投稿日 2023/08/06

選ばれる商品への道。「今治のホコリ【着火剤】」 に学ぶ、強みのつくり方

#マーケティング #強み #選ばれる理由


あなたの会社が提供する商品やサービスの強みは何ですか?それは他にはない、独自性があるものでしょうか?

今回は、"独自の強み" のつくり方を紐解きます。「今治のホコリ【着火剤】」 というユニークな商品から、ぜひ一緒に学んでいきましょう!

今治のホコリ【着火剤】


出典: 西染工

愛媛県今治市の染色メーカーである西染工 (にしせんこう) が開発した、キャンプなどでの火起こしに使用できる着火剤 「今治のホコリ【着火剤】」 (以下では 「今治のホコリ」 と表記します) がヒットしています。

タオルの染色工程で発生する綿 (わた) ぼこりを使った着火剤で、ファイヤースターター (火打ち石) からの火起こしが簡単にできます。ライターでの着火に比べて非日常感を味わえることもあり、キャンプ好きの人たちの間で 「今治のホコリ」 は人気を集めています。

開発の背景


ユニークな着火剤である 「今治のホコリ」 の開発背景について見ていきましょう。

西染工は、創業70年の老舗染色会社。近隣のタオルメーカーの依頼を受け、タオルの染色を担ってきた。

高温の染液に生地を浸し、機械乾燥して色を定着させる染色は、大量のエネルギー資源を必要とする産業。同社は約20年前から環境負荷を減らそうと取り組み、「配管を断熱材で覆う」 「熱効率のいい機械を導入する」 、などの省エネ策をとってきた。商品開発の傍ら、代表の下、その推進役を担当してきたのが福岡氏だ。ただ 「大規模な設備投資以外にできることはやり尽くした状態で、近年は手詰まり感が強まっていた」 (西染工の福岡友也商品事業部長) という。

地球環境保護につながる別の切り口はないか。目に留まったのが工場の片隅に置かれてきた袋詰めの綿ぼこりだった。染色したタオルを乾燥させると、乾燥機のフィルターには綿ぼこりが付着する。同社の場合、その量は1日当たり120リットルのごみ袋2つ分 (240リットル) に及び、当然、廃棄費用も発生していた。

綿ぼこりは、たまると電気系のショートなどで、工場火災を誘引する染色工場の "やっかいもの" 。だが、その特徴から 「ふと、その燃えやすさを生かし、着火剤を作れないかと思いついた」 (福岡氏) という。

キャンプでたき火をする際、ファイヤースターターで火を起こすには、火花を燃え移す 「火口 (ほくち) 」 が必要。福岡氏は趣味のキャンプでほぐした麻ひもを火口として使ってみたが、一度では着火しないことも多かったという。

ところが試しに綿ぼこりを火口にすると、拍子抜けするほど簡単に着火できることが判明。検証を重ねると、10g の綿ぼこりがあれば、5分程度は燃焼し続けることも分かった。炭に着火させる場合、着火剤は5分程度燃焼し続ける必要があるが、綿ぼこりはその条件もクリアしていた。

市販の着火剤には化石燃料が含まれ、見た目も黒や茶色など地味なものが大半。それに対し、今治タオルの染色時に出る綿ぼこりは綿 100% で、色もカラフル。さらに、本来はすべて捨てるものを、そのまま生かせる。「従来品と差別化できるポイントが多く、『これはいける』と確信した」 (福岡氏) 。

社内からは 「『廃棄物を商品にするなんて』と大ブーイングを浴びた」 が、綿ぼこりの優位性を考え商品化にこぎつけた。

デザインは若手女性社員に一任


興味深いのは機能性だけではなく、今治のホコリはデザイン面も注力している点です。

ヒットの要因はいくつもある。まず工夫をしたのは容器だ。「高い染色技術の証明」 である綿ぼこりのカラフルさを分かりやすくアピールするため、透明なプラスチック製を選んだ。一方、綿ぼこりをどう詰めて商品に仕立てるかは、商品事業部の20代の女性社員5人に一任したという。

 「50代男性である自分が詰めると、カラフルさを生かしきれずなぜか迷彩調になる (笑) 。赤と白の綿ぼこりを "いちごミルク" に見立てるなど、かわいらしい色合いの試作品を苦もなく作る彼女たちを見て、『オジサンの出る幕ではない』と痛感。SNS を使った発信も任せることにした」 (同) 

 (中略) 

工場で日々、発生する5色程度の綿ぼこりのうち、2 ~ 3色を女性社員の 「各自のセンス」 で取り合わせ、手作業で詰めるため、1つとして同じ商品はない。彼女たちの発案で始めたクリスマス用、バレンタイン用などの期間限定商品も好評を博した。さらに県内のコーヒー専門店の依頼を受け、「カフェオレカラー」 の特注品も制作。臨機応変に小ロット生産できる利点を生かし、今後もこうしたコラボには積極的に応じていきたいという。


学べること


では今回の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今治のホコリからは、他にはない独自の強みをつくり出す方法について学びがあります。

今治のホコリの強み (= 提供価値) 


そもそもですが、強みとは何でしょうか?

マーケティングの視点で捉えると、強みとは他社と比較して他にはない、または他よりも高い価値のことです。

今治のホコリに当てはめれば、ライターでの着火に比べて火がつきやすいという実用性での機能的な価値があります。次に 「デザイン」 の観点から見ると、カラーバリエーションの豊かな綿ぼこりや、季節限定の商品があることも価値です。

さらに 「ストーリー」 の視点で見ると、地元のタオル工場で生じる綿ぼこりを活用した商品物語があることもエコの観点や応援したい気持ちを生み出し、愛着をつくり出しています。

今治のホコリは、「機能」 「デザイン」 「ストーリー」 という3つから他にはない独自の価値を提供しているのです。

マーケティングの本質


ここで、あらためてマーケティングの本質について考えてみましょう。

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 です。

お客さんから選ばれるためには、その商品にはお客さんが自分のお金を払ってでも手に入れたいと感じる価値があることが必要です。価値とは強みでもあり、今回の 「今治のホコリ」 の例では、色々な要素が複合的に結びつくことで、競争力のある 「選ばれる理由」 がつくり出されました。

お客さんから選ばれることは、偶然に頼るのではなく意図的に起こすことが大事です。

そのためには、機能、デザイン、ストーリーを組み合わせて、他にはない独自の価値、つまり強みをつくり出すことが求められます。ここにマーケティングの役割があり、また本質であると言えます。

以上から、今治のホコリの事例を通して見えてくる示唆があります。

他にはない独自の強みをつくり出すためには、さまざまな視点から価値を追求し、それらを組み合わせて 「選ばれる理由」 をつくります。マーケティングの力を発揮する方法であり、結果としてお客さんから選ばれる商品やサービスになるのです。


まとめ


今回は着火剤の 「今治のホコリ」 を取り上げ、学べることを掘り下げました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 強みとは独自の提供価値。価値は 「機能」 「デザイン」 「ストーリー」 の3つから成り立っていると他にない強みになる

  • マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 。お客さんが自身のお金を払ってでも手に入れたいと感じる価値があれば商品は選ばれる

  • 独自の強みをつくり出すためには、さまざまな視点から価値を追求し、それらを組み合わせて 「選ばれる理由」 をつくっていく


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。