投稿日 2024/01/22

スバル流・マーケティング的接客。お客さんの 「これを買いたい」 をつくる方法

#マーケティング #営業 #価値提案

今回は営業の話です。

スバルの自動車販売員の方の事例から、顧客起点での接客の秘訣を紐解きます。

SUBARU の自動車販売


SUBARU (スバル) の自動車販売が好調です。2023年3月期は国内の前期比で 11% 増の10万台を売り上げました。

勢いのあるスバルですが、中でも東京スバル江東店は、スバルの同規模の他店舗と比べて約1.5倍の売上台数を誇り、2023年には優秀店舗の表彰を受けました。このお店の販売課課長は 「無理に売り込まず顧客に寄り添う」 という姿勢で人気店を支えています (参考記事) 。

では、実際にどのような販売をしているのか、詳しく見ていきましょう。

将来の車の利用シーンを持ってもらう


販売課課長の方の接客方法の特徴は、お店に来店したお客さんが 「どんな生活を送りたいのか」 という部分を掘り下げる点にあります。

たとえば、30代の夫婦が 「安全性能が高く、乗りやすいインプレッサがほしい」 とお店に来たケースです。近々新たに家族が増えることもあり、安全性能が高いイメージのあるスバル車に決めたとのことです。

スバルのインプレッサという車種を指名しての来店はありがたいお客さんですが、販売を焦ることはしません。車の詳しいスペックや価格を説明するよりも、会話の中で 「購入してどんな生活をしたいのか」 などを聞いていきます。

夫婦が 「子どもと休日を楽しみたい、キャンプなどのアウトドアに出かけたい」 と話すと、それにもとづいてイメージを膨らませます。お客さんがまだ言葉にできていない 「幸せな未来イメージ」 を引き出し、お客さんとともに具体的な描写をしていきます。

それはたとえば、「子どもと休日を楽しみたい」 から始まり、 「キャンプなどアウトドアにでかけたい」 となり、夫婦が大きくなった子どもと一緒にキャンプで料理を作るという話にまで膨らませ、それができる車を提案します。

車の購入を 「価値のある資産を手に入れる」 と捉える


スバル店の販売課課長の接客では、お客さんが最初は考えていなかった 「新しい切り口からも価値」 を提案しています。

先ほどの例で続けると、来店した30代の夫婦が将来は子どもとキャンプを楽しみたいという話になったときには、「その頃は子どもが小学校に入学するくらいの年齢になるので、車に多めになる荷物を載せられ、それでも余裕のある車内空間も必要では」 と考え、「 (来店時には希望していたインプレッサよりも) 車室が広く、荷室も大きいフォレスター」 を提案します。

この提案は、お客さんにとってはもし予算オーバーだったとしても、数年先の買い取り予想金額を提示し、車の資産価値の高さも知ってもらいます。これによって夫婦にとっては 「ただ車を買う」 のではなく、「将来の生活設計に合った価値のある資産を手に入れる」 という新しい視点が生まれます。

お客さんの具体的な使い方に合わせたイメージを共有し、さらには資産価値の高さというお客さんが気づいていなかった買う車の価値基準も提示したことで、当初の想定よりも1ランク上の車種の受注につながったのです。


学べること


ではスバルの自動車販売店の接客から、学べることを掘り下げていきましょう。

スバルの販売員の方の接客方法は、自動車販売以外にも応用できます。

スバルのお店での販売の特徴を一般化すると次のようになります。

  • 買った後の幸せな未来イメージを持ってもらう
  • 新しい切り口からの価値提案

では自動車販売以外のケースに、順番に当てはめていきましょう。

買った後の幸せな未来イメージを持ってもらう


たとえば、家具販売で考えてみます。

お客さんがダイニングテーブルを探してお店に来た場合、いきなり 「このテーブルがおすすめです」 と言うのではなく、そのお客さんの家での暮らしぶり、部屋のレイアウト、普段の過ごし方などを具体的に聞いていきます。

新しいテーブルが置かれることで、お客さんの頭の中で 「家族との食事がもっと楽しくなる」 といった状況を描いてもらいます。

その後に、たとえば 「このテーブルは大きさを変えることができるので、家族が増えても、来客が来てもみんなで座れますよ」 といった点を伝えることで、テーブルのある 「楽しく幸せな家族の時間」 をイメージしてもらいます。

新しい切り口からの価値提案


新しい切り口から価値を提案する手法も応用できます。

たとえば健康食品の販売であれば、お客さんが 「健康的になりたい」 というニーズは明らかでしょう。ここに加えて、「この健康食品は保存料が一切使われていないので、お子さまやシニアの方にも安心してお召し上がりいただけます」 といった、お客さん自身以外にも家族のみんなが健康になれるという新たな視点からも価値を提案できます。

また、ファッション業界であれば、お客さんがシンプルなシャツを求めている場合に、「このシャツはリンクルフリー (高い防シワ性) なので、出張や旅行先でもシワになりにくいですよ」 といった新しい価値を提案することで、お客さんの 「買いたい」 という気持ちを生み出せます。

ここまで見てきた提案をすることで、お客さんの中での 「その商品を買うことの "必要性" や "納得感" 」 を生み出せ、お客さんからの 「買いたい」 という気持ちをつくれるのです。


まとめ


今回はスバル販売員の接客の事例から着想を広げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ お客さんの使い方を具体的に掘り下げ、買った後の幸せイメージを持ってもらう
  • 自動車販売: お客さんが子どもとアウトドアに行く幸せな未来イメージ
  • 家具販売: お客さんが家での暮らしぶりを具体的に描き、家族や友人と過ごす楽しい時間をイメージ

✓ (お客さんは気づいていなかった) 新しい切り口からの価値提案
  • 自動車販売: お客さんが考えていなかった車を資産価値で捉える視点を提示
  • 健康食品: 保存料を使用していないという点から、家族全員の健康に貢献するという新しい価値を提案
  • ファッション: 高い防シワ性を持つシャツを提案し、お客さんが出張や旅行先でもおしゃれに着こなせる価値を提案


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。