今回は、電通と博報堂の2024年の年頭所感を読み比べます。
両社の年頭所感の概要を整理し、後半ではこれからの広告ビジネスの展望を掘り下げています。
電博の 「2024年 年頭所感」
電通と博報堂から2024年1月1日に、年頭所感がそれぞれ発表されていました。
電通の2024年の年頭所感
電通の今年の年頭所感のポイントは次の通りです (全文はこちら) 。
✓ 真の Integrated Growth Partner へ
- 電通グループは、新経営体制のもとでグローバル共通の事業管理モデル 「One dentsu オペレーティング・モデル」 を導入する。社内のグローバルネットワークを一体化し、統合ソリューションの内容を進化させ、グローバル経営を強化していく
- マーケットやテクノロジーの進化に対応し、サービス領域の拡張を続けている。AI は今年はさらに社会への実装が進み、あらゆる場面でデータの重要性が高まるだろう。見えなかったことが見えるようになり、自動化が進むことで人が介在しない領域はますます増えていく
- AI やデータだけでは人の心は動かせない。どのように使うかは人次第。AI やデータの重要性が増す中で、「人」 を起点に課題を見つけ出しソリューションを構築し、社会に貢献していく
- 高い倫理観の下で、多様な1人ひとりの社員が切磋琢磨し活躍する企業文化に磨きをかける。事業変革とインテグリティを最優先とする組織風土への進化、データやテクノロジー基盤の強化を目指す
博報堂の2024年の年頭所感
では次に博報堂の年頭所感も見てみましょう (全文はこちら) 。
✓ 生活者の想いに応える、大胆なイノベーションを
- 生活者の暮らしやニーズの変化はますます加速。その変化の本質を見極め、新たな価値を生みだすために、根幹にある 「生活者発想」 を拠り所に、大胆にイノベーションを起こし続けていく
- データを介して生活者とモノが常時・双方向につながることで生まれた 「生活者インターフェース市場」 でのイノベーション、従来の広告会社の枠を超えた事業共創を通じたイノベーションを
- 生成 AI を含む先進テクノロジーの活用から、人の心を強く動かす 「技術と人のクリエイティビティの共創」 を追求
- 社員がいきいきと健康に働き、活発に交わりからイノベーションが生まれる。社員の幸せな働き方を全方位から後押しする
2社の共通点
電通と博報堂の年頭所感にはそれぞれのスタンスやカルチャーが見られる一方、共通するものもあります。
共通点は大きく2つですが、1つ目は人々や世の中の変化、テクノロジーの進化への対応です。電通も博報堂も、テクノロジー、特に AI の進化に伴い活用を進めていくことを強調しています。
2つ目の共通点は、人間中心の思想や発想です。
両社とも、テクノロジーが発達する中で 「人」 を起点とした業務プロセスや提供ソリューション構築の大切さを言っています。人の心を動かすことの重要性に言及し、そのためにテクノロジーと人のクリエイティビティの融合を目指しています。
これからの広告ビジネスの展望
ではここからは、電通と博報堂の2024年の年頭所感を読んでの私自身の所感です。
これからの広告ビジネスの展望を考えてみます。
単なる 「広告代理店」 の終わりの始まり?
これは個人的な見立てですが、2社に共通した人を起点にしていく方針には、 AI の急激な進化と浸透により 「自分たちの立場」 や 「従来の広告代理店としてのビジネスモデル存続」 への危機感が出ている印象があります。
去年2023年は ChatGPT をはじめとする AI がビジネスの現場でも市民権を得始め、普通に現場で見聞きするようになりました。
事業会社でマーケティングや広告に携わる人の中には、「今の広告代理店がやっていることは近い将来 AI が自動化するようになるだろう」 という声を私が聞いたのは1人や2人ではありません。
全ての広告実務を AI が自動化するかはともかく、少なくない広告実務の領域においてAI にとって代わられていくでしょう。
電通や博報堂は長らく 「広告代理店」 と表現されてきましたが、これからは事業会社の広告の実務をただ代理するだけでは、事業会社が求める期待に応えられなくなります。単なる 「広告代理店」 というビジネスモデルの終わりが始まっているのが、去年2023年からのトレンドだと見ます。
広告主が求めるもの
視点を広告主に移すと、広告主が広告代理店に期待すること、求めるものは変化していくでしょう。
広告はマーケティング活動の一部に過ぎないため、広告主はより広範囲なマーケティングの全体への支援を必要とします。よって単なる広告のサポートだけではなく、マーケティング活動全体への支援を広告主は求めるようになります。
広告代理店がこれから目指すべき姿
これからの広告代理店にとっては、広告だけの支援では広告主の要求に応えきれません。「成功や失敗した実際のマーケティング知見」 から、広告主にさまざまな戦略や手法を提案し、何よりも成果を出すことが重要となります。
広告代理店が強化すべき範囲は広告だけでなく、マーケティング全体、さらには事業全体への支援ができる力です。
広告主からの見られ方を 「広告代理店」 ではなく、少なくとも 「広告会社」 となるのはもちろん、「マーケティング支援会社」 、さらには 「事業支援会社」 という存在にまで高めていくことが、これからの広告代理店の生きる道です。
育成する人材像
優位性を見出すとするなら、広告代理店はマーケティングや事業活動の最適化をリードする実戦経験の豊富な人材を育成し、提供することにあります。
クライアントである広告主へのコンサルティングやプランニングだけでなく、実行力も伴った人です。実戦経験を持ち全体最適をリードできる人こそ、広告代理店がこれから育成すべき人材です。
デジタルや AI の時代においては、広告ビジネスは消費者の共感を呼ぶコミュニケーションプランニング、AI も活用し広告主のマーケティングや事業への支援をできる人材をどれだけ育てられるかです。
まとめ
今回は、電通と博報堂の2024年の年頭所感を見比べての考察回でした。
最後に考えたことのポイントをまとめておきます。
- 少なくない広告実務の領域においてAI にとって代わられていくはず。広告代理店は、今後は事業会社の広告の実務をただ代理するだけでは、事業会社が求める期待に応えられなくなっていくだろう
- 広告主が求めることは、単なる広告のサポートだけではなくマーケティングや事業活動の全体への支援
- 広告代理店は少なくとも 「広告会社」 となり、「マーケティング支援会社」 、さらには 「事業支援会社」 という存在にまでなっていくことが、これからの広告代理店の生きる道
- これから育成すべき人材イメージは、広告主へのコンサルティングやプランニングだけでなく、実行力も伴った人。実戦経験を持ち全体最適をリードできる人
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