投稿日 2024/01/18

書道の 「不」 を解決する水習字用紙。イノベーションが起こるとき

#マーケティング #問題設定 #イノベーション

今回はユニークな習字用紙を取り上げます。

長らく存在していた習字における 「不」 を解消する、画期的な用紙です。

この用紙がどのようにイノベーションを生み出し、書道の世界を変えていくのかをぜひ一緒に見ていきましょう。

水だけで書ける水習字用紙



ご紹介したいのは 「水習字用紙」 です。

習字で、墨汁を使わずに水だけで清書までできる紙の用紙です。特徴は文字の色が黒ではなく、青色になるところにあります。

水習字用紙が生まれたきっかけは危機感からでした。

書道教室の先生が抱いた、書道人気低下に対する問題意識です。習字へのネガティブなイメージからくるもので、たとえば 「道具が重い」 「服に墨が付き汚れる」 「片付けが大変」 といった不満です。

こうした背景から、協力してくれる工場と試行錯誤しながら生徒にも意見を聞き、水だけで書け乾いても文字が消えない画期的な 「水習字用紙」 が生まれました。

墨汁や硯 (すずり) といった重い道具を持ち運ばなくてよく、着ている服や部屋が汚れる心配もありません。


学べること


では水だけで習字が書ける 「水習字用紙」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

人々が諦めていた問題を解決


習字は日本の伝統文化として、子どもから大人までに親しまれています。

一方で、墨汁で手や服が汚れたり、道具を用意し墨をすったりする時間と手間がかかるなど、不便な側面も存在しています。これらが習字に取り組むことへの心理的な障壁となり、小学校で習う子どもたちにとっては、書道の時間が好きになれない要因になっていました。

しかし、多くの人々は 「習字とはそういうもの」 という固定観念があったことで、このような不都合は長らく改善されず、受け入れざるを得ない状況でした。

書道における、こうした 「人々が諦めていた問題」 「そういうものだと受け入れざるを得ないこと」 を解決するのが水習字用紙です。

習字を墨汁ではなく水で書けるという用紙は、技術的に優れているだけではありません。習字とは墨汁を使うもの、書道の文字は墨の黒色という常識を変える画期的な商品なのです。

イノベーションとは


水習字用紙からの学びを一般化すると、イノベーションへの示唆があります。

あらためてイノベーションとは何でしょうか?

結論から言うと、イノベーションとは 「未来の当たり前」 をつくることです。

今はまだ存在していなかったり、あっても多くの人は気づいていないことですが、未来では普及し人々が当たり前のように持っていたり使っているものです。それなしではもはや生活や仕事が成り立たないくらいに 「当たり前の存在」 になっているのがイノベーションです。

イノベーションが起こるとき


イノベーションが起こる領域は様々ありますが、今回の水習字用紙の事例から1つ言えるのは、「人々が諦めて、"不" を受け入れざるを得ない状況」 を変えるとイノベーションが生まれるということです。

もう1つのイノベーションの特徴は、画期的であるがゆえにそれが登場したときに、特に専門家や詳しい人から 「それはありえない」 と受け入れられなかったり、ともすると笑われバカにされるというものがあります。

水習字用紙がまさにそうで、墨汁を使わずに水で書く青色の習字には 「こんなのは書道じゃない」 という反対意見が聞かれました。イノベーションになり得るものには賛否両論が巻き起こります。

イノベーションの普及


一見するとこれまでの方法や物からすると邪道に見えても、利用者への恩恵があれば普及していきます。

ここで重要なのは、時間的な広がりのプロセスです。最初はイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる新しいものや流行りそうなものを最初に取り入れる人に注目され、やがてマジョリティ層にも広がります。

水習字用紙では、子どもたちが学校で習字の時間に水習字用紙を使用することで、その便利さや楽しさが多くの人々に新しい形の習字体験として伝わっていくでしょう。


水習字用紙は2023年7月に第32回日本文具大賞の機能部門で優秀賞を受賞しました。書道用品の受賞自体が珍しく、話題となった水習字用紙が書道の世界をどう変えるかは注目したいです。


まとめ


今回は書道を墨汁ではなく水で OK という 「水習字用紙」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • イノベーションとは 「未来の当たり前」 をつくること。今はまだ一般的でないものが、未来では生活やビジネスにおいて欠かせない当たり前の存在になるもの

  • 長く 「人々が諦めていた問題」 を見出し、今までにはなかった方法で解決することでイノベーションにつながる

  • 画期的な新しい解決方法やアイデアほど、最初はバカにされたり専門家からは疑問に思われる。イノベーションには賛否両論からの議論が巻き起こる


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。