投稿日 2024/03/14

5世代モデルで理解する。BtoB 企業のためのマーケティング組織進化ガイド

#マーケティング #組織開発 #本

今回は、営業を変えるマーケティング組織のつくりかた - アナログ営業からデジタルマーケティングへ変革する (上島千鶴) という本を取り上げ、マーケティング組織を強化するヒントをお届けします。


マーケティングと組織開発について、ぜひ一緒に学んでいきましょう。

本書の概要



この本のテーマは、「BtoB 企業でマーケティング組織を全社的に機能させるためにはどうすればいいか」 です。

著者の過去13年間での、中堅から大手まで200事業体を超える現場での知見が詰まった1冊です。だからこそ言えるマーケティングへの問題提起が伝わってきます。


マーケティング組織の5世代モデル


BtoB 企業の成長に欠かせないマーケティングですが、マーケティング組織はいくつかの段階を経て成熟していきます。

本書では、BtoB 企業でマーケティング組織が機能してる度合いを5つの世代モデルとして定義しています。


✓ マーケティング組織の5世代モデル

  • 第1世代: 社内にマーケティングの機能が分散している (独立したマーケティング組織はまだない) 

  • 第2世代: マーケティング機能が1つの組織に集約される。ただしマーケティング活動の貢献度は数値では見えていない

  • 第3世代: マーケティング戦略の優先順位や方向性が明文化され、マーケティング施策が売上や顧客獲得にどう貢献したのかも把握できている

  • 第4世代: 新規顧客の獲得だけでなく、マーケティング組織が既存顧客にもアプローチし、営業が対応しきれない領域でも顧客接点がつくれている

  • 第5世代: 顧客に、誰が・いつ・どのような接触をしたのか、過去にどのような取引があったかなどが、データからマーケティングの影響範囲が可視化できている

5世代モデルは、そのまま本書での内容構成です。5つの世代について、各世代ごとの特徴、次のステージ (世代) に進むために必要なことを順を追って解説しています。

これは個人的な肌感覚ですが、日本の BtoB 企業では第1世代や第2世代が多いと見ています。独立したマーケティング部門がなかったり、あったとしても、営業や開発・製造の各部門との連携し、マーケティングが組織的に機能する状態になるにはまだこれからという印象です。

自分の会社はどの世代に当てはまるか、何をどう変えれば次の世代に進化できるかを当てはめながら読むと、自分ごと化された読書にできます。


マーケティング組織の適切な人数と評価指標は?


この本に出てくる問いで印象的だったのは、「マーケティング部門を新設したいが、何名が妥当で、どのような組織評価の指標を持つべきでしょうか?」 というものでした。

この問いは、本書の問題意識にも通じます。

マーケティング組織の事業貢献度


まずここで答えを出すべきは、マーケティング組織の人数規模や適切な評価指標ではありません。

そもそもとして、「新設するマーケティング組織の全社的な位置づけ、役割や機能は何か」 や 「マーケティング組織からの事業貢献をどこまで期待するか」 に答えを出すことが重要です。

こうしたマーケティング組織のミッションを明確にしない限り、組織人数や評価指標への回答はできないからです。マーケティング組織のメンバーに必要なスキルや人数は、組織の位置づけや期待する事業への貢献度に応じて変わります。

単に商品パンフレットを作る業務請負的な組織であれば、制作数や内容に応じてスキルを持った人材をそろえるだけでよく、あるいは外部委託でも可能でしょう。

一方で、もし事業目標の売上100億円だとして、目標100億円に対して 10% の貢献度を持つマーケティング組織を目指すのであれば、それ相応のチームが求められます。

年間10億円の売上貢献を達成できるだけの人材とスキルセット、環境整備、業務運用の仕組みを構築するなど、強い組織づくりを数年がかりで取り組むことになります。成果が確実に売上数字に表れる期間、たとえば3年後を目指して長いスパンで考え実行していくことになるのです。

マーケティング組織の定義


マーケティングの組織をつくったり強化するためには、自社におけるマーケティングとは何かを言語化することが大事です。

一言の定義と、解像度を高めてのマーケティングの役割も言葉に落とし込んでおきたいところです。

たとえば、

✓ マーケティングの役割
  • 潜在的な顧客を惹きつけたりこちらから見つけ、
  • 発見した見込み顧客との信頼関係を醸成し、
  • 既存顧客のパートナーシップとロイヤルティを高め、
  • 顧客から安心して取引できる企業として認識してもらい、
  • 案件機会を生み出し共創する活動から、
  • 市場を創造し、社会に貢献する

このようなマーケティングの役割についての言語化があることで、先ほどの 「新設するマーケティング組織の事業への貢献度、人員、評価指標」 の問いにも正面から向き合えるのです。

新設するマーケティング組織への質問と似たような質問として、「インサイドセールス部隊を新設したいが、何名が妥当で、どのような評価指標を持つべきでしょうか?」 に対しても同様です。

人数規模や評価指標の前に、そもそもとして 「インサイドセールスチームの役割や位置づけは何か」 、「事業貢献度をどのくらい期待するか」 に答えることが先です。こうしたそもそも論に立ち返って決めない限り、インサイドセールスは形だけの単なるセールス電話をかけまくるチームになるだけでしょう。

マーケティング予算の目安


この本で興味深かったのは、マーケティング予算のおおよその目安です。

BtoB の場合、年間のマーケティング予算は売上の何 % くらいなのでしょうか?

比較として、BtoC 大手の広告宣伝費は平均して 5% ~ 10% ほどとのことです (通販や化粧品などの広告費が多い場合は年間売上の 20% 近くを充てる業種もあります) 。

それに対して BtoB 企業は、本書で出てきた数字としてはマーケティング費用は売上の 0.2% から最大でも 1.5% の間に収まっているようです。BtoC の一般消費財の平均と比べてもかなり低いことがわかります。


まとめ


今回は、書籍 営業を変えるマーケティング組織のつくりかた - アナログ営業からデジタルマーケティングへ変革する (上島千鶴) を読み、学べたことをご紹介しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティング組織の5世代モデル: BtoB 企業のマーケティング組織は5つの段階で成熟していく。初期段階ではマーケティング機能が分散しているが、次第に役割は集約され貢献度合いが高くなり、最終段階では顧客の接点や取引履歴がデータでマーケティングの影響範囲が可視化される

  • マーケティング組織の人数と評価指標: マーケティング部門の人数や評価指標は、そもそもの組織の事業貢献度や全社的な位置づけによって異なる。事業目標に対する貢献度に応じた人材とスキルセットが必要

  • マーケティング予算の目安: BtoB 企業では、マーケティング予算は売上の 0.2% から 1.5% の範囲内に収まることが多く、BtoC 企業の平均 (5% ~ 10%) と比較して低い水準である

この本は 「マーケティング組織のありかた」 というテーマで、興味深く読めた本でした。

よかったらぜひ読んでみてください! Amazon はこちら



マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。