投稿日 2023/08/16

貝印 AUGER に学ぶ、「売らんかな」 ではないマーケティングの真の役割

#マーケティング #価値提案 #前向きな変化


マーケティングの役割とは何でしょうか?

お客さんに 「売ろんかな」 という姿勢が、強く出すぎていないでしょうか?

今回は、貝印のカミソリブランド 「AUGER (オーガー) 」 のマーケティング事例から、これらの問いについて考えていきます。一緒に新たな学びを得て、仕事に活かしてみませんか?

AUGER のマーケティング戦略


出典: 貝印

ご紹介したいのは、貝印のカミソリ 「AUGER」 の事例です。

戦略の再考と新たなインサイトの発見


まずは事例の背景から見ていきましょう。貝印は、調査から消費者の実態を次のように捉え、戦略に反映させました。

戦略を練り直すにあたり、齋藤氏 (引用者注: マーケティング本部 広報宣伝部 齊藤淳一氏) はこれまでの調査結果を再度見直した。MMD 研究所とスマートアンサーによるスマートフォンに関する調査 (2020年12月実施) からは、20代男性 (n=259) の過半数が一日に2時間以上スマートフォンを見ていることがわかった。

 「私自身、浴槽に浸かっている時間もスマホが手放せません。多くの男性がスマホを手放せなくなっている実態から『スマホ疲れ』というインサイトを導き出しました」 (齊藤氏) 

さらに、貝印が全国の20 ~ 39歳の男性計800人を対象に行った調査 (2020年9月実施) からは、8割近い人が髭剃り中に 「無心になる」 との回答結果が得られた。これらの結果を総合し、齊藤氏は 「身だしなみの時間を通じて、スマホ疲れに陥っている人々は心と身体を整えることができる」 と予想。そして 「身だしなみを整える時間」 こそが AUGER ブランドの提供価値であると気づき、戦略とメッセージを捉え直した。

本当に求めていること理解と価値提供


マーケティングで大事なのはお客さんの理解です。

自社商品をお客さんが使う時間の本質的な意味合いを見極めるためには、商品のことだけではなくお客さんのニーズ、その奥にある望みや不満、何に価値を見出しているかの価値観、行動、嗜好、ライフスタイルなどを広く深く見にいくことが大事です。

具体的には、アンケート調査だけではなくインタビューや観察調査などを活用し、お客さんのことを知り 「1人の人間を学ぶ」 という姿勢になることで深い洞察を得ることができます。

こうしたお客さんの理解にもとづき、自社商品やサービスがお客さんのどのような課題を解決し、どんな価値を提供しているのかを明確にします。

貝印の例では、男性用カミソリが使われる時間を 「身だしなみの時間を通じて、スマホ疲れに陥っている人々は心と身体を整えることができる」 と捉え直しました。ブランドの提供価値を新たに再定義したわけです。


マーケティングの役割


貝印の事例から、マーケティングの役割が見えてきます。

齊藤氏は、本セッションで紹介した 「剃るに自由を」 や AUGER の企画の根底にある、貝印の顧客理解法について次のように解説する。

 「少しのきっかけや体験でも、消費者は行動を変えてくれます。重要なのは、マーケターが買わせようとするのではなく、消費者の気持ちの変化を起こすことに全集中することです。貝印では、その変化の兆しを n=1 から見つける姿勢を大切にしています」 (齊藤氏) 

マーケティングに求められるのは、お客さんの気持ちの変化を起こすことです。

お客さんの気持ちを変化させる


お客さんの気持ちの変化とは、お客さんが商品やサービスに対して抱く態度や認識、感情が変わることを指します。

具体的には、お客さんが商品に対して興味を持つようになったり、親近感を抱いたり、満足感や喜びを感じ、商品のことを信頼するようになることです。これらの変化はお客さんのブランドや商品に対する感情を深め、購買行動を促します。

どうやって起こすのか


お客さんの気持ちの変化を起こすためには、以下のような方法があります。

  • お客さんのニーズや価値観を理解し、それに適した商品やサービスを提供する
  • ストーリーテリングやコンテンツマーケティングを活用し、お客さんの感情に訴えかけることで興味や共感を引き出す
  • インフルエンサーや口コミを活用し、信頼性や権威性を高める
  • 顧客サービスやアフターサービスを充実させ、お客さんの満足度を高める

マーケティングの役割は、お客さんの 「前向きな変化」 を起こすことにあります。

マーケターは商品やサービスを 「売らんかな」 という姿勢を出しすぎるのではなく、お客さんの態度変容と行動変化を引き起こすことに集中するべきです。

お客さんのニーズや価値観を理解し、感情に訴えかけるストーリーテリング、信頼性を高めるコミュニケーション施策、顧客サービスの充実など、さまざまな手法を駆使して、お客さんの心に響くマーケティングを展開することがポイントです。


まとめ


今回は貝印の 「AUGER」 の事例から学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングの役割は 「お客さんの前向きな変化」 を起こすこと

  • お客さんの望みや不満、価値観を理解する。顧客理解から、相手の文脈に寄り添った価値提案からお客さんの態度や行動の変化を促す

  • 感情に訴えかけるストーリーテリング、信頼性を高めるコミュニケーション施策、顧客サービスの充実などからお客さんの心に響くマーケティングを展開する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。