投稿日 2024/03/23

傘にまつわるストレスを解放する 「アイカサ」 。マーケティング 4P とビジネスモデルから紐解く、傘のシェアリングサービス

#マーケティング #ビジネスモデル

今回は、傘のシェアリングサービスの 「アイカサ」 を取り上げます。

アイカサのマーケティング 4P 、複数の収益源を持つビジネスモデルを紐解きます。

傘シェアリング 「アイカサ」 


アイカサは傘のシェアリングサービスで、アプリを通じて簡単に傘を借りられる仕組みを提供しています。

首都圏や関西の駅近くなど1200カ所にアイカサの傘立てがあり、アプリの登録者は50万人に上ります (参考記事) 。

料金は24時間以内に返却する1本140円のスポット利用と、月額280円で同時に2本まで借りられる使い放題プランの2つがあります。

アイカサをマーケティング 4P で整理すると、次のようになります。


  • Product: いつでもどこでも借りられ、返せる傘
  • Price: 1本140円 (24時間毎) の 「使った分だけプラン」 と月額280円で同時に2本までレンタル可能な 「使い放題プラン」 
  • Place: 傘の設置場所は大手鉄道会社10社の駅, 商業施設, オフィス, マンション, 大学など
  • Promotion: 街などに設置された傘立てとアイカサのロゴ入り傘が広告塔になっている。Web 広告 (運用型・アフィリエイト) も実施


アイカサのビジネスモデル



アイカサのビジネスモデルがすごく良くできていておもしろいです。

収益源は3つあります。

✓ アイカサの収益源
  • アイカサユーザーからのレンタル料 (使った分だけプラン or 使い放題プラン) 
  • 広告収入。傘のデザインに企業や商品の広告を入れられる
  • 設置料金。設置する商業施設やオフィスから設置料金としてアイカサに支払われる

広告の入った傘が人気


2つ目の 「広告収入」 について補足をすると、傘に企業や商品の広告が入っている傘は、実は人気のデザインになっています。

たとえば 「ジップロック傘」 です。

出典: PR TIMES

ジップロック傘は、ビニール製のジップロックをリサイクルし、アパレルの Beams がデザインしました。

他には、銀河の中に星座のごとく小田急路線図が浮かぶ 「小田急傘」 、近鉄電車とシカが描かれた晴雨兼用の 「奈良傘」 など、そのまま保有し返したくなくなるようなデザイン傘です。

広告が入ったアイカサの傘は、独自性と話題性を兼ね備えた 「歩く広告塔」 としての役割を果たしています。アイカサユーザーは人気の好きなデザインの傘を使えるだけでなく、広告を出す企業にとっても宣伝効果も期待できるため、双方にメリットが生まれます。

設置するメリットへの対価としての 「設置料金」 


アイカサの収益源の3つ目である 「設置料金」 についても補足しておきますね。

設置する施設にアイカサがお金を支払うのではなく、逆に設置料金としてアイカサにお金が入っています。

普通に考えると置いてもらう側、つまりアイカサが設置施設に支払いそうなところです。なぜ、アイカサの傘立てを設置する側がアイカサにお金を払っているのでしょうか?

例えばショッピングモールや飲食店などの商業施設にとっては、アイカサというシェアリングの傘立てスポットが店先にあれば、急な雨の時に利用を勧めるなど顧客サービスにつながります。また、マンションにアイカサを置けば住人へのサービスとマンションの価値向上に、オフィスに置けば従業員への福利厚生になります。

アイカサからのこうした価値提供の対価として、設置する側はアイカサに設置料金を支払っているわけです。

なお、設置場所で提携している鉄道会社は別で、鉄道会社にはアイカサから傘のレンタル本数に応じて収益の一部を鉄道会社に納めています。これは、単なる場所借りではなく、ビニール傘の廃棄を減らす活動のパートナーとしての連携を重視しているためとのことです。


アイカサを支える 「黒子」 の存在


アイカサは、ユーザーの多くが傘を外出先で借りて自宅近くで返すため、そのまま放っておくと傘が郊外へ流れていき、サービスが持続的ではない問題をはらみます。

この 「片道移動問題」 を解消するため、傘が余っている場所から足りない場所へと移動させる運び屋が、黒子としてアイカサのサービスをひそかに支えています (参考記事) 。

彼ら・彼女らは、使い終わった傘を郊外から都心に、必要な場所へと戻す作業を行います。黒子はアイカサを利用する人々には見えないところで、日々地道な作業を続けているのです。

アイカサという傘のシェアリングサービスは、目に見える傘やユーザー向けのアプリだけでは成り立ちません。ユーザーには見えないところで、サービスを支えている黒子たちの存在が、アイカサを利用する人にとっての便利さ、そしてサービスの持続可能性を実現しています。

彼ら・彼女らの献身的な努力が、アイカサのビジネスモデルの根底に流れる生命線であり、こうした黒子たちによるサポートがあってのアイカサなのです。


まとめ


今回は、傘のシェアリングサービスの 「アイカサ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ マーケティング 4P
  • Product: いつでもどこでも借りられ、返せる傘
  • Price: 1本140円 (24時間毎) の 「使った分だけプラン」 と月額280円で同時に2本までレンタル可能な 「使い放題プラン」 
  • Place: 傘の設置場所は大手鉄道会社10社の駅, 商業施設, オフィス, マンション, 大学など
  • Promotion: 街などに設置された傘立てとアイカサのロゴ入り傘が広告塔に。Web 広告も実施

✓ アイカサの収益源
  • アイカサユーザーからのレンタル料
  • 広告収入。傘のデザインに企業や商品の広告を入れられる。広告が入ったデザイン傘は人気に
  • 設置料金。設置する商業施設やオフィスから設置料金としてアイカサに支払らわれる (なお駅への設置にはアイカサが鉄道会社へ支払っている) 

✓ アイカサを支える 「黒子」 の存在
  • アイカサのユーザーの多くが傘を外出先で借りて自宅近くで返すため、傘が都心から郊外へ流れていってしまう
  • 傘が余っている場所から足りない場所へと移動させる運び屋が、黒子として便利なシェアサービスをひそかに支えている


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。