ビジネスで成功するには、顧客ニーズをいかに理解し、製品開発やマーケティングに活かせるかがカギを握ります。
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こちらの いかなる時代環境でも利益を出す仕組み (大山健太郎) という本から、アイリスオーヤマの事例を通して、どのように 「ユーザーイン」 のアプローチをとり、全社的な戦略と連携で利益を継続的に生み出せるのかを探ります。
アイリスオーヤマ
本書の概要
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著者は、家具大手のアイリスオーヤマの会長である大山健太郎さんです。アイリスオーヤマの実質的な創業者にあたる方です。
アイリスオーヤマがかつて倒産寸前になり、苦しい環境に適応し試行錯誤し続けてできた 「利益を出す仕組み」 を興味深く読めました。
経営理念
アイリスオーヤマの経営理念は、次の5つを掲げています。
- 会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立すること。
- 健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
- 働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
- 顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
- 常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。
マーケティングの観点で注目したいのは、4つ目です。
顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
市場創造に重点を置き、モノづくりやモノを売るところからさらに一歩進んで 「生活提案型企業」 と位置づけています。
仕組み化の徹底
この本の全体を通して強く印象に残るのは、「仕組み化の徹底」 です。
アイリスオーヤマは、どんなビジネス環境になっても利益を持続的に生み出し続ける仕組みづくりに専念してきました。仕組み化は経営の核心であり、時代や環境の変化に対応するために不可欠なことであるという捉え方です。
技術だけではなく、持続可能な製品開発の仕組みが企業を支えると考え、アイリスオーヤマはこれをビジネスモデルに組み込んでいます。長年にわたり時間をかけて仕組みを構築し、アイリスオーヤマの成長を支えてきました。
ユーザーイン
この本をマーケティングの観点からおもしろく読めるのは、「ユーザーイン」 というアプローチです。
ユーザーインとマーケットイン
ユーザーインはマーケットインから派生した言葉で、ユーザーインとは 「 (最終的な) 商品を使う人」 に焦点を当てます。使う人にどうすれば役に立ってもらえるか、価値を提供するにはどうすればいいかを徹底して考えていきます。
個人的な解釈ですが、一般的によく用いられる 「マーケットイン」 よりも、ユーザーインはさらに解像度を高く捉えると理解しました。
マーケットというと商品を使う人以外にも、商品を買う人、商品を売る人やお店、流通させる会社、競合他社など多様なプレイヤーが存在します。これらを全て含めてマーケット (市場) となりますが、市場の中でユーザーにフォーカスすることで向き合う相手がより明確になるのがユーザーインのアプローチなのです。
ユーザーインの徹底
アイリスオーヤマでは、ユーザーインは経営の中核を成し、企業文化として深く根付いています。エンドユーザーが 「役に立つ」 「使い勝手がいい」 と感じる製品を実現するために、社内の全員がユーザーインの視点を持つことを目指しています。
製品開発、マーケティング、販売の各ステージでユーザーの視点を常に取り入れることで、ユーザーが本当に必要とする製品を生み出し、市場の変化に対応しています。
新陳代謝と変化をする仕組み
アイリスオーヤマの経営で興味深いのは、新陳代謝と変化をすることを仕組み化していることです。
新規投資と新商品開発の 50% 目標
大企業病を防ぎ、常に新しい価値を消費者に提供するために、アイリスオーヤマは経常利益の 50% を新市場開拓のための投資にまわします。
また、新製品の売上比率を売上全体の 50% 以上にすることを目標にしています。ここで言う新製品とは発売して3年以内の製品を指します。
新製品比率 50% という目標を1990年頃から意識するようになり、新製品比率は1991年以降で 50% を切ったことはほぼないとのことです。2010年代に入ってからは、LED 電球や家電、お米などの新製品を投入するようになったこともあり、60% 前後を維持しているそうです (2019年度は売上高に占める新製品比率は 64% ) 。
設備稼働率 70%
他にも変化に対応する仕組みはあります。
設備稼働率の目標設定を、あえて 70% 以下にとどめています。稼働状況に常に余裕を持たせ、突発的なニーズにも対応できるようにするためです。
アイリスオーヤマの 「どんな環境でも利益を出す仕組み経営」 は、一見すると非効率でも、長い目で見たり広い視野では理にかなっています。
全社的に顧客起点になる伴走する仕組み
アイリスオーヤマには 「全社的に顧客起点になる伴走する仕組み」 があります。
リレー型ではなく伴走型
企業内の全ての部門が顧客ニーズや期待を中心に据え、それにもとづいて連携して動く体制です。アイリスオーヤマでは、製品開発から販売に至るまで、企業活動の各段階でユーザーインからの顧客視点を組み込んでいます。
新製品の企画段階から製造、マーケティング、販売、アフターサービスに至るまで部門間の壁を超えて協力し合います。
これは、一般的な企業組織で見られるリレー型、すなわち、各組織で明確な役割があり、役割を終えれば次の組織にバトンを渡す業務プロセスの流れとは異なります。各部門が個別最適ではなく、顧客目線のユーザーインからの全体最適を目指して動くわけです。
たとえば、製品開発部門と販売部門が密に連携し、市場の動向や消費者の声や反応をリアルタイムで共有し、製品開発に反映させることで、ユーザーニーズに沿ったユーザーインの製品を生み出せるのです。
プレゼン会議
アイリスオーヤマの伴走するアプローチの中心には、社内の意見や情報を1つの場で共有し、迅速な意思決定を行う 「プレゼン会議」 があります。
プレゼン会議では、社長と関係部署の意思決定者の全員が製品のアイデア段階から関与し、同じ目線になり消費者ニーズを理解し、新製品開発の決断を下します。プレゼン会議によって部門間の協力と情報共有が促進され、組織全体が一致団結してユーザー満足度の向上を追求します。
アイリスオーヤマの各組織が伴走する仕組みは、単に製品開発を効率化するだけでなく、企業文化や組織の働き方にも大きな影響を与えています。
一般的な組織運営において生まれる障壁を取り除き、部門間の協力とコミュニケーションを強化することで、ユーザー中心の企業文化を構築しています。これにより、消費者がまだ気付いていない潜在的な望みや不満にも対応し、市場を創造する新製品をつくり出すのです。
まとめ
今回は、書籍 いかなる時代環境でも利益を出す仕組み (大山健太郎) を読み、学べることを見てきました。
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最後にポイントをまとめておきます。
- アイリスオーヤマの経営や事業は 「ユーザーイン」 を中心に据え、商品の使用者のニーズに焦点を当てている。生活提案型企業としてユーザーが本当に必要とする製品を提供し、市場を創造してきた
- アイリスオーヤマはどんな環境下でも利益を継続的に生み出すための仕組み化を徹底して続けてきた
- リレー型ではなく 「伴走型」 の組織運営を採用。全部門がユーザーインを中心に連携し、市場動向や消費者の声を製品開発に反映させることで、ユーザー満足度の向上を追求している
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