投稿日 2024/03/11

超入門 ストーリーでわかる 「起業の科学」 。新規事業成功への実践ガイド

#マーケティング #新規事業 #本

新規事業を成功に導く秘訣はどこにあるのでしょうか?


今回は、書籍 超入門 ストーリーでわかる 「起業の科学」 (田所雅之) を取り上げ、アイデア検証から始まり、隠れた顧客の課題を発掘し、市場にマッチする商品を生み出す 「新規事業プロセス」 を探求します。

本書の概要



この本は、すでに刊行されている 起業の科学 というベストセラー本の入門書です。


架空のビジネス物語を通して、新規事業をいかに成功させるかをわかりやすく学ぶことができます。

小説形式での七転び八起きのストーリーを読み進めるうちに、会社での社内起業やスタートアップ企業での 「新規事業のリアルな勝負所」 が頭に入ります。

物語の主人公は釣具メーカーに勤務する若手社員です。入社後は営業職に就いてきましたが、新規事業部に配属され、将来的に売上100億円の新規事業を立ち上げるという難題に直面します。

新しい事業を立ち上げることに右も左もわからない主人公は失敗の連続ですが、メンターである田所さん (著者がモデル) のサポートを得て未経験の壁を越える方法と、新規事業でよくある 「57のワナ」 を学んでいきます。

これらの落とし穴の存在を知っておくだけでも、新規事業の成功確率を高めることができるでしょう。


新規事業


新規事業の全体像


本書の土台となっているのは、次のような新規事業の全体プロセスです。

出典: PR TIMES

✓ 新規事業の全体像プロセス
  • アイデアの検証 Idea Verification
  • 顧客課題の解像度を上げる CPF (Customer Problem Fit) 
  • 顧客が抱える問題へのソリューションの磨き込み PSF (Problem Solution Fit) 
  • お客さんが本当に求めている商品やサービスをつくる PMF (Product Market Fit) 
  • 事業の持続可能な成長を実現させる Scale

この道のりは直線的に進むと思われがちですが、実際は異なります。

詳しくは本書をぜひ読んでいただきたいですが、仮説の修正を繰り返し、時には大きな方向転換 (ピボット) を行い、紆余曲折から場合によってはプロセスを前に戻り、少しずつ進んでいきます。

本質的な顧客課題の発掘


新規事業の成功のカギは、お客さん自身も実はまだ気づいていなかったり、明確に言語化できていない 「本質的な顧客課題」 を見つけることにあります。

この本では、具体的な顧客理解と課題発掘の方法がたくさん出てきます。

たとえば、

  • ターゲット顧客の 「エンパシーマップ」 の作成方法
  • 新規事業の初期段階で向き合うべきアーリーアダプター層の特定
  • ジョブシャドウイングからのユーザー観察

これらを通して、お客さんの真の望み、隠れている不満や不都合などの 「不 (ペインポイント) 」 を掘り当て、未解決の課題を明らかにします。

エンパシーマップ


エンパシーマップとは、お客さんの本質的なニーズや課題を深く理解するためのツールです。

このマップは次の要素から成り立っています。

✓ エンパシーマップ
  • 考えていること (Think / Feel) : 顧客が日々何を考え、感じているか
  • 聞いていること (Hear) : 顧客が友人や家族からどのような情報を得ているか
  • 見ていること (See) : 顧客がどのような価値観を持ち、世界をどう見ているか
  • 言っていること (Say) : 顧客の周囲への言動
  • 苦痛 (Pain) : 顧客が何に苛立ち、何に悩み、どのような困難に直面しているか
  • 得たいもの (Gain) : 顧客が実際に何を得たいと思っているか

アーリーアダプターを見極める質問


アーリーアダプターは、新しい製品やサービスを早期に受け入れ、試す意欲のある人たちを指します。

アーリーアダプターを特定するための質問例は以下の通りですが、これらの質問にイエスであったり具体的な答えが返ってくれば、アーリーアダプターの可能性が高いでしょう。

✓ アーリーアダプターを見極める質問例
  • 現在の課題を解決するためにどのような代替案を利用していますか?
  • その代替案に満足していない点は何ですか?
  • この課題を解決できる場合、どの程度の予算を確保することが可能ですか?

ジョブシャドウイングの際の質問例


ジョブシャドウイングでは、お客さんが日常的にやっていることや業務を観察し、彼ら・彼女らの作業方法や使い方、生じている 「不」 を理解します。

ジョブシャドウイングをより効果的に行うために、次のような質問をするといいです。

✓ ジョブシャドウイングの際の質問例
  • 何か特定の作業で時間を取られている点はありますか?
  • 同じことを繰り返していませんか?
  • 問題や面倒な事態を避けるために最適でない手段を取っていませんか?
  • 何かに対してフラストレーションを感じていますか?
  • 重要でないにも関わらず、やらざるを得ない手順はありますか?機械で代替できる作業はありませんか?
  • 紙のリスト、Excel 、他社サービスなど、何か他のツールを使用していますか?

解消すべき5つの不


新規事業の成功には、以下の5つの不 (自社にとって望ましい状態ではないこと) を解消することが重要です。

✓ 解消すべき5つの不
  • 不認知: サービスやプロダクトが知られていない状態。ターゲットユーザーが読むメディアへの広告掲載などで解消する
  • 不信: サービスに対する不信感。利用者のポジティブな体験談の掲載などで解消する
  • 不要: サービスやプロダクトの必要性を感じていない状態。利用用途や予算に応じたカスタマイズで解消する
  • 不適: サービスやプロダクトがお客さんの状況や問題解決に適していないと感じられる状態。個別のフォローアップで解消する
  • 不急: サービス利用の緊急性が低いと感じられる状態。期間限定の特典や無料サービスで解消する

PMF の達成


新規事業が成功するかどうかのターニングポイントになるのは、「PMF の達成」 です。

PMF とは Product Market Fit の略で、直訳すると 「自社プロダクトが市場にフィットしている状態」 です。

PMF のニュアンスをもう少し詳しく共有すると、PMF とは、適切な市場を選択し、想定するお客さんから 「お金を払ってでも欲しいとプロダクトである」 、「これがないと困る」 のように自社プロダクトがお客さんに本当に必要とされている状況です。

新規事業のプロセスの前半は、仮説を立ててお客さんにぶつけ、仮説検証を繰り返しながら、いかに PMF に到達できるかの勝負なのです。

新規事業を持続可能にするための UX と LTV


新規事業の後半戦は、ビジネスを持続可能なものにすることです。

ここでポイントになるのは、UX と LTV です。

UX と LTV


UX とは User Experience で、「 (自社商品・サービスを使うことでの) 顧客体験」 のことです。

LTV とは Life Time Value で顧客生涯価値と訳されますが、お客さんが企業にもたらす総利益の予測値です。これは、お客さんが企業と関わる全期間にわたって得られる収益を指します。

一方の立場を顧客視点に変えれば、LTV というのはお客さんがその商品やサービスから得る価値の合計となります。

UX をより良くし、LTV を向上させる


新規事業を持続可能なものにするためには、商品を販売することに加えて、 別の付加価値を提供できないか、すなわち 「ユーザーの総合的な体験である UX をより良くできないか」 という視点が大事です。

提供すべき付加価値を考える際のポイントは、お客さんの満足度のピークを購入時に持ってこないことです。

商品を買うという行為は、あくまでも企業と顧客の関係性が始まったタイミングにすぎません。大切なのは、購入後もお客さんとの関係を持ち続け、お客さんに価値をもたらし、顧客満足度を高めていくことだからです。

購入後もずっと関係を維持して、ユーザーに寄り添いながら提供価値を高めていくことで、LTV が向上し、事業の持続可能な発展につながるのです。


まとめ


今回は、超入門 ストーリーでわかる 「起業の科学」 (田所雅之) という本をご紹介し、新規事業の立ち上げ方を見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 新規事業プロセスは、アイデアの検証から始まり、顧客課題の解像度を上げ、問題へのソリューションを磨き込み、市場に受け入れられる商品を生み、持続可能な事業成長を実現させていくこと

  • 新規事業の成功は、お客さんが気づいていない 「本質的な顧客課題」 の発掘にある。エンパシーマップ作成やアーリーアダプター層の特定、ジョブシャドウイングを通してお客さんの真の望みや隠れた不満を明らかにしていく

  • PMF (Product Market Fit) の達成が新規事業の成功のカギを握る。お客さんに本当に必要とされる商品をつくり出し、UX (ユーザー体験) と LTV (顧客生涯価値) の向上が持続可能な事業発展につながる

この本のタイトルには、「超入門」 とあるように、ビジネス物語での主人公と田所さんの会話形式と、章ごとの解説で書かれ読みやすい本です。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。