今回は、ドラッグストアのサツドラの先進的な事例を取り上げます。
いかにテクノロジーとデータを駆使して、店内のお客さんの買い物行動を分析し、売上を向上させているのかを紐解きます。
サツドラの挑戦的な取り組み
出典: ITmedia
「AI カメラ × POS データ × サイネージ」 を活用した広告配信
北海道で約200店舗を展開するサッポロドラッグストアー (サツドラ) が、先進的な取り組みを進めています。
業界に先駆けての AI カメラとサイネージを使った店頭プロモーションです。
仕組みは、AI カメラで取得した店頭での来店客の 「買い物行動データ」 と 「販売データ (POS) 」 をかけ合わせます。店内のサイネージ画面に出す広告を見た人が商品を手に取ったかどうか、買ったかどうかまでを計測できるシステムです。
背景の課題感
まずは取り組みの背景から見ていきましょう。
これまでは、販売データだけの活用では得られる効果は限定的でした。
一般的にドラッグストアは、会員カードからお客さんの年齢や性別などの属性情報を収集し、購買情報とひも付ける ID-POS データを保有しています。しかし、たとえば会員カードを本人ではなく、家族の他の人が使った (例: 妻の会員カードを夫が使用する) 場合は、正しい購買データは取得できません。
EC などのオンラインに比べて、リアル店舗ではお客さんの店内での行動を常にトラッキングできません。たとえば商品を手にとり買おうと思ったものの、結局は商品棚に戻して購入に至らなかったケースなどは、データでは収集できないのも課題感でした。
お客さんの購入心理まで、「なぜこの商品は興味を持ってもらえたのか?」 「なぜ買っていただけたか?」 までを深掘りすることが難しいわけです。もっと精緻なマーケティングをしたいと小売やメーカーが思ったとしても、販売データのみでは限界があったのです。
キャンペーン事例
こうした背景から、サツドラは POS データだけではなく、AI カメラとサイネージ広告を組み合わせました。
実際の事例を1つご紹介すると、J リーグのサッカーチーム 「北海道コンサドーレ札幌」 とタイアップしたサッポロビールのキャンペーンでは、コラボ限定企画の缶ビールが販売されました。
AI カメラデータと POS データをひも付け、ビールを買ってくれそうな来店客の属性を割り出したところ、男性が多く、特に夕刻の時間帯に来店していることがわかりました。
そこでキャンペーン広告をその時間帯に絞って流すことにし、広告映像にはサツドラでしか見られないコンサドーレ選手の秘蔵映像を採用しました。
店内の雰囲気が一瞬で変わって、売場全体に臨場感が生まれたとのことです。お客さんの購買意欲が高まったように見受けられ、従来よりもビールの売上が上がったとのことです。
さらに SNS とも連動させました。コンサドーレを応援するサポーターが該当商品を目当てに来店してくれ、店内の雰囲気に魅了され商品を手に取るという流れをつくったのです。
期待できる効果
サツドラがやっている 「POS データ × AI カメラ × サイネージ広告配信」 から期待できる効果は3つあります。
- 最適な売場づくり
- 広告クリエイティブへの反映
- 購買につながる広告配信
順番に補足すると、1つ目の 「最適な売場づくり」 とは、レジ前やお店の入口付近など、目立たせたいプロモーション用の棚をどこに置けばいいか、商品棚での商品の並べ方など、売上が上がる売場づくりの参考になります。
店舗の人手不足で売場のレイアウト変更に時間がかかり、キャンペーン開始タイミングに間に合わなくなるという問題も解決します。
2つ目の 「広告クリエイティブへの反映」 は、たとえば複数の広告をあらかじめ用意し、異なる何個ものパターンを小規模テスト配信をすることで、どの広告がより効果があるかを検証できます。商品とタレントの相性や効果的な訴求メッセージなど、配信対効果の高い広告にできます。
3つ目の 「購買につながる広告配信」 ですが、お店ごとのエリアや時間帯で異なる来店客の属性に合わせたきめ細かい広告配信から、ターゲット顧客が買いたいと思える広告配信にできます。全店ですべての時間帯で同じ広告を出すよりも、購買につながる広告配信になります。
テクノロジーとデータの活用による PDCA サイクル
サツドラがやっている 「POS データ × AI カメラ × 広告配信」 という挑戦的な取り組みは、テクノロジーとデータを活用した新しい店舗運営のカタチです。
注目したいのは、PDCA (Plan - Do - Check - Act) というサイクルを効率的に回していることです。
具体的には、Plan (計画) で AI カメラと POS データを使用して、どの商品がどの時間帯、どのエリアで売れやすいのかといった分析を行います。これにより、ターゲットとするお客さんはどういう人なのか、お客さんの購買傾向を把握し、販促キャンペーンや広告の戦略を立てられます。
次に Do (実行) では戦略やキャンペーンプランにもとづき、店内のサイネージ広告を配信し、商品を適切に配置します。ターゲットのお客さんが来店しやすい時間帯に広告を集中させるなど、きめ細かい調整を行います。
Check (評価) においては、施策実施後に AI カメラで取得した新たな 「買い物行動データ」 と POS からの 「販売データ」 を分析し、キャンペーンの成果を検証します。
そして Act (改善) では、分析結果にもとづき、広告クリエイティブ、時間帯などの配信設定、ターゲット顧客などを再評価し、必要に応じてチューニングをします。また、次のキャンペーンや広告戦略にも反映させます。効果的だったアプローチをさらに強化することで、効率的な資源配分ができます。
このような PDCA サイクルをまわし続けることによって、マーケティングの効果は確実に高まっていきます。販促やマーケティングは日々最適化され、売上向上だけでなく、お客さんの満足度も高まるでしょう。
まとめ
今回は、サツドラの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- ドラッグストアのサツドラは、AI カメラ、POS データ、サイネージを組み合わせた広告配信を実現。店内のお客さんの買い物行動や販売データを活用し、販促やマーケティングをより効果的にする仕組み
- サツドラの取り組みはテクノロジーとデータを有効活用した PDCA サイクルを効率的にまわすもの。リアル店舗での新しい買い物体験と運営のカタチを示している
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