投稿日 2024/03/28

看板のないお店。「逆張り戦略」 で生み出す心をつかむ顧客体験

#マーケティング #差異化 #独自価値

今回は、お店の看板がなく見つけにくかったりアクセスが不便な場所にあるお店である 「看板のないお店」 の事例を取り上げます。

ともすると人気店にならないようなお店が、なぜ顧客体験を豊かにするのでしょうか?

 「逆張りからの価値提供」 というテーマで、ぜひ一緒にその秘密を探っていきましょう。

看板のない店


看板のない会員制の飲食店が人気を集めています。

住所非公開で、見つけにくかったりお店に行くのに手間がかかりますが、来店することが簡単ではない分だけ、お店への期待やワクワク感を生み出すようです。たどり着きにくいことが口コミを増やし、集客力を高めています。

実際に看板のない店は、どんな雰囲気なのでしょうか?

渋谷駅近くにある雑居ビルの一室。ドアを開けるとバーのような空間が広がる。会員制パフェ店 「Remake easy (リメークイージー) 」 は看板がなく、住所は非公開。地図アプリでも検索できず、訪問するには不定期で募集される会員権を購入するか、会員と同伴する必要がある。

 (中略) 

イメージしたのは米国の禁酒法時代に密造酒をこっそり提供する 「Speak easy (スピーク・イージー) 」 と呼ばれる隠れ酒場だ。薄暗い店内では、バーカウンター越しにパティシエがパフェを作る様子を間近で見ることができる。

他には、看板のない居酒屋もあります。

東京・吉祥寺の飲み屋街 「ハモニカ横町」 にある居酒屋 「雲ガクレ」 です。居酒屋がひしめく通りのビルの2階にあり、1階の他店舗を通過しないとたどり着けません。

中華料理店の 「中村 玄」 は、マンション内にお店を構えています。入り口はまるでマンションの一室で、マンションのドアを開けると飲食店というサプライズを楽しめる点が、口コミで広がりました。


学べること


では 「看板のないお店」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

不便さが生む魅力


看板のない飲食店というコンセプトは、集客に非効率でお客さんにとって不便なお店に思えます。

しかし、この 「見つからないこと」 や 「たどり着きにくさ」 が、実は顧客体験の価値を高めるポイントになっています。お客さんは店を探し出し、訪れるまでの過程を一種の冒険や発見の旅のように感じ、プロセス自体が楽しみや期待感を生むわけです。

一見すると不便に見えたり効率が悪くなる要素が、独自のお客さんへの体験価値をつくり出し、お店への興味や期待を高める要因になっているのです。

逆張りのアプローチの効果


一般的にビジネスでは、お客さんの利便性やタイムパフォーマンス (タイパ) を優先して考えることが多いですが、看板のないお店は逆のアプローチを取っています。看板を出さず、住所を非公開にするなど、意図的にアクセスしにくくすることで、他とは異なる独自の体験価値を提供しています。

このような 「逆張りの戦略」 は、お客さんにとって他にはない新鮮な経験となり、体験を記憶に残りやすくします。結果として他の店舗との差異化を生み出し、他ではなく 「看板のないあのお店に行きたい」 という選ばれる理由になっているのです。

差異化で見落としがちなこと


ビジネスにおいて差異化は重要です。しかし、ただ単に他と違うことをするだけでは意味がありません。

というのも、差異化がお客さんにとっての価値に結びつかない場合、それは単なる売り手の自己満足に過ぎないからです。

重要なのは、その差異化がどのようにお客さんや利用者にとっての価値に結びついているかです。違いがどのようにお客さんを満足させ、ときには感動を生み出し、商品やサービス、店舗への親近感や愛着を引き出すかに焦点を当てるべきです。

看板のないお店の事例では、通常の店舗とは異なる不便さ自体がユニークな体験となり、人々の興味を引き、お客さんにとっての新鮮で独自の体験価値を提供しています。差異化をすることが良い顧客体験に結びついた成功例と言えるでしょう。


まとめ


今回は 「看板のないお店」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 看板のない飲食店は不便なことが顧客体験の価値を高めているユニークな事例。お客さんは、お店探しを冒険のようなおもしろさ、来店前の期待値が高まるなどの新鮮な体験を楽しんでいる

  • 差異化は大事なことではあるが、他との違いがお客さんにとっての価値になっている必要がある。違いがどうお客さんのニーズを満たし、ときには感動につながり、お客さんからの親近感や愛着を生んでいることが重要


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。