投稿日 2024/01/12

しいたけパウダーが海外で大人気。見出した顧客インサイトと価値提案とは?

#マーケティング #顧客理解 #価値提案

マーケティングとは、相手の心理を読み解くゲームのようなものです。ゲームの 「答え」 はお客さんの中にあります。

今回は、世界に打って出た 「しいたけパウダー」 を取り上げ、マーケティングに学べることを掘り下げます。

しいたけパウダー


しいたけをパウダー状に加工した 「九州産本格椎茸粉」 (出典: 杉本商店

海外で大ヒット


しいたけをパウダー状に加工した 「九州産本格椎茸粉」 が、アメリカを中心にヒットしています。アメリカの Amazon では 「干ししいたけカテゴリー」 で最も売れている商品になりました。

九州産本格椎茸粉の販売元は、宮崎県高千穂 (たけちほ) のしいたけ専門問屋である杉本商店です。

杉本商店は、宮崎県高千穂で原産のしいたけを加工した、干ししいたけやしいたけパウダーを販売している。特にしいたけパウダー 「九州産本格椎茸粉」 は、2020年の発売から22年には出荷量が50倍に。23年現在も売れ行きは右肩上がりで、当初50キログラムだった出荷量は、今では2.5トン以上になっている。オファーは日本からだけでなく、海外からも殺到しているというのだ。

海外が熱視線を送る理由の一つは 「うまみ」 だ。しいたけパウダーは、しいたけの味がせず、食材にすり込んだり加えたりすることで、素材本来のうまみを引き出し、料理の味を奥深くする。海外でも浸透しつつある 「UMAMI」 を手軽に加えられるとして、Amazon を中心にヒットし、日本と米国の Amazon の干ししいたけカテゴリーで最も売れている商品となった。

海外販売への覚悟


杉本商店は地元の農家からしいたけを買って仕入れています。杉本商店の事業は、これまで関係を築いてきた地元農家と地元の産業を守ることで成り立っています。

今後も安定的に農家から買っていくためには、しいたけを売り続ける必要があります。

ただし、安く売ることは杉本商店の選択肢ではありませんでした。というのは、しいたけ生産者の収入を下げてしまい、事業を続けられなくなるからです。しんどい思いをしてやっていることを次の世代に引き継ごうと思う人はいなくなり、しいたけ産業自体がなくなってしまうでしょう。

杉本商店が活路を求めたのは、しいたけパウダーを海外に売っていくことでした。

とはいえ、そもそも 「干ししいたけ」 という商品自体の認知が低い海外で販売するのはそうそう簡単ではありません。海外で売っていくためには、杉本商店が扱う高千穂産しいたけが持つ価値を見直し、海外の消費者に魅力的な伝え方にすることが必要でした。


しいたけパウダーのマーケティング


では杉本商店は、どのような切り口でお客さんの心に響く伝え方を見出したのでしょうか?

新しい切り口への気づき


海外展開への成功の足がかりとして、ヒントになったのはドイツでの展示会の1コマでした。

杉本商店のブースに立ち寄り熱心に話を聞く人は、そのほとんどがビーガンやベジタリアン (菜食主義) だった。彼ら彼女らの話からは、菜食の人々は肉厚な食感や、何よりうまみを求めていることが分かったという。他の展示会に出展しても、ビーガン食品が大きなトレンドであることを感じた。

ビーガン食では味わうことが難しいうまみや食感を得られる食材として、しいたけはうってつけの物だと気付き、海外でのコミュニケーションの軸を 「うまみのあるビーガンフレンドリー食品」 とした。

原木 (げんぼく) 栽培のサステナビリティーに気付いたのも、展示会に来場した人との会話がきっかけだった。しいたけを栽培するためクヌギの木を伐採すると、森に日光が差し込むようになり、クヌギの切り株からは新芽が出て再び成長する。そして下草 (したくさ) や新しい樹木も生い茂るようになることで、山の保水能力や土砂流出防止機能が高まったり、二酸化炭素を吸収したりする。しいたけを栽培することで、植林しなくても約15年のサイクルで山が蘇る。

こうしたしいたけの栽培背景を説明すると、「究極のサステナブルだ!」 と言われたのだ。そこで初めて、自分たちの栽培方法はサステナブルなのだと気付き、これも商品を訴求するための軸となった。

杉本商店の杉本社長は、ビーガン食では味わうことが難しいうまみや食感を得られる食材として、しいたけはうってつけの物だと気づきました。そこで海外展開での打ち出し方を変えたのです。

提供価値の再定義


杉本商店は、江戸時代から変わらない高千穂の干ししいたけを 「ビーガン食」 と 「うまみを加える物」 という新たな視点で捉え直しました。干ししいたけの見せ方を 「うまみのあるビーガンフレンドリー食品」 としたわけです。

杉本商店にとっては、長く扱ってきたしいたけへのパラダイムシフトと言えるような全く違う世界が開けました。切り口を変えることで、新しい魅力を見出したのです。

日本と海外という市場が異なれば、当然そこにいるお客さんも違います。お客さんが変われば、何に価値があるかの価値観、求める便益も変わります。

自分たちが探している 「答え」 は、お客さんの中にあったのです。

マーケティングからの価値創出


マーケティングで大事なのはお客さんを理解することです。

自分たちにとって未知の領域となる新市場の開拓には、お客さんの深い理解が不可欠です。

お客さんを理解する流れは次のようになります。

  • 自分たちのお客さんは誰か

  • お客さんの理解。生活環境やライフスタイル、やっていることや習慣、行動時の心理、価値観、奥にある望みや不満

  • 深い顧客理解から、自社やお客さんもまだ言語化できていない商品の魅力を発掘し、提供する価値の定義づけ

  • お客さんの文脈に合った言葉に言い換えての価値提案

こうしたことを1つずつ進め、ときには泥臭く愚直にやっていった先に、マーケティングは価値を生み出し、ビジネスの成功に貢献できるのです。


まとめ


今回は、しいたけをパウダー状に加工した杉本商店の 「九州産本格椎茸粉」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 自分たちが探している 「答え」 はお客さんの中にある。お客さんが変われば、何に価値を見出すかの価値観、求めるベネフィットも変わる

  • お客さんを理解することがマーケティングの成功のカギ。自分たちのお客さんは誰か、彼ら・彼女らの生活環境・ライフスタイル、普段の行動や習慣、そのときの気持ち、奥にある望みや不満、価値観などを深く理解する

  • お客さん自身が気づいていない商品やサービスの魅力を見つけ、お客さんの文脈に沿った価値として捉え直す。定義した価値をお客さんの心の琴線に触れるメッセージにして提案する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。