#マーケティング #マーケティングリサーチ #定性調査
お客さんは、なぜその商品を選んだのでしょうか?
販売データやアンケート調査の回答を分析すれば全体の動向は見えてきます。しかし、こうした定量調査はお客さんの行動の背後にある 「本音」 や 「心理」 まではなかなかわかりません。一方、相手のことを深く掘り下げるインタビューなどの定性調査はリアルな声を知る有効な手法ですが、時間やコストの壁が立ちはだかります。
では、定量調査と定性調査をどう組み合わせれば、効率的かつ的確にお客さんの心を捉えることができるのでしょうか?
今回は、定量調査と定性調査を巧みに活用し、顧客理解を深めているサントリーウエルネスの事例を取り上げます。定量調査と定性調査を効果的に組み合わせるヒントを探ります。
定量調査と定性調査
定量調査と定性調査は組み合わせることで効果を発揮します。
定量調査とは
定量調査は、アンケートや販売データなどをもとに、数値で全体の動向や傾向を把握する手法です。お客さん属性 (年齢, 性別, 年収など ) や購買実績のデータを集めて分析することによって、「誰が、どの商品を、どのくらい買っているのか」 といった大きな傾向やパターンを把握できます。
定量調査のメリットは、大きいサンプルサイズで実施でき、統計的に信頼度の高い結果を得られることです。一方のデメリットは 「なぜそのような行動をしたのか」 などの数字や行動の裏にある動機やそのときの気持ち、顧客文脈となる背景まで深く知ることは難しい点にあります。
定性調査とは
一方、定性調査は少人数を対象に、対面またはオンラインで会話を重ねるアプローチです。その中でも n1 調査と呼ばれる手法では、ひとりの相手に対してじっくりとインタビューを行い、その人の価値観や心理を探ります。
定性調査のメリットとデメリットは、先ほどの定量調査と逆になります。
メリットとしては 「なぜこの商品を選んだのか」 や 「実際にどう使っているか」 など、具体的でリアルな声から、心理面までをうかがい知れることです。しかしデメリットは、実施する時間やコストがかかりやすく、大人数に行うのは難しい点です。
組み合わせが大切
定量調査と定性調査は組み合わせることが効果的です。
たとえば、まず定性調査で仮説やアイデアの種を見つけ、見出した洞察を定量調査で客観的に検証するという二段構えのアプローチをとります。定量調査だけでは捉えきれないお客さんの本音を定性調査で明らかにし、得られた洞察をもとにマーケティングの戦略や施策を形作っていくという流れです。
定性調査と定量調査を組み合わせた場合のそれぞれの役割は、次のようになります。
- 定性調査で 「顧客が求める本質は何か」 や 「消費者がどういう表現に心を動かされるのか」 を深く探る
- 定量調査で 「発見したアイデアが消費者に広く支持されるか」 、「どの層にどのくらい刺さるのか」 を検証する
このサイクルを何度も回すことによって、お客さんに受け入れられる商品のコンセプトや広告表現を導き出していきます。
サントリーウエルネスの調査の実例
具体例としてサントリーウエルネスの事例をご紹介します (参考記事) 。
顧客とのギャップを埋めるためのデプスインタビュー
サントリーウエルネスが扱う健康食品のメインの購入層は、主に40代以上のミドルシニアです。その中でも60代以上のシニア層が多いとのことです。
社内には若い世代の社員も多く、ターゲット世代のリアルな声と生活実態を知るうえで定性調査はサントリーウエルネスにとって欠かせない手法です。
商品開発では、コンセプト開発、パッケージデザインの検証、コミュニケーションメッセージの検討といった各段階で、消費者インタビューによる定性調査を行います。
商品開発の最初の工程であるコンセプト開発では、半年ほどかけて入念にインタビューを繰り返すとのことです。サントリーウエルネスは、消費者に "本当に欲しい" と思ってもらえるか、じっくり対話を重ねる姿勢を重視しています。
グループインタビューよりも1対1で本音をつかむ
サントリーウエルネスは、複数の対象者に一度に集まってもらうグループインタビューよりもデプスインタビュー (1対1のインタビュー) を活用しています。
というのは、グループ形式でインタビューを行うと、他人の意見に引っ張られたり、周囲の目を気にして発言が抑制されたりする可能性があるからです。一方のデプスインタビューは1対1のため、じっくりと時間をかけて 「どういう状況だったのか」 や 「なぜその行動をとったのか」 、「そのときの気持ちはどんな変化があったか」 を探りやすいのというが利点です。
[実際の活用例] グルコサミンアクティブ
サントリーウエルネスのサプリメント 「グルコサミンアクティブ」 において、当初は 「膝の違和感を和らげたいシニア層向け」 の商品イメージを打ち出していました。
ところがデプスインタビューで得た消費者のリアルな声を1人ひとりから拾っていくと、将来も元気に動き続けたいから、今のうちから早めにケアをしておきたいという、サントリーウエルネスがまだ気づいていなかった新しいニーズが浮かび上がりました。
この発見をもとに、「今のうちからメンテナンスを始めよう」 という提案の訴求軸が導き出されました。そして、定量調査でこのアイデアの効果を検証しながら徐々にブラッシュアップを重ねました。
これまではあまりグルコサミンアクティブに興味を示さなかった50 ~ 60代にも、グルコサミンアクティブは将来への健康維持に先手を打つ商品として効果的に訴求できるようになったのです。
全社員がリサーチャーとしてインタビューに携わる
サントリーウエルネスの取り組みで注目したいのは、マーケティング部署だけでなく、研究職、人事や総務など全社員が顧客インタビューを経験する仕組みを整えている点です。
具体的にはチームを部門の異なる4人ほどで組み、それぞれ1人のお客さんに対して深く話を聞きデブスインタビューを行い、インタビュー後にチームでディスカッションを行います。
こうして部門を超えて多角的にインタビュー結果を振り返ることによって、たとえば研究職の社員が 「この対象者の方が言っていたことは、こういう症状への不安を持っているということでは?」 と専門的な視点を入れた解釈をしたり、カスタマーセンター担当者が問い合わせの背景や意図をより深く理解できるといった、新たな気づきが生まれやすくなります。
結果として、社員一人ひとりが顧客目線になれ、お客さんの立場になっての商品開発や改善、マーケティングの質が高まっていくのです。
まとめ
今回は、定量調査と定性調査について、サントリーウエルネスの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 定量調査は、アンケートや販売データなどをもとに、数値で全体の動向や傾向を把握する
- 定性調査では、特定顧客や消費者の背景・感情・動機を掘り下げることで、定量調査からは見えない 「お客さんの状況や心理」 を理解できる
- サントリーウエルネスは、デプスインタビューを重視し、その結果を社内全体で共有し、さらに定量調査で検証して戦略や施策につなげている
このように定量と定性の両輪を回すことによって、よりお客さんや消費者の本音にもとづいた商品開発やマーケティングが実現しやすくなります。
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