投稿日 2023/08/21

商品価値を最大化する秘訣。銭湯から幕を開けたリラクゼーションドリンク CHILLOUT

#マーケティング #提供価値 #シチュエーション


自社の商品の体験価値が最も高くなる時は、どんな場所やシチュエーションでしょうか?

そして、実際に価値を最大化するために、マーケティングは何ができるでしょうか?

今回はリラクゼーションドリンク 「CHILLOUT (チルアウト) 」 の事例からその答えを探り、マーケティングへの学びをぜひ一緒に深めていきましょう。

リラクゼーション飲料 「チルアウト」 


出典: CHILLOUT

ご紹介したいのはリラクゼーションドリンクの 「CHILLLOUT (チルアウト) 」 です。

チルアウトは GABA 、L-テアニン、ヘンプシードエキス、ホップエキスの4つのリラクゼーションサポート成分を配合した飲料です。

チルアウトのマーケティングが興味深かったです。マーケティングコミュニケーションの場として選ばれたのは東京・高円寺の老舗銭湯 「小杉湯」 とのコラボでした。

出典: ITmedia

この施策は成功を収め、売上は初月からコンビニの3倍、最大ではコンビニの25倍を達成しました。

数回にわたってコラボを重ねた。小杉湯での最大の売上本数はコンビニの25倍に上る。小杉湯三代目の平松佑介さんによると、銭湯の鉄板ドリンクであるコーヒー牛乳の売上本数を上回る月もあるという。チルアウトが小杉湯の人気ドリンクの仲間入りを果たした理由について、平松さんは 「体験の分かりやすさ」 を挙げた。

 「小杉湯はチルアウトの体験として、お風呂に入ってリラックスして、チルアウトを飲んで、よく眠れる――を提案しました。この一連の流れがとても分かりやすかったのが、人気になった理由の一つだと思っています」 (平松さん) 

小杉湯のお客さんの中には 「リラックスしてよく眠れる」 という機能性を求めて来店する人もいるという。そこに 「リラックス」 を後押しするチルアウトを接続させたというわけだ。

平松さんは 「体験の分かりやすさ」 について別の事例も挙げる。「初回コラボのときはリラックス効果が期待できるテアニンを含むお茶をお風呂に入れましたが、2回目以降はチルアウトのドリンクに使っている香料をそのままお風呂に入れました。まるでチルアウトに浸かっているかのような体験を届けられたことも大きかったなと。五感を刺激する体験によって、ただのサンプリングよりも強い体験としてお客さんの記憶に残ったと思っています」 (平松さん) 

チルアウトの飲用シーンと合致しそうな施設でサンプリングをすることで認知や体験は広がるだろうが、あくまでそれは一時的なイベントでしかないのかもしれない。平松さんは、チルアウトとのコラボは 「銭湯の体験価値を上げることにもつながった」 と振り返る。

 「小杉湯という場をメディアと捉えてサンプリングをするというケースもありましたが、チルアウトとは一緒にお客さんにリラックス体験を届けるという、パートナー的な位置づけで取り組めました。チルアウトのお風呂に浸かって、湯上りにチルアウトを飲んで、そしたらなんだかよく眠れた――そういう体験を SNS でお客さんが自発的に発信するという好循環が自然に出来上がっていったんです」 (平松さん) 

小杉湯での成功体験を踏まえ、チルアウトは他の銭湯やサウナ施設とのコラボを強化していった。発売当初の課題であった、リラクゼーションドリンクという新市場の開拓は、小杉湯やその他の施設を通じた飲用シーンの設定や市場啓蒙により少しずつ進んでいっているようにみえる。

学べること


では、チルアウトの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

体験価値を最大化するシチュエーション


商品の体験価値を最大化するためには、それが最も輝く場所やシチュエーションを特定することが重要です。ここで言う 「最も輝く」 とは、その商品が提供する価値がお客さんにとって最大限に感じられる状況のことを指します。

例えばリラクゼーションドリンクの場合、忙しい1日を終えた後のリラックスタイムや、気分転換が必要な時などがそのシチュエーションとなります。

こうした 「価値を最大化する状況」 から逆算し、マーケティング戦略やコミュニケーション設計をつくることで、お客さんが商品の魅力を感じ、満足感を高められることができます。

競争の少ないホワイトスペース


今回取り上げたチルアウトの例では、銭湯という場所が有意義な役割を果たしました。

その理由は2つあります。1つ目は銭湯は競合他社の飲料が少ない、つまりホワイトスペースであることです。お客さんがリラックスを求めて訪れる銭湯には競合する飲料が少ないため、チルアウトは銭湯で存在感を示せます。

2つ目の理由は、銭湯という場所がチルアウトの価値を最大化するシチュエーションであるという点です。銭湯や温泉でリラクゼーションドリンクを飲むという体験は、提供するリラックス効果を高め、その体験価値を最大に引き出す絶好の環境と言えるでしょう。

銭湯という場所は、チルアウトにとって商品価値を最大化する上で重要な顧客接点だったのです。

バリュープロポジションの実現


チルアウトの事例には 「バリュープロポジション」 の観点でも学びがあります。

バリュープロポジションとは、① お客さんが求めること、② 自分たちの得意なこと、そして ③ 競合にはできないことの3つの要素で成り立つ価値提案を指します。

チルアウトのバリュープロポジションは以下のようになります。

  • お客さんが求めること: リラクゼーション体験。チルアウトはお風呂上がりのひとときに心地よいリラックスを求めるお客さんのニーズを満たしている

  • 自分たちの得意なこと: 独自のブレンドとリラクゼーション効果のある飲み物の提供。他社の飲料とは一線を画した独自性を持っている

  • 競合にはできないこと: 銭湯とのコラボレーションで、お風呂でのリラクゼーション体験をもたらす。競合他社が簡単に模倣できない体験価値の提供ができている

このようにバリュープロポジションの3つが成り立ち、チルアウトは他にはない価値を消費者に提供しています。


まとめ


今回はリラクゼーション飲料のチルアウトの事例から、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • お客さんにとっての商品の体験価値が最大化となる場所やシチュエーション、利用用途を見極めることが大事

  • そこから逆算し、お客さんに価値を提供する戦略と施策をつくる

  • 独自の価値をつくるために、バリュープロポジションという、① お客さんが求めること、② 自分たちの得意なこと、③ 競合にはできないことの3つを成立させよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。