今回は、京都にある歴史的なお寺 「西本願寺」 のブランディング事例を取り上げ、ブランド構築のステップを解き明かします。
西本願寺のブランディング
京都の西本願寺が、400年を超える歴史で初のブランドロゴとタグラインを制定しました (リリースはこちら) 。
ブランドロゴとタグライン (出典: AdverTimes.)
浄土真宗の信者に限らず広く一般の人々に親しんでもらい、寄り添っていくためのシンボルとして、今後あらゆる情報発信の場面で使っていくとのことです。
ロゴとタグライン
ブランドロゴのモチーフになったのは、国宝でもある西本願寺の御影堂 (みえいどう) と阿弥陀堂の2つのお堂です。境内の大イチョウの葉のイメージも重ね合わせて制作されています。
タグラインにはメインとサブの2つがあります。
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メイン・タグライン: 「人はひとり。だからこそ、ご縁を見つめたい。」
「無縁社会」 と言われるほど人々の孤独・孤立が社会問題になるなかで、西本願寺とその僧侶が果たしていく役割を表現する。
僧侶と一般の人々との "ご縁" や、一般の人々同士の“ご縁”を大切に、自他共に心豊かに生きられる社会の実現を目指すという意志を込めている。
サブ・タグライン: 「誰もが、ただ、いていい場所。」
西本願寺は誰もが自由に入れて、様々な思いを持って過ごせる場所。
孤独を感じたり、自分の居場所がないと感じる人たちの気持ちに寄り添い、耳を傾ける存在が西本願寺とその僧侶であるべきという原点を確認し、伝えるための言葉。
伝える内容やシーンによって、メインとサブの2つのタグラインを使いわけていくとのことです。
ブランドに込めた想い
西本願寺がその歴史で初めてのブランディングを展開していくにあたり、記者会見では次のようなブランドに込めた想いが語られました。
西本願寺の安永雄玄執行長は会見で、次のように述べた。
「現代においてお寺は、葬式やお墓が主体かのように捉えられている。しかし元来は人々の生活の中心にあり、生きる喜びも悲しみも共有する存在だ。宗門が掲げる『自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現』とは、現代風に言えば『ウェルビーイングの実現』となるだろう。そのためには、西本願寺はもちろん、どこのお寺も魅力づくりに励み、一人でも多くの方に参拝いただくことで、お寺や僧侶とご縁を結ぶ機会を増やすことが重要だと考えている」
また、会見には、ブランド全体のコンセプト設計とタグラインを手がけたクリエイティブディレクターの原田朋氏も出席。
原田氏は 「タグラインのテーマはご縁を見つめ、ご縁を大切にすること。つまり『無縁社会を、ご縁社会へ』に変えていこうという、西本願寺の意志表明だと思っている。クリエイティブディレクターとして、そのための貢献ができれば」 とコメントした。
ブランドのつくり方
西本願寺の事例には、ブランドをいかに構築していくかに学びがあります。
具体的には、次のようなステップで進めていきます。
- 現状認識からの課題感の抽出
- あるべき姿としてのビジョンの描写
- 言語化と可視化 (メッセージ, タグライン, ロゴなど)
- 発信と行動から体現し、ビジョンを実現していく
ではブランドのつくり方をこの順番で見ていきましょう。
現状認識からの課題感の抽出
ブランディングを進めるために最初にやることは、現状把握です。しっかりと現状を認識し、課題感を抽出します。
西本願寺の場合は、現代社会において 「無縁社会」 と言われるほど人々の孤独や孤立が社会問題となっていることを捉えました。また、お寺はお葬式やお墓が主体であるかのように人々から見られていることも、この状況も変えたいというのもブランディングの背景になりました。
このような現状認識から西本願寺は自らや社会の課題を抽出し、それに対応するブランド戦略を立てていきました。
あるべき姿としてのビジョンの描写
ビジョンには大きく2つの種類があります。
- 自分たちの目指す姿としてのビジョン
- 理想とする世の中を描くビジョン
西本願寺の事例に当てはめると、前者の 「自分たちの目指す姿」 とは、西本願寺は誰もが自由に入れ、様々な思いを持って過ごせる場所を目指します。
孤独を感じたり、自分の居場所がないと感じる人たちの気持ちに寄り添い、耳を傾ける存在であるべきだと考えています。また、お寺は生活の中心であり、生きる喜びや悲しみを共有する場所になることで、「自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現」 、すなわち 「ウェルビーイングの実現」 を目指しています。
ビジョンのもう1つの側面である 「理想とする世の中」 は、西本願寺はご縁を見つめ、ご縁を大切にすること、つまり 「無縁社会を、ご縁社会へ」 に変えようとしています。
ここには浄土真宗の信者に限らず、広く一般の人々に親しんでもらい、寄り添う姿勢を示します。僧侶と一般の人々との縁や、一般の人同士の縁を大切にし、皆が心豊かに生きられる社会の実現を目指します。
言語化と可視化
理想とするビジョンを描いたら、次に重要なのは 「言語化と可視化」 です。メッセージを磨き、タグラインとしての言語化、ロゴへの可視化です。
西本願寺は、浄土真宗の思想である 「人は本来孤独であるからこそ、人とのご縁のありがたさに感謝し、ご縁を大切に生きることができる」 を反映させたメッセージ、タグライン、ロゴをつくりました。
これらは、西本願寺の社会的な役割を広く内外に伝え、視覚的にも印象付ける役割を果たします。
発信と行動から体現し、ビジョンを実現していく
西本願寺は、ここまで見てきたブランディングから、メッセージを発信し、具体的な行動でビジョンを体現していくことでしょう。
理想とするビジョンをつくり、言語化と可視化からメッセージやロゴをつくり、それらを伝え、自ら先頭に立ち体現していくことで、お寺と人々との 「ご縁」 を深め、社会に貢献していくわけです。
ブランディングは、自分たちが目指す姿や理想とする世の中をビジョンとして描き、それを旗を掲げるところから始まります。そして、内側から外側へと広げていくプロセスなのです。
まとめ
今回は、京都 西本願寺のブランディングの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントとして、ブランドのつくり方です。
- 現状認識からの課題感の抽出
- あるべき姿としてのビジョンの描写 (目指したい自分たちの姿, 理想とする世の中)
- 言語化と可視化 (メッセージ, タグライン, ロゴなど)
- ビジョンを旗として掲げ、自らの発信と行動から体現し、ビジョンを実現していく
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