投稿日 2024/01/16

価値を生むマーケティングリサーチとは?ビジネス課題を解決するダブルダイヤモンドの力

#マーケティング #マーケティングリサーチ #本

今回のテーマは 「マーケティングリサーチ」 です。

マーケティングリサーチは、マーケティングには欠かせない要素ですが、行ったリサーチは本当にビジネスに貢献しているでしょうか? "ダメなリサーチ" から生まれる "ダメな戦略"、これは避けたいことですよね。

今回は、マーケティングリサーチの本でおすすめの1冊を取り上げ、リサーチで価値を出す秘訣を探ります。

本のタイトルは、 「専門家」 以外の人のためのリサーチ & データ活用の教科書 - 問題解決マーケティングの秘訣は、これだ! (米田恵美子) です。


本書の概要


本のタイトルに 「リサーチ & データ活用の教科書」 と入っているように、市場調査や顧客調査などのリサーチをマーケティングにどう活かすかが、体系立てて詳しく書かれています。

著者の米田恵美子さんは元 P&G の方で、P&G 当時のマーケティング事例が具体例として紹介され興味深かったです。


リサーチで価値を出すために


本書の問題意識は、ビジネスの現場で見られる 「もったいないリサーチ」 や 「もったいないデータ活用」 です。

活用されない 「もったいないリサーチ」 とは?


もったいないリサーチとは、ビジネス上の問題解決につながらず、価値を生み出していないリサーチやデータ活用のことを指します。

たとえば、

  • 調査目的と調査課題があいまいで分析が浅いリサーチ
  • グラフや表があるだけで、考察がなく示唆が示されていない調査レポート
  • これまで続けてきたからという理由だけで毎月行われる定点観測調査
  • レポートは示唆までしっかりと出されているのに、レポートの受け手が示唆をネクストアクションにつなげるやり方がわからない

こうした状況に陥っているのが 「もったいないリサーチ」 です。

リサーチには少くないお金や時間、労力をかけるものです。しかしリサーチやデータ活用が問題解決につながらない主な要因は、収集し分析したデータから 「新しい発見」 が得られていないからです。

裏を返せば、問題解決につながる新しい発見が何か1つでもあるならば、ビジネスでの意味のあるリサーチになり、有意義なデータ活用になります。

では、「もったいないリサーチ」 に陥らないためには、どうすればいいのでしょうか?

リサーチ企画提案書と報告書


リサーチを有効活用するためのポイントは、リサーチを実施する前の段階にあります。いかに適切なリサーチ企画書を書けるかです。

本書で紹介されている P&G のリサーチ企画提案書が参考になります。

具体的な企画書の項目は次のとおりです。

✓ リサーチ企画提案書
  • リサーチタイトル
  • 目的
  • 背景
  • ビジネス課題 (今何がわからないのか, リサーチで答えや示唆を出す論点) 
  • リサーチ結果の活用 (結果や示唆を次に何に活かすか) 
  • リサーチ方法
  • サクセス・クライテリア (リサーチの成功基準) 

P&G では、リサーチ企画書はリサーチレポートと連動させます。

報告レポートの特徴は3つあり、① リサーチ企画書に連動している、② Conclusion First (結論が先) 、③ 「新しい発見」 に焦点を当てることです。

ダブルダイヤモンドプロセス


この本で興味深かったのは 「ダブルダイヤモンドプロセス」 というフレームです。

出典: UX Yokohama

ダイヤのようなひし形が左右に2つ並んでいるので、「ダブルダイヤモンド」 と呼ばれます。

ポイントは、

  • 最初に 「正しい問題を見つける」 (1つ目のダイヤ) 。その後に解決策を考える (2つ目のダイヤ) 
  • 問題発見と解決策定のそれぞれで 「発散 → 収束」 を行う

問題設定から戦略に落とし込むリサーチ (1つ目のダイヤ) 、解決策となるマーケティング施策をつくるリサーチ (2つ目のダイヤ) という順番で進めていきます。

リサーチをデザインをするために重要なのは、今はどの段階なのかを把握することです。

理解を深めるべき段階なのか、仮説を広げたほうがいいのか、それとも仮説を絞り込むべきところまで来ているのかです。いま 「自分たちが問題解決のどの段階にいるか」 によって選ぶべきリサーチは変わります。

ここで大切なのは次の2つです。

  • 解決策を具体的に考え始める前に、戦略としての方向性を定める
  • 戦略立案 (左側のダイヤモンド) でも解決策定 (右側のダイヤモンド) でも、それぞれの段階で仮説を広げる手間を惜しまない

このように、ダブルダイヤモンドのプロセスにすることで 「もったいないリサーチ」 を防ぐことにつながります。


 「既存の思考の枠組み」 から抜け出す


この本のキーワードの1つに 「パラダイム」 があります。

パラダイムとは


パラダイムの意味は 「思考の枠組み」 で、平たく言えば 「その人なりのものの捉え方や考え方のクセ」 です。

人はどうしても既存のパラダイム (思考の枠組み) にとらわれ、すでに形成された自分のパラダイムの中だけで発想しがちです。固定されたパラダイムの中でアイデアを出そうとしても、問題解決につながる新しいアイデアは簡単には得られないでしょう。

他社と大きく差異化できる独自のアイデアを出したいならば、既存のパラダイムから抜け出すことが必要になります。

ここにマーケティングリサーチの役割があります。リサーチとデータ活用によって 「パラダイムシフト」 を起こし、新しい視点、ひらめきやアイデアを得てマーケティングにつなげるわけです。

では、どうすればパラダイムシフトを起こす切り口を見つけられるのでしょうか?

パラダイムシフトを起こすために


参考になったのは、既存の理屈や自分のパラダイム (ものの見方) ではすぐに説明できないこと、判断がつかないことに出会ったときを見逃さないという姿勢です。

整合性が見られないことや辻褄が合わないこと、疑問に思うことにこそあえて目を向け、じっくり考えてみるのです。その先に、これまでは別々に存在していた点と点がつながります (Connecting the Dots) 。

わからなかったことがわかったり、ひらめきが生まれ、突破口が見つからなかった現状に風穴が空き、問題解決につながる糸口が得られる瞬間が訪れます。

お客さんを理解する訊き方


お客さんへの理解において、新しいパラダイムが生まれるのはインサイトからです。

インサイトはお客さんを深く理解していき、掘り起こすようにして見出すものです。

お客さんのことを理解するためには相手に直接訊くことになりますが、訊き方には工夫が必要です。

たとえば自社商品を買わなくなった離反顧客に 「あなたは今までまで ○○ を買っていたのに、なぜ ○○ を買わなくなったのですか?」 と尋ねても、はっきりとした答えは返ってこないでしょう。人は買わない理由や、あるいは買った理由でさえも明確になっていないことが普通だからです。

そこで方法を変えるといいでしょう。

行動変容を起こした理由を直接的にお客さんに質問をするよりも、お客さんのまわりで起こった何が直接的・間接的に影響し、その結果として 「○○ を買わない」 という行動変容につながったのかを知ろうとするアプローチです。


まとめ


今回は 「専門家」 以外の人のためのリサーチ & データ活用の教科書 - 問題解決マーケティングの秘訣は、これだ! (米田恵美子) という本を取り上げました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • もったいないリサーチを避ける: ビジネスに貢献するリサーチを行うためには、明確な目的と課題設定が大事。リサーチ企画提案書では、タイトル, 目的, ビジネス課題 (今何がわからないのか) , リサーチ結果の活用, リサーチ方法, リサーチの成功基準 (サクセス・クライテリア) を入れる

  • ダブルダイヤモンドの活用: リサーチは 「正しい問題を見つける」 から始め、その後に解決策を考える。問題発見と解決策定の各フェーズで 「発散 → 収束」 のプロセスを繰り返す

  • パラダイムシフト: 既存の思考の枠組みにとらわれず、新しい視点やひらめきを得ることを目指す。整合性が見られない点やふとした疑問・違和感に注目し、掘り下げていった先にインサイトがある

この本のタイトルには、「専門家以外の人」 のためのリサーチ & データ活用とあるように、身近な商品で具体例に使われていることからも読みやすいです。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。