投稿日 2024/03/12

ミドルシニア男性の本音からの価値訴求。VARON の顧客理解からのマーケティングとは?

#マーケティング #顧客インサイト #価値提案

なぜ、ある商品は市場でインパクトを残し、別の商品はそうはならないのでしょうか?

マーケティングでの成功のカギを握るのは、お客さんの心の奥底に隠された本音、つまり 「顧客インサイト」 の発見にあります。

今回は、顧客インサイトの発掘と価値提案の方法について、おもしろいと思った事例から紐解きます。

メンズスキンケア 「VARON」 



サントリーウエルネスのメンズスキンケア 「VARON (ヴァロン) 」 は、2022年3月に発売された比較的新しいブランドです。

VARON は、特に中高年の男性をターゲットとし、徹底したデプスインタビューにもとづいた商品開発と、サンプル商品の配布を効果的に行ってきました。

200人超に 「生きる不安」 のインタビュー


サントリーウエルネスは、200人超に 「生きる不安とは何か」 を聞き取りました。残りの人生をどう生きたいか、生きていく上でどのような不安があるかなどの質問を投げかけ、ターゲットとするミドルシニア男性がどう思っているかを理解しようとしました。

彼らの共通の声として挙がってきたのは、「人生の最後まで若々しくエネルギッシュに生き抜きたい」 「社会とつながり続けたい」 「家族と良好な関係を築いたままでいたい」 といった思いです。また、年齢とともに外見が変わることで、自信を失い気持ちが落ち込み、前向きに生活が送れなくなるといった悩みも浮き彫りになりました。

自分の見た目を整えるために、運動、健康的な食事の摂取に取り組んでいる男性は多いものの、一方でスキンケアは選択肢としてあまり選ばれていない実態もわかりました。

これらがインタビューからわかったターゲット顧客の行動や心理です。

広告での訴求を変更


理解した顧客心理に対して、サントリーウエルネスが見出したお客さんへの提供価値は、「肌を整えることで、ミドルシニア男性の自己肯定感を高め、人との関係性を良くすること」 でした。

この価値を伝える広告では、1年目は 「告白。」 をテーマにしていましたが、注目したいのは、2年目の訴求は 「証言。」 になったことです。

 「告白」 とは、自分の目線からの変化や効用を自分の言葉で伝えるというものです。それに対して 「証言」 は周囲の人の第三者からの印象や評価を伝えています。

変更したのは顧客インサイトにもとづいています。VARON のターゲット顧客であるミドルシニア男性には、「人生の最後まで若々しくエネルギッシュに生き抜きたい」 「社会とつながり続けたい」 「家族と良好な関係を築いたままでいたい」 といった本音がありました。こうした望みが実現しているかどうかは、自分のことを自分自身から見た姿だけではなく、他人からどう思われてるか・見られているかも大事な要素でしょう。

広告での訴求を 「告白」 という自分視点から、「証言」 という他者視点を入れることで、ターゲット顧客の奥にある 「これからの人生での望みを叶えてくれる VARON への期待価値」 をより多角的につくり出しているのです。


顧客インサイトからの価値提案


VARON がやったことを一般化すると、次のような流れです。

✓ 顧客インサイトからの価値提案
  • 顧客インサイトを見出す
  • インサイトに応える価値を定義する
  • 提供価値に共感できるメッセージに落とし込む

顧客インサイトの見出し


顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。

心のホットボタンとか心のツボのようなものです。顧客インサイトは、普段は本人は意識していないものの心のホットボタンを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理のことです。

インサイトを見出すためにお客さんが奥に持っている本音まで掘り下げるわけですが、本音は必ずしも言語化されていたり、お客さんから直接説明されるわけではありません。顧客インサイトはお客さんに教えてもらうというより、マーケターが自ら発見するものなのです。

インサイトからの価値提案


顧客インサイトを見出すのは簡単ではなく、試行錯誤や紆余曲折を経てようやく発掘できます。

ただしインサイトに行き着いたとしてもまだ道半ばです。お客さんの心に響くように言い換える必要があります。顧客インサイトからの価値提案が次のハードルです。

今回の VARON の事例では、ミドルシニア男性への 「生きる不安」 のインタビューから、「若々しく生き抜きたい」 「社会とつながり続けたい」 「家族と良い関係を築きたい」 という本音を引き出しました。こうした顧客理解にもとづき、VARON からの 「これからの人生での望みを叶えるためのブランド」 という価値を提案しています。

このように、顧客インサイト、お客さんにとっての価値の再解釈、心に響くメッセージ化という順番が大事です。お客さんの奥にある本音 (顧客インサイト) を起点に、お客さんに共感されるマーケティングにつながります。


まとめ


今回は、サントリーウエルネスのメンズスキンケア VARON を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 顧客インサイトからの価値提案
  • 顧客インサイト (人を動かす隠れた気持ち (心のホットボタン) ) を発掘する
  • インサイトに応える価値を定義する
  • 提供価値に共感できるメッセージに落とし込む


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。