投稿日 2024/01/10

Itoguchi 「服のまま銭湯」 のブランディング。独創的な体験がもたらした効果

#マーケティング #ブランド #体験

今回は、スキンケアブランド Itoguchi のユニークな体験型施策を取り上げます。

この施策は、単なる商品紹介にとどまらず、ブランド構築や売上向上に貢献しました。ブランディングの舞台裏に迫り、マーケティングに学べることを掘り下げます。

自社ブランドの現状把握


きものブレインは、新潟県十日町市での着物加工業と養蚕事業を主軸にしている企業です。

背景にあった課題感


きものブレインは、「Silk Life lab」 という名前で化粧品ブランドがありました。保湿効果の高い緑繭 (みどりまゆ) 由来の化粧品で、良質な化粧品にもかかわらず、売上が伸び悩んでいました。

社内では自社製品の保湿効果に対して自信を持っていたものの、市場での認知が高まらないという状況でした。

3C を網羅するリサーチ


そこで、きものブレインは、社内ヒアリングや消費者リサーチ、競合の調査から現状への理解を深め課題を明確にしました。

自分たちが自然派やオーガニックな製品として打ち出していくことを前提としたときに、競合商品を見るといくつかの共通点が浮かび上がってきました。

競合商品は、装飾性の少ないミニマムなデザイン、素材の訴求力が弱いこと。一方で素材を強く打ち出した化粧品の多くは優しい印象のデザインで、オリジナリティーが際立っていないこと。そして、競合商品が割高だと受け止められているという共通点です。

オーガニックコスメを使っていないユーザーについても調査を実施し、洞察を得ました。

ノンユーザーはオーガニックコスメは肌に優しいイメージがあるものの、成分が分かりにくかったり、効果を実感しにくそうという印象を持っていました。


Itoguchi のブランディング


リサーチからのポジショニング設計


こうしたリサーチをもとに、ブランドとして目指す方向性が定まりました。クリエイティブのクオリティーを保ちながら、緑繭という独自素材の効果を実感できるブランドというポジションです。

これを実現するために、シルクライフラボのプレミアムラインとなる新ブランド 「Itoguchi」 が生まれました。

ブランディング施策


ブランディングの戦略は、Itoguchi の商品特徴を効果的に伝え、消費者に直接体験してもらうことでした。

きものブレインは 「服のまま銭湯」 というユニークなイベントを企画しました (参考記事) 。

シャワー器からシルク成分が含まれるミストを浴び、。商品を使ったときと同程度の効果を実感できるようにした (出典: 日経クロストレンド

湯船では湯気に見えるようにミストを滞流させ湯船につかっているように見える (出典: 日経クロストレンド

このイベントでは、銭湯のシャワーから噴射されるミストを利用して、全身シャンプーで Itoguchi の使用体験を再現しました。銭湯のシャワー器からの噴射ミストを浴びることで、実際に商品を使用した時と同様の効果を疑似体験できるようにしました。

また、湯船ではお湯の代わりにミストを湯気のように漂わせ、実際の銭湯を模した空間をつくりました。

このイベントは、実際に体験してもらうことで商品の特性を理解し、親近感や愛着を持ってもらうことを目指しました。

通常の広告やプロモーションと異なったユニークな方法で、また、ただの商品紹介ではなく、お客さんに直接製品を体験してもらうことで、商品の特徴や良さが自然と理解され、記憶に残る体験になったことでしょう。

体験からのブランド構築


また、このイベントは、商品自体だけでなくブランド力の向上にも貢献しました (参考記事) 。

ブランディングにおいては、価値イメージの構築が重要です。他にはない独自の体験を提供することで、Itoguchi はあまり知られていなかった存在から、お客さんに強い印象を残すブランドへと昇華したのです。

服を着たままで銭湯に入れて、スキンケア商品を体験できるようにした Itoguchi の施策事例から学べるのは、マーケティングは商品をただ宣伝するのではなく、お客さんの体験を豊かにすることを目指すことの重要性です。

お客さんの心をつかむためには、創造的な体験を提供することがカギとなります。この事例は、マーケティングがいかにお客さんとの強い絆を築き、結果的にブランドがつくられ、ひいては売上にもつながることを示しています。


まとめ


今回は、きものブレインの Itoguchi のマーケティング事例から、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • Itoguchi が展開した体験型企画 「服のまま銭湯」 は、商品特徴を効果的に伝えることで、消費者に直接的に体験してもらう独創的なブランディング施策

  • 施策は、商品紹介にとどまらず、参加者に強い印象を残し、商品の理解と愛着を深めることに貢献した。他にはない体験からブランド力の向上と売上増にもつながった


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。