投稿日 2024/03/08

昭和・平成レトロのメルカリ 「ウチの実家」 。"気づき訴求" からユーザーの心をとらえる秘訣

#マーケティング #勝ち筋 #態度変容

自社商品やサービスのユーザーに 「もっと使ってほしい」 と言っても、それ以上使う必要があると思わなければ、ユーザーの心に響くことはないでしょう。

これまでに認識していなかった新しい必要性を持ってもらうという 「気づき訴求」 が重要です。

今回は、メルカリのユニークな事例から、ユーザーの心を動かし、狙った行動を起こしてもらう秘訣を紐解きます。

メルカリ 「ウチの実家」 


出典: メルカリ

メルカリが原宿で 「ウチの実家」 という没入型施設を、2023年11月29日から12月3日までの期間限定で開設していました。

ウチの実家では、1995年から2005年頃に流行した懐かしい昭和や平成のレトロアイテムを中心に2000点以上が展示され、居間や台所、子ども部屋などが忠実に再現されました。子ども部屋の設定は、2003年頃に実家を出た長男の部屋がそのまま残されているというものです。


ちなみに、ウチの実家に置かれていた家具から小物などの2000点以上のアイテムは、すべてメルカリに出品されているものです。

ウチの実家への来場者は、これらのアイテムに触れて直接体験するだけではなく、家族のように出迎えてくれるスタッフが、自分の 「お父さん」 や 「お母さん」 となって親子での会話を楽しめたり、家族写真の撮影もできました。


学べること


ではメルカリの 「ウチの実家」 から、学べることを掘り下げていきます。

まずはイベント企画の背景から見てみましょう。

メルカリの課題感


企画の狙いは、メルカリを購入でしか使わないユーザーに 「出品者 (メルカリで売る人) 」 になってもらうことでしょう。

メルカリを買い物に使うユーザーの数に比べると、自分の持ち物を売っている人は少ないわけで、メルカリはここにサービスの利用を増やすポテンシャルがあると捉えたのです。

とはいえ、単に 「メルカリに出品しませんか」 と呼びかけるだけでは、ユーザーの心には響かず、自分ごと化されません。

今までに出品をしたことがない人というのは、その必要性が今まではなかったわけです。また、メルカリでの出品を言われても、何を売っていいのかわからないと出品への訴求はスルーされてしまうでしょう。

家の不用品に目をつけたメルカリ


そこでメリカリは、自宅や実家などの多くの家庭に眠る不要品に目をつけました。特に年末の大掃除の際に捨てられる可能性のある不用品は、メルカリにとって 「宝の山」 と見たわけです。

ちなみにメルカリの調査によると、日本の家庭に眠る 「かくれ資産」 は国民1人あたり平均約53万円で、そのうち大掃除に捨てられる可能性のある不要品は1人あたり約8.5万円とのことです (参考記事) 。これらの品々は、メルカリのプラットフォームを通じて、新たな価値を生み出すポテンシャルを持っています。

メルカリの勝ち筋 (KSF) 


メルカリは、メルカリ上で出品したことがない人に初めて出品をしてもらうために、自分が所有している物の中に 「実はメルカリで売れるものがたくさんある」 と気づいてもらうことが、最初に押すべきボタンだと捉えました。

多くの人が持っているであろう不要品の価値に光を当て、メルカリを使っている人で出品をしたことがない人に、メルカリで売って、お金になる可能性に気づいてもらうことです。ビジネス用語で言えば、ここを KSF (Key Success Factor) にしました。

メルカリは、レトロなアイテムや懐かしの品々に対する関心を集め、これらの商品に対するメルカリでの供給と需要を生み出そうしたのです。

 「ウチの実家」 による具体的な打ち手


KSF の具体的な打ち手が 「ウチの実家」 の期間限定イベントです。

今の 30 ~ 40 代の人の実家の様子をリアルに再現し、この年代の人には懐かしのアイテムをそろえ、またもう少し若い Z 世代にとってはめずらしい昭和・平成レトロの物を展示しました。

実際のメルカリでの販売価格も表示することで、訪れた人々に自分にも売れるものがあるという気持ちを持ってもらうことを狙った打ち手です。

メルカリに出品したことがない人、またはこれまでに売ったことがある人にも、「実家に眠る "あれ" が売れるかもしれない」 と気づいてもらえさえすれば、出品できそうな物を思い浮かべてもらえ、メルカリで売りたいという意向を持ってもらえるでしょう。

これにより、自然と売る人が増え、メルカリでの出品数も充実するという流れが期待できます。

イベントでは、「疑似的に帰省できて、楽しかった」 「懐かしくて温かい気持ちになれた」 など純粋にイベントを楽しんだ声が聞かれました。「実家にある物がたくさんあった。メルカリに出してみたい」 という感想もあり、かくれ資産に気付いた人も多く見受けられたとのことです (参考記事) 。

メルカリは、かくれ資産の価値に気付いた人に向けて、メルカリに出品するハードルを下げるサポートをしました。来場者には 「もう使わなくなったけれど捨てられない物」 を一時的に保管しておくための 「メルカリエコボックス」 や、メルカリで出品するときに使う梱包材などもプレゼントされました。


学びの汎用化 (まとめ) 


では締めくくりとして、メルカリの事例からの学びを汎用化してみましょう。

マーケティングにおいては、次の順番で進めるといいです。

  • 対処すべき課題の明確化
  • 勝ち筋を捉え KSF を見極める
  • KSF から具体的な打ち手に落とし込み実行する

まずは対処すべき課題を明確にすることが重要です。

メルカリは、メルカリという CtoC プラットフォームの活性化のために出品者数と出品点数を増やすことを目指しました。これを実現するための課題が、今までに出品したことがない人に 「自分もメルカリで出品をしたい」 と思ってもらうことです。

次に、その課題に対する勝ち筋を捉え、効果的な押しボタンである 「Key Success Factors (KSF) 」 を把握します。今回の事例での KSF は、「実家に残ったままの不要な物の多くが、実はメルカリで売るとお金になる」 と気づいてもらうことでした。

そして、KSF から導かれる具体的な打ち手の実行が大事です。メルカリは期間限定で 「ウチの実家」 というリアルイベントを展開しました。

この一連の流れは、どのビジネスにおいても有効であり、メルカリから学べることです。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。