#マーケティング #ファンダム #フレネミー
マーケティングにおいて、競合とは常に 「戦わなければならない相手」 なのでしょうか?
もしかしたらライバルと思える存在こそが、新たな価値を生み出すパートナーになるかもしれません。
アサヒビールは、競争と協力の両方の関係性を持つ 「フレネミー」 に目を向け、マーケティングを展開しています。アサヒビールの事例から、競争を超えたマーケティングの可能性について紐解きます。
アサヒビールのファンダムマーケティング
アサヒビールは、スポーツや音楽といったカルチャーと積極的に連携し、ブランドの新たな魅力を広げています (参考記事) 。特に、熱心なファンを指す 「ファンダム」 の人たちと一緒に取り組むことによって、ロイヤル顧客との感情的なつながりを深め、購買行動を促すことを狙っての展開です。
ファンダムの分野はたとえば音楽です。アサヒビールでは、音楽を通してブランドの価値を伝えようとしています。背景には、音楽が生活者の日常に根付いており、感情的なつながりをつくりやすいという特性があります。
Spotify リスナーへ年末のご挨拶・おつかれ生です企画
アサヒビールが音楽とのコラボをした施策の一例として、2023年末に行われた 「Spotify リスナーへ年末のご挨拶・おつかれ生です企画」 が挙げられます。
この企画では、人気アーティストと協力し、Spotify でオリジナルのプレイリストを作成しました。また、アサヒビールのマルエフの 「おつかれ生です」 というブランドメッセージを広告として配信し、音楽とともに多くの人にブランドの世界観を届けました。
SNS 上でもポジティブな声や評価が寄せられ、ファンとの新しい接点を築きました。
SUPER DRY Immersive experience
他には、期間限定でオープンしたビアバーの 「SUPER DRY Immersive experience」 では、アサヒビールは ONE OK ROCK とのコラボレーションを実現しました。
イベントでは限定グッズ販売や、アーティストの世界観とビールを結びつけた展示が注目を集め、初日には3時間待ちの行列ができるほどでした。4日間の来場者数は延べ1万人を超える大盛況となりました。
販売されたコラボグッズは初日でほぼ完売し、SNS でもイベントに参加したファンのポジティブな投稿が相次ぎました。アサヒビールは音楽とお酒が一緒になった特別な体験を提供しました。
音楽やスポーツとのコラボ
アサヒビールのこうした事例は、音楽やスポーツといったカルチャーに入り込むことで、結果として音楽・スポーツがブランドの価値を高め、音楽やスポーツが消費者の購買意欲を引き出す 「パートナー」 として機能することを示しています。
ここで注目したいのは、アサヒビールのマーケティング本部長の方が、自社商品のカテゴリーであるお酒と音楽の関係性を、「お酒と音楽はライバルでもあり、友達でもある」 と表現していたことです (参考記事) 。
この考え方は 「フレネミー」 に通じます。
フレネミー
フレネミーとは 「friend + enemy」 の造語で、フレネミーは協力者でもあり競争相手でもある存在を指します。自社商品以外の選択肢が一見すると競合 (敵) に見えても、場合によっては協力者 (友だち) になる可能性を秘めているわけです。
アサヒビールの事例では、音楽とお酒の関係がまさにフレネミーです。
[Enemy] 競合としての側面
音楽とお酒はどちらも消費者の余暇を楽しむための選択肢であるため、可処分時間や可処分所得を奪い合う競争関係にあります。
音楽ライブにおいて、音楽を楽しむための場では、必ずしもアルコールが必要とされるわけではありません。ライブチケットのグレードをあげたり、グッズにお金を使いたいときは、お酒に払うお金を削ることも考えられます。
[Friend] 協力者としての側面
一方で、音楽とお酒は一緒に楽しむことによって、消費者はより充実した体験ができる可能性があります。
たとえば、音楽イベントにおいてアーティストとコラボをしたイベント限定ビールを買ったり、音楽をテーマにしたキャンペーンに参加することで、音楽とお酒が相互に補完する役割を果たします。
ライブ会場で、アーティストとファン同士で乾杯が行われる瞬間などは、音楽とお酒が一体となり、来場者にとって特別な価値を感じられる場面です。
アサヒビールは、このような競合と協力の両方の側面を持つ 「フレネミー」 となる音楽を巧みに活用しています。
Spotify との連携や ONE OK ROCK とのコラボレーションを通じて、音楽が持つ感情的な価値をビールと結びつけ、新たな顧客体験を生み出しそうとしたわけです。
フレネミーを活用するマーケティング
アサヒビールの事例から、フレネミーの活用は次のようなマーケティングの示唆を提供してくれます。
顧客ニーズに応える
音楽もお酒も、消費者の 「リラックスしたい」 「気分を高めたい」 「仲間と楽しい時間を一緒にすごしたい」 という顧客ニーズに応える存在です。
フレネミーという視点を取り入れることにより、消費者のニーズに対してより魅力的な解決策にできます。消費者が求める体験やニーズ、背景となる置かれた状況までの顧客文脈を深く理解し、ここにフレネミーを活用して、期待を上回る価値をつくり出せるかがポイントになります。
協力戦略の実行
競合と見なされる存在を協力者として取り込むことで、相乗効果を生み出せます。
アサヒビールが音楽イベントやアーティストとのコラボによって、消費者とブランドとの顧客接点を広げたように、協力を図る戦略は顧客関係を長期的に強化する基盤をつくります。
ブランドが広告色や売らんかなという姿勢を押し付けるのではなく、お客さんが興味を持つ物語や体験を提供することによって、自然と商品の魅力を伝えることができます。
まとめ
フレネミーの関係は、競争を超えたマーケティングの可能性を示します。
アサヒビールの取り組みは、競合に見える存在も視点を変えれば価値を共創するパートナーとなり得ることを教えてくれます。フレネミーという存在を活用すれば、顧客体験を深く豊かにすることができるでしょう。
ビジネスでは競争だけに目を奪われるのではなく、協力から新たな価値を生み出せないかという視点を持つと、新しい着想が得られます。
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