング

#マーケティング #顧客理解 #価値提供


マーケティングを成功させるために大切なのは、お客さんが本当に求めていることは何かを理解することです。では、どうやって見つければいいのでしょうか?

今回は、高齢者向けのロボットサービス 「あのね」 の事例から、お客さんが望んでいる本質的な価値を見つけ、ビジネスを成功させる方法を探ります。

お客さんの心をつかむマーケティングをぜひ一緒に見ていきましょう。

人のぬくもりのある話相手ロボット


セコムと DeNA が独り暮らしの高齢者向けに、ロボットを使ったコミュニケーションサービス 「あのね」 を開始しました。

ユカイ工学のロボット 「ボッコエモ」 を通して会話をする (出典: BOCCO emo

返答は AI ではなくオペレーター


このサービスの特徴は、高齢者への会話の返答を AI が行うのではなく、人間のオペレーターが遠隔操作で返事をする仕組みになっていることです。

 「おはようございます、としこです。3月1日、今日はなんだかいいことがありそうな気がしますよ」 。ロボットの胴体部分にあるボタンを押して話しかけると、「としこさん、月初めはなんだか気分がいいですよね。いいことがありますように」 と数十秒後にロボットから返事が返ってくる。

 (中略) 

こうした会話を実現させているのがオペレーターの存在だ。同サービスでは AI ではなく、人が返信操作をしていることが特徴だ。DeNA がオペレーター業務やデータ管理システムの運用、セコムが販売や顧客へのサポート業務を担当する。ユーザーの発言は自動で文字起こしされ、サーバーへ送信される。オペレーターがサーバー上で発話内容を確認し、一人ひとりに合わせた内容でテキストを返信。ロボットはテキストデータを受信し、その通りに返事をしゃべるといった仕組みだ。

内容を確認してから人力で返信するため、ロボットが返答するまでに数十秒から1分程度のラグがある。米アップルの 「Siri (シリ) 」 や米アマゾンの 「アレクサ」 など、音声認識 AI がすぐ応答するのに比べると、かなりのんびりとしたやりとりだ。

それでも 「高齢者は答えが欲しいのではなく会話を求めている。人とのつながりや人間らしさを大事にしたい」 (セコム企画部の松本敏弘氏) としてあえて人力を選んだ。

AI を使わなかった理由


AI によるスピーディーな返答からの会話よりも人のオペレーターを選択したのは、事前の調査で音声認識 AI の 「不」 を見出したからでした。

開発時に一般的な音声認識 AI の活用についてヒアリングすると、「AI が発言を聞き取れなかったり、『わかりません』などと繰り返し返答されたりすることがストレスで利用をやめてしまう」 「聞き耳を立てられているようで抵抗を感じる」 といった声があったという。「あのね」 ではボタンを押して自分のタイミングで声を吹き込み、オペレーターの返事を待つ仕組みにたどり着いた。

サービス開始前に実施した実証実験では、返答までの時間も1分程度であれば気にならないという結果だった。「名前を呼んでもらえてうれしい」 「声を発する場所があって安心できる」 と好反応だったことから、事業化を決めた。

学べること


では、ロボットを使ったコミュニケーションサービス 「あのね」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

この事例からのマーケティングへの学びとして、「高齢者は答えが欲しいのではなく、会話を求めている」 という観点から深掘りしていきます。

お客さんが求める本質的な価値


マーケティングにおいて重要なことは、商品やサービスのお客さんにとっての本当の便益を見出し、お客さんに価値として提供することです。

お客さんにとっての本当の便益とは、例えば車を販売する企業では、お客さんが求めているのは単に移動手段だけではなく、車を自在に操れるドライブの爽快感や満足感、安全性、ステータスの象徴などの感情的な価値です。また、コーヒーショップでは、お客さんが求めているのはただコーヒーを飲むだけではなく、やすらぎ、社交の場、仕事などに集中できることが重要な要素となります。

 「あのね」 の便益


高齢者向けコミュニケーションサービス 「あのね」 では、AI ではなくオペレーターが遠隔操作で返事をするシステムが採用され、24時間365日いつでも会話が可能な環境を提供しています。

この事例で興味深いのは、利用者である高齢者にとっての本質的な価値は 「会話で答えを得ること」 ではなく 「会話そのもの」 だと捉えていることです。

背景にあるのは、想定利用者である高齢者へのヒアリングでわかった 「音声認識 AI への不満」 でした。AI が発言を聞き取れなかったり、「わかりません」 と繰り返し返答されることがストレスで利用されなくなるといった問題点でした。

そこで、音声認識 AI ではなく人間のオペレーターが人力で返答することで、より人間らしい温かみのあるコミュニケーションを目指すサービスにしたわけです。

マーケティングの役割


マーケティングで大事なのは、お客さんが本当に求めている望み、実は解消して欲しいと感じている不満など奥にある心理までを理解し、これらを満たす方法を実現することです。高齢者向けロボットサービス 「あのね」 の事例は、その重要性を示しています。

商品の機能や特徴だけではなく、商品がもたらす心の豊かさや安心感などの本質的な価値を見極め、お客さんに提案し、価値をもたらすことがビジネスの成功へとつながります。


まとめ


今回は、ロボットと人のオペレーターを活用した高齢者向けコミュニケーションサービス 「あのね」 を取り上げ、学べることを掘り下げました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングで大事なのは、お客さんが本当に求めている望み、実は解消して欲しいと感じている不満など奥にある心理までを理解し、これらを満たす方法を実現すること

  • 商品やサービスのお客さんにとっての本当の便益を見出し、お客さんに価値を提案する。顧客理解からの価値創出がビジネスの成功へとつながる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。