投稿日 2024/03/03

花王サクセス 「かっこつけない理容室」 。顧客理解からの価値提供という王道マーケティング

#マーケティング #顧客理解 #価値提供

今回は、花王のサクセスのユニークな企画 「かっこつけない理容室」 を取り上げます。

直接的なブランド訴求ではなく、あえて理容室とのコラボレーションを選んだ企画の裏には、どんな戦略があったのでしょうか?

花王の事例から、マーケティングに学べることを紐解きます。

サクセス 「かっこつけない理容室」 


出典: PR TIMES

花王のサクセスは、「今もこれからも自分に納得ができて、誰もが明るい未来を描ける社会にしていく」 というブランドパーパスから、「前を向くチカラに」 というスローガンを掲げています。

ブランドが提供しているのは、自分の可能性を信じて成長し続けたいと願う人へのトータルメンズケア製品です。

花王のサクセスが11月19日の国際男性デーに合わせて 「かっこつけない理容室」 を期間限定でオープンしていました (2023年11月17日から12月17日) 。

企画の概要


ヒロ銀座・PREMIUM BARBER の協力のもと、国内全店舗で開催された企画でした。

花王サクセスの 「かっこつけない理容室」 のコンセプトは、来店したお客さんに自分の心と向き合ってもらい、いいなと思える自分自身に出会う場所にするというものです。

理容室には、新しい自分と出会った8人の男性を紹介したオリジナルヘアカタログが用意されていました。カット前のカウンセリングでは 「自信」 「チャレンジ」 「自由」 など 30 のパーソナリティを表すキーワードが書かれたシートを提示し、お客さんとの対話を通じて、その人らしさを引き出す髪型を提案しました。

 「かっこつけない理容室」 の背景


期間限定で実施された 「かっこつけない理容室」 の背景には、花王が行った調査結果があります。


2023年10月に実施した、20歳 ~ 79歳の男女1200人に対しての自己肯定感と髪に対する意識の関係性に関わる実態調査です。

調査からわかったのは、男性の 51% が 「自己肯定感が低い」 と答え、40代男性においては 68% と他の年代よりも最も多いということでした。

また、自己肯定感が高い男性に比べて低い男性の方が、「髪や髪型のお手入れに関心がない」 、「自身の髪に自信がない」 への回答が多いという結果でした。さらに、男性の 48% が3年以上ヘアカットのオーダーを変えていないこともわかりました。

そこでサクセスは、より多くの男性に今の自分と向き合ってほしい、そして自分のことをいいなと思える自分自身に出会うことでさらなる可能性に気づき、前を向くきっかけにしてほしいという想いで、「かっこつけない理容室」 を企画したのです。


学べること


では花王サクセスの 「かっこつけない理容室」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

ターゲット顧客の理解


花王は、調査から男性の自分への意識や実際にやっていることを理解しました。

先ほど見たように調査結果によれば、少なくない男性が自己肯定感が低く、自分の髪や髪型に自信がないと感じていることがわかりました。また、男性の中には長い間で同じ髪型の人も一定数いて、髪型を変えることに抵抗を感じている傾向が見て取れます。

顧客理解からの価値提案


このような調査結果を受けて、サクセスは新たなマーケティングアプローチを模索しました。

自分の髪や髪型にあまり自信がなく、 数年以上にわたって髪型を変えていないという状況から、ブランドとして何ができるかを捉え直しました。

もしここで、直接的に 「サクセスで髪型を変えませんか」 と訴求をしても、おそらく多くの男性には響かなかったでしょう。自分の髪型に自信が無いと思っている人は、いきなりすぐに変えたい気持ちにはならないはずだからです。

そこで花王は、理容室とのコラボレーションを選びました。

理容室の担当者からのお客さんとの対話の中で、自然とサクセスの製品やブランドについても話すことで髪型を変えるきっかけを提供するアイデアです。

このアプローチにより、お客さんは自然な形で新しい髪型やサクセスの話題にも触れることで、サクセスのことを思い出したり、新たに知ったり、親近感がわくなどのブランドへの良い影響が生まれます。

成功するマーケティングの流れ


花王のサクセスの事例から学べるのは、マーケティングにおけるターゲット設定と顧客理解の重要性です。

花王は消費者調査を通じて、ターゲットとなる男性の現状を把握しました。単に自社商品への認知やイメージだけではなく、普段の生活や髪に関する行動と心理を明らかにしました。

心の奥にある本当の望みや悩みを読み解き、ターゲットとするお客さんにとって価値につながる解決策を提供するために、理容室とのコラボレーションを選択したのです。

ターゲット設定、顧客理解、価値提案、ブランド構築と良い流れがつながっている事例です。


まとめ


今回は、花王サクセスの 「かっこつけない理容室」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • ターゲット顧客の理解: 花王は男性の自己肯定感や髪に対する意識を調査し、多くの男性が自分に自信を持てていなく、長い期間にわたり同じ髪型を維持する傾向があることを理解した

  • 顧客理解からの価値提案: 直接的な髪型の提案や自社商品の訴求ではなく、理容室とのコラボレーションを通じて髪型を変えるきっかけを提供した。併せてサクセスにも触れることで、ブランドへの親近感がわくなどの良い影響が生まれる

  • 成功するマーケティング: ターゲット顧客の設定、お客さんの深い理解、価値提案、ブランド構築という流れで進めることでマーケティングはビジネスに貢献できる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。