今回は、SHISEIDO MEN の CM を取り上げます。
反町隆史さんと松嶋菜々子さんが夫婦で共演したこの CM では、普段意識しない自己認識と他者認識のギャップがうまく描かれ、人の心をつかむ巧な演出がされています。
ぜひ一緒にマーケティングへの学びを深めていきましょう。
反町 & 松嶋夫婦が初共演した CM
出典: PR TIMES
2023年11月の話ですが、資生堂が 「SHISEIDO MEN」 の新しい CM を公開しました。「男の美しさは、肌に出る」 篇です。
アンバサダーは俳優の反町隆史さんと松嶋菜々子さんです。お2人が夫婦として CM で共演するのは、なんと今回が初めてです。
CM では 「男の美しさは、肌に出る。」 というキーメッセージのもと、テーブル越しに見つめ合う反町さんと松嶋さんからはじまり、肌のお手入れをする反町さんを見守る松嶋さんの姿を描いていきます。肌を通して垣間見えた夫の生きざま、想いを妻からの視点で松嶋さんの言葉でナレーションが語られます。
CM の見どころは、反町さんと松嶋さんの仲睦まじい夫婦ショットです。
妻である松嶋さんの真っ直ぐな視線に思わず目をそらしてしまう反町さんの照れ笑い、そんな夫を見つめる松嶋さんの優しい眼差し、お互いへの気持ちや愛情がにじみ出る表情、そして、自然体なやり取りが微笑ましいシーンが流れます。
気づき訴求
マーケティング視点で見た時に、この CM のうまいと思うところは男性への肌をケアする意識を自然と高める訴求になっていることです。
肌への気づきを起こす
CM 内では資生堂の化粧品を使ってくださいとは一言も言っていませんが、妻という最も身近なパートナーが自分をどう見ているかについて、松嶋さんのナレーションから視聴者の男性はあらためて知ることができます。自分の肌は実は多くのことを無言のうちに語っていることに気づくわけです。
キーメッセージである 「男の美しさは、肌に出る。」 から、自分の肌をケアするために、何かやったほうがいいかもしれないという気持ちにさせられます。
気づき訴求から課題感の醸成
資生堂の CM での訴求方法を一般化して表現をすると、見込み客への 「気づき訴求」 や 「必要性訴求」 です。いきなり自社商品を買ってくださいとアピールするのではなく、気づきや必要性を生むというまずはその下地をつくることの重要性です。
この CM でのアプローチは、妻からの視点や捉え方をナレーションで聞くことで、自分のことをどう見られているかについて、実は肌は大きな役割を果たしていることへの気づきを提供します。
人は誰でも自分のことを良く見られたいという気持ちはあるでしょう。そのための1つの方法として、肌を美しくしたほうがいいかもというケアへの必要性や課題感が自分の中で生まれることを狙っています。
人の奥にある人間心理を捉え、15秒や30秒という短い時間で気づき訴求をしているのが反町さんと松嶋さんの共演 CM です。
パートナー視点での描写
一般的な CM は商品自体の特徴を売り手や使用者からの視点で語られますが、SHISEIDO MEN の CM では、妻の視点というパートナーの目を通して物語を展開しています。このアプローチは、商品やカテゴリーに対する新しい認識をもたらします。
商品を中心とするマーケティングコミュニケーションでは、直接的にその特徴や利点を強調することが多いでしょう。これに対し、今回の CM では直接的な商品やブランドの訴求をせず、視聴者の共感や気づきを引き出すことに焦点を当てています。
妻というパートナーの視点からの言葉を本人のナレーションで用いることで、ブランドが提供する期待できる効果、感情的な価値、人間関係への影響を伝えようとしています。
自己と他者の認識ギャップからの効果
また、このナレーション手法は、視聴者に自己認識と他者認識のギャップを意識させます。
妻から見た夫の肌の印象を描くことで、視聴者の男性は自分自身は他人からどのように見られているか、またそれがどのような意味を持つのかを考えるきっかけを得ることでしょう。単に商品の特徴を説明する以上の効果を生み出します。
このように、SHISEIDO MEN の CM は、商品の直接的なプロモーションを超えたマーケティングコミュニケーションになっています。
夫婦という親密な人間関係を通じてブランドの世界観を描き、視聴者の心に残るメッセージを伝えることで、気づきや興味を自然に引き出そうとしているのです。
まとめ
今回は、SHISEIDO MEN の反町隆史さんと松嶋菜々子さんの夫婦共演 CM を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- SHISEIDO MEN の CM は男性の肌ケア意識を自然に高める 「気づき訴求」 がある。直接的な商品のアピールは最小限にとどめ、視聴者の男性に自分の肌への関心やケアの必要性の醸成を促している
- 妻の視点からのナレーションにより、視聴者の男性が自分の肌を他人にどう見られているかを考えるきっかけを提供する。普段は考えることはあまりない自己と他者の認識のギャップを意識することで、肌ケアへの必要性とともに視聴者の記憶に残る効果が期待できる
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