今回は書評です。
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おいしいものだけを売る - 奇跡のスーパー 「まるおか」 の流儀 (丸岡守) という本を読み、特に戦略の観点で学びが多くありました。
スーパーまるおかが、いかにして 「賢者の盲点」 を突き、競争優位を生み出しているか、その秘密を紐解いていきましょう。
スーパーまるおか
出典: スーパーまるおか
この本の著者の丸岡守さんは、スーパー 「まるおか」 の経営者です。
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書かれている内容は、丸岡さんの小売経営の考え方、これまでに何をやってきたのかです。丸岡さんの思想、経営、実践内容が惜しみなく公開された1冊です。
まるおかは、群馬県の高崎市にあります。
企業理念を 「食は命なり」 とし、安全・安心でおいしい食品だけを提供しています。本のタイトルに 「おいしいものだけを売る」 とあるように、本当に良い品を生産者から直接仕入れ、その良さをしっかりと消費者に伝えることを愚直にやっているスーパーです。
大手とは同じ土俵で戦わない
まるおかには、小規模店舗の生きる道を見ることができます。弱者の戦略と言っていいでしょう。
大手小売店とは規模が違うにも関わらず、取り扱う商品を同じようにし、1円でも安く売ろうとする勝負をしていたのでは、資本の少ない小さいお店には勝ち目はありません。
このような価格競争に巻き込まれてしまうと、目の前のことに必死になるあまり、お客さんのことを考える余裕はなくなります。お客さんに喜んでもらうために始めた商売が、いつの間にか有名なナショナルブランドの商品をどれだけ安く仕入れ、売ることができるかを必死で考えるようになってしまうのです。
まるおかの独自アプローチ
まるおかは、どこに行っても買える商品を、どこよりも低価格で販売することは決してしません。なかなか出会えない本当に良い商品を自分たちで見つけ出し、生産者との信用のもとで仕入れ、商品の正確な情報を伝え、適正価格で販売しています。
一般的なスーパーなどの小売店と比べると、まるおかのユニークな考え方や取り組みは多岐にわたります。
主なものを見てみましょう。
商品選定と品揃え
通常の小売店は年間を通して安定した品揃えと、常に同じ商品を提供することを目指します。
一方のまるおかは、旬の食べ物や少量生産品でも本当に良い商品だけを扱います。たとえ欠品をしても、むしろお客さんに 「次にその商品に出合える日や季節が待ち遠しい」 と思ってもらえるくらいの商品への特別感と期待感を生み出しています。
生産者との信頼
まるおかは生産者との関係を重視します。生産者のところへ社長や従業員が直接足を運び、実際の現場や生産方法を詳しく知ります。
仕入れるのを相手から何度断られても、自分たちが本当に良いと思って惚れ込んだものは、何度も通い続けて信頼関係を少しずつつくっていきます。中には5年ごしに販売できるようになった商品もあったとのことです。
消費者との関係
通常の小売店が幅広い層の消費者を顧客対象とするのに対し、まるおかは限られた顧客層と深い関係を築いています。
小規模店舗ならではのお客さんとの近い距離感で、まるおかのことを理解してくれたり共感してもらえるお客さんから見て最高の店となることを目指し、お客さんの人数規模は多くなくても、深く、長い関係を構築しています。
複数の役割をこなす従業員
一般的な小売店では、従業員は特定の業務だけを担います。たとえばレジ打ち、惣菜の調理、仕入れなどの担当です。
一方のまるおかでは従業員が複数の役割を果たします。レジ業務と並行して商品の仕入れや管理も行うなど、1人で何役もこなします。
複数の業務を担当することで、自分が仕入れた商品を店頭で直接お客さんにすすめたり、レジではどんなお客さんがそれらの商品を買ったかがわかります。
従業員の商品への深い理解と顧客サービスの向上をもたらします。
商品の価値訴求
まるおかは、価格訴求ではなく 「商品の価値」 に着目し、お客さんにとって本当に価値のあるものに出会える買い物を楽しむことを目指しています。
商品のすばらしさや生産背景のストーリーを、普通のお店ではそこまでやらないようなレベルで商品 POP や試食品提供などから知ってもらいます。商品の良さを、お客さんにとっての価値として伝えているわけです。
経営理念の 「食は命」
まるおかの土台となっているのは、経営理念である 「食は命」 です。
この理念は、ただ単に商品を売るという商売の枠を超え、食べ物を通じて人々の生活に価値をもたらすことを理想として掲げています。本当においしいものだけを扱うことには、生活者の健康と幸福に貢献する深い使命感が反映されています。
まるおかの経営理念は、商品選定から生産者との関係、顧客との関係構築、従業員の役割、さらには売り方と伝え方まで、すべての業務プロセスにおける指針です。まるおかが大手小売店とは一線を画す独自の競争ストーリーをつくる基盤となっているのです。
まるおかの戦略の根幹
まるおかの戦略の中心には 「クリティカルコア」 があります。
クリティカルコアとは
クリティカルコアは、戦略のストーリーを他にはないユニークなものにします。
クリティカルコアは “賢者の盲点“ を突きます。というのは、クリティカルコアは、「一見すると非合理、全体では合理」 だからです。なぜそれをやるのかが外部の人にはわからないことですが、戦略ストーリー全体ではカギとなります。
クリティカルコアがあるから戦略ストーリーは成立し、競合他社はマネできず、あるいはそもそも優位性に気づかなかったり、知っていても非合理に見えるので意図的に避けようとします。
クリティカルコアは差異化の源泉です。クリティカルコアによって他から簡単にはマネされず、中長期で持続可能な戦略ができるのです。
まるおかのクリティカルコア
クリティカルコアをまるおかに当てはめると、次のような 「一見すると非合理」 な要素があります。
- 理念: 本当においしいものしか売らない。食とは生きることにつながる
- 環境: 一店舗のみの運営 (小規模体制) 。生産者との直接のつながり・信頼関係、消費者との距離の近さ
- 売り物: 「金の商品」 のみの仕入れ, 生産者・生産地の現地理解、商品理解
- 売り方: 良い商品を本気で伝えきる。ときには社長自らがつくる POP 、店頭試食
大手は真似しようとしてもできない
これらのアプローチは、大手小売の常識とは反するものです。効率性を重視し、量的な拡大を目指す大手小売にとって、まるおかのような人間味にあふれていても非合理で泥臭いやり方は理解しがたいものでしょう。
まるおかは、大手小売にとって注目せざるを得ない存在になっていますが、表面的な模倣だけではその本質を捉えることはできません。実際に大手の小売チェーン関係者から視察があるものの、大手はまるおかの独特な戦略を真似しようとしても、結局は成功できていないそうです。
クリティカルコアの戦略的価値
まるおかの戦略は、単なる商品の選定や販売方法を超え、独特な経営理念と文化に根ざしています。
戦略のクリティカルコアは、まるおかにとっては戦略の核心を成すものです。まるおかの戦略のストーリーを他社にはないユニークなものにします。
一見非合理に見えるこのアプローチは、他社の大手が真似しようとすると既存の効率重視のビジネスモデルとの間で矛盾が生じます。その非合理性を避けるために結局は諦めてしまうわけです。
これがまさに競争優位を維持し、まるおかが消費者から選ばれる理由や提供価値の源泉になっているのです。
まとめ
今回は、書籍 おいしいものだけを売る - 奇跡のスーパー 「まるおか」 の流儀 (丸岡守) から、戦略の観点で学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- クリティカルコアは 「一見すると非合理、全体では合理」 。なぜそれをやるのかが外部の人にはわからないことだが、戦略ストーリー全体のカギを握るもの
- クリティカルコアは 「賢者の盲点」 を突くもの。競合他社はマネできず、あるいはそもそも気づかず、わかっても非合理に見えるので避けようとする。戦略のストーリーを他にはないユニークなものにし、差異化や提供価値の源泉となる
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