投稿日 2024/03/25

サントリー 「タコハイ」 。顧客起点になれた2つの転換点。お客さんの立場になることの本質

#マーケティング #顧客起点 #利用シーン

今回は、サントリーのアルコール飲料 「タコハイ」 の開発プロセスから学ぶ、顧客中心の発想転換の秘訣に迫ります。

タコハイの開発やマーケティングにつながったのは、飲食店での消費者観察から得た洞察や、開発者自身の食事体験を通しての気づきでした。

どのように顧客起点になれたのか、ぜひ一緒に探っていきましょう。

サントリー 「こだわり酒場のタコハイ」 



サントリーのアルコール飲料 「こだわり酒場のタコハイ」 が人気です。日経 MJ の2023年のヒット商品番付で前頭2枚目に入りました。

ちなみに 「タコハイ」 の意味は、開発チームの 「お客様により良い晩酌時間をお届けしたい」 という想いから、「多幸ハイ → タコハイ」 としたとのことです。

タコハイは、食事に合うチューハイを求める消費者からの声に応えて誕生しました。マーケティングコミュニケーションでは、タコハイの味をあえて具体的に伝えないことで消費者の関心を引きました。

タコハイは2023年には目標の500万ケースを達成しましたが、成功の裏には、売り手視点から顧客視点への転換がありました。


顧客視点への転換


タコハイの開発チームが、顧客視点に切り替わったターニングポイントは2つありました。

 「食事とお酒の主従関係」 への気づき


1つ目のターニングポイントは、飲料メーカーとしてはお酒ばかりを見てしまっていたと気づいたときです。

開発を始めたのは21年。チューハイはレモンなどフルーツの味が大半だが、消費者アンケートで食事に合う商品を求める声が多かった。

開発メンバーは飲食店をまわって観察し、あることに気が付いた。「飲料メーカーとしてはお酒ばかり見てしまう。でも、お客さんは食事に来ているのです。飲み物起点ではなく、食事起点で考えることが重要でした」 。食事の邪魔をしないお酒というコンセプトを固めた。

アルコール飲料を扱っている売り手の立場だと、どうしてもお酒ばかりに目がいきがちです。

売り手目線だと自分たちが扱っている商品を中心に見てしまいます。タコハイの場合はアルコール飲料を主とし、食事は付属と捉えてしまっていました。

一方の生活者視点では主従関係は逆になります。

飲食店でのお客さんの現場観察を通じて、お客さんは食事を中心に捉えていることに気づきました。メインは食事であり、お客さんは料理を食べていると。タコハイの開発担当者たちは、飲み物起点ではなく、食事起点で考えることが重要だと認識したのです。

 「実際の利用シーンでの顧客体験」 への気づき


2つ目の顧客視点になれたターニングポイントは、開発担当者の自宅での夕食中での気づきからでした。

焼酎の配合などを細かく変えて100以上の試作品をつくった。

どの味にするか黒川さん (引用者注: サントリースピリッツカンパニー RTD・LS 事業部 RTD 部の黒川郷さん) が決断したのは自宅での夕食中だ。同じ配合でも、研究室で飲むのと自宅で食事をしながら飲むのでは感じ方が異なる。

食事に合うシンプルさと飽きにくい味わい深さを両立させるため、焼酎に焙煎 (ばいせん) した麦を使用して香ばしさを出した。

飲料でのアルコールや成分の配合が同じでも、研究室で飲むのと自宅で食事をしながら飲むのでは、飲料体験や感じ方が異なるという開発担当者の発見です。

この洞察から言えるのは、お客さんが実際に商品を使う 「利用シーン」 や 「シチュエーション」 をリアルに捉えることの重要性です。作り手の都合で研究室で考えたり再現しても、お客さんのシチュエーションとはほど遠ければ、絵に描いた餅のような商品開発になってしまうでしょう。

お客さんの立場になる


売り手視点から使い手視点に切り替わった2つのターニングポイントから学べるのは、お客さんの立場になって、お客さんが実際に使うシチュエーションにおいて、顧客起点になることが大事であるということです。

売り手が良かれと思って 「お客さんのために」 と思っても、お客さんの実態と違っていて売り手の論理で押し進めてしまうと、本当の意味でのお客さんのためにはなりません。

お客さんの立場になって使い手の視点に切り替え、「お客さんのために」 を考えることが重要なのです。顧客視点になることを売り手の自己満足ではなく、実際のお客さんの満足を得ることが、商品開発とマーケティングの成功につながります。


まとめ


今回は、サントリーの 「こだわり酒場のタコハイ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • サントリーはタコハイの開発にあたって顧客視点になった2つの転換点があった。1つ目は飲食店をまわって消費者観察をしているとき。飲料メーカーとしてはお酒ばかり見てしまっていたが、お客さんは食事に来ていると気づいた (メインはあくまで食事) 

  • 2つ目は開発担当者の自宅での夕食中。研究室で飲むのと自宅で食事をしながら飲むのでは、飲料体験や感じ方が異なるという発見。お客さんが実際に商品を使う 「利用シーン」 や 「シチュエーション」 をリアルに捉えたからこその気づき

  • お客さんの実態と違った売り手の論理で押し進めてしまうと、本当の意味でのお客さんのためにはならない。使い手の視点に切り替え、お客さんの立場になって 「お客さんのために」 を考えることが顧客起点になるということ


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。