投稿日 2024/01/04

ハサミを持たない美容室 「リクレ」 。顧客の不を解消し、アウトソースで生まれる新たな価値

#マーケティング #問題設定 #アウトソース

今回は、大分のユニークな美容室を取り上げます。

お客さんの隠れたニーズを見つけ出すことでの価値提供、そしてアウトソースの効果的な活用方法という2つの切り口から、マーケティングへの学びを掘り下げます。

髪を切らない美容室


出典: PR TIMES

大分発の 「ハサミを持たない美容室」 がおもしろいです。

大分市に本社を置く Lecture (リクレ) は全国でも数少ない髪を切らない美容室です。シャンプーやブローとヘアセットにサービスを特化し、気軽に髪型を整えたり、気分転換できる場所を提供しています。

リクレのシャンプー技術は脳神経外科医が監修し、心地よさを追求した施術を目指しています。

リクレは、プライベートでの外出や大事な商談などの前に、プロの技術で身支度をするために利用されているようです。

お客さんは、年配客も含む幅広い層に支持され、さらにはがん患者を含めて病気などで頭髪・頭皮に悩みを持つ方も来店しています。

帰宅前に立ち寄り、プライベートなおしゃべりも楽しむサードプレイス (職場でも自宅でもない第三の居場所) 的に利用している人も目立つとのことです。


既存の 「不」 の解決


では、リクレから学べることを掘り下げてみましょう。

リクレは、お客さんの隠れた不 (女性が美容院を利用するときの不都合や不便など) を見出し、提供サ-ビスを絞り込むことで、他にはない独自の価値を提供しています。

お客さんの 「隠れた不」 というのは、美容院への訪問は、多くの人にとっては髪型を変えたり整えたりすることへの利便性、喜びや楽しさがある一方で、忙しい日常の中で美容院に長時間を割くことが難しいことです。

リクレは、こうした隠れた不を見極め、シャンプーとブロー、ヘアセットにサービスを絞り込むことで、美容院利用へのハードルを下げています。サービス内容の絞り込みにより、お客さんは短時間で質の高いサービスを受けることができ、忙しい日常の中でも気軽に利用することが可能です。

また、リクレの提供するシャンプー技術は、脳神経外科医が監修するなど、リラクゼーションと心地よさを追求しています。単に髪を整えるだけでなく、リラックス体験という価値を生み出しています。

つまり、リクレは美容院が提供する 「結果」 (美しく整った髪型) だけでなく、「プロセス」 (リラックスできる時間) にも重点を置いているわけです。


アウトソース


もう1つリクレから学べるのは、アウトソースです。

髪のブローやスタイリングなどは自分でやろうと思えばできることですが、あえてお金を払って美容院でやってもらうというのはアウトソースをしていると見ることができます。

お金をかけて他人や他社に依頼するアウトソースには、次のような期待から行われます。

✓ アウトソースに期待すること
  • 自分にはできないことを対応してもらう
  • 自分でもできるが、アウトソースすれば自分の時間ができ、他のことに使える
  • 自分でもできるが、アウトソースのほうが早く、安く済む (自分の人件費や経費に比べるとアウトソースしたほうが安いという経済的合理性から) 
  • 自分でもできるが、アウトソースをしたほうが品質の良いものができる
  • 自分でもできるが、アウトソースの相手のほうが多様な方法を持っており、柔軟な対応をしてくれる

これらはアウトソースの背後にある期待感としての心理です。

では2つ目から5つ目について、順番にリクレに当てはめてみていきましょう。

自分の時間ができ、他のことに使える


たしかにシャンプーやヘアセットは自分でもできるかもしれませんが、それに時間を割くことは他のやることの時間を奪っているということです。

美容院に行くことで、その時間を仕事や好きなことをやる趣味、家族との時間など、他の価値ある時間に充てることができます。

アウトソースのほうが早く、安く済む


自分で行う場合の時間コストや労力を考えると、アウトソースをすることでコストパフォーマンスが向上します。

リクレのような美容室では、仕上がりが良いだけではなく、自分でやるよりも効率的です。

アウトソースしたほうが品質の良いものができる


専門家によるサービスは、自分で行うよりも高い品質があります。

リクレで美容師という専門家に任せることで、より高品質のサービスを受けられます。リクレの場合、専門的な髪へのケア、脳神経外科医が監修したシャンプー技術は、自宅では実現できないレベルの品質を提供しています。

アウトソースの相手のほうが多様な方法を持っており、柔軟な対応をしてくれる


専門家は多様な技術や方法を持っており、お客さん1人ひとりの要望に応じたカスタマイズされた対応が可能です。リクレでは、お客さんごとの髪質や好みに合わせ柔軟なサービスを提供しています。

* * *

以上のように、リクレの事例は外部に依頼するという 「アウトソース」 を考える良いケースです。

利用者は単に時間を節約するだけでなく、品質、専門性、柔軟さといった付加価値を求めてアウトソースを選択しているのです。


まとめ


今回は 「ハサミを持たない美容室」 のリクレを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • リクレは、美容院利用時の隠れた不 (不都合や不便さ) を見極め、シャンプー・ブロー・ヘアセットにサービスを絞り込むことで、忙しい日常の中でも気軽に利用できる独自の価値を提供。単に髪型を整えるだけでなく、リラックス体験を提供するプロセス自体にも価値を置いている

  • やろうと思えば自分でできる髪のシャンプーやブロー、スタイリングを美容師にやってもらうということには 「アウトソース」 の観点で学びがある。時間の節約、コストパフォーマンスの向上、品質が高く、お客さん1人ひとりにあった柔軟なサービスから恩恵を享受できる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。