投稿日 2025/05/14

マーケティング戦略マップを手に、冒険に出かけよう

#マーケティング #戦略

 「マーケティングって、結局どこから始めればいいの?」 

そんな悩みを抱える方は多いのではないでしょうか。商品やサービスを市場に投入しても、なかなか成果が出ない。SNS や広告を打っても、思うように反応がない。そんな状況に直面していないでしょうか?

今回は、道しるべとなるような、マーケティングの全体像を6つのステップで整理し、お客さんと長期的な関係を構築するための 「マーケティング戦略マップ」 をご紹介します。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

マーケティング戦略マップ


マーケティング活動は商品販売や広告出稿にとどまらず、お客さんとの長期的な関係性を構築していく事業全体にかかわるプロセスです。

次の図は、西口一希さんが提唱しているマーケティングの戦略マップです。


1 から 6 までのポイントを順番に見ていきましょう。

価値定義 (Who × What: 顧客戦略) 

■ 何を行うか

まず 「誰に (Who) 」 と 「何を (What) 」 提供するのか、注力顧客像と提供価値を明確化します。顧客戦略の中核となる価値定義により、後に続くマーケティング活動がブレなく進みます。

■ なぜ重要か

顧客設定と価値定義が不明確なままだと、例えばマーケティングコミュニケーションが的外れな施策になりかねません。その結果、無駄なマーケティング費用が発生してしまいます。明確な注力顧客設定と顧客価値の定義は、その後の施策効果を最大化するための基盤になります。

Who (潜在顧客客) へ接触し What (価値と独自性) を提案

■ 何を行うか

定義した顧客価値を、潜在顧客に向けて効果的に発信し、商品がもたらす便益 (独自性のある価値) を提案します。具体的には SNS 、広告、イベントなどにより、見込みのお客さんが初めてその価値 (への期待) に触れる顧客接点をつくります。

■ なぜ重要か

この段階でお客さんは商品・サービスの存在や魅力を知り、「ちょっと試してみようかな」 と思うきっかけを得ます。初回購入への橋渡しとなるフェーズです。

新規 (初回購入) 

■ 何を行うか

商品・サービスに興味を持ってくれたお客さんが、実際に初めて購入し、商品やサービスを利用する場面です。見つけやすく手にとってもらいやすい環境を整えます。特典やキャンペーンなどの工夫があると、新規のお客さんが一歩踏み出しやすくなります。

■ なぜ重要か

初回購入は商品を使うことでの顧客体験の始まりです。ここで得た体験や満足感が次のステップとなる継続利用、さらにはファン化へとつながります。

価値の再評価 (実際の使用体験) 

■ 何を行うか

お客さんが実際に商品・サービスを使い、使用経験から価値を評価する段階にあたります。自分の期待以上であれば満足度が向上し、リピートやロイヤルティ向上につながります。

■ なぜ重要か

実体験による満足度が、お客さんと商品との関係性を強くします。もし評価が期待を下回ればお客さんが離脱してしまう、つまり今後は自社商品を選ばなくなる要因にもなるため、商品の品質とサポートも大事です。

離反の復帰

■ 何を行うか

一度購入したものの離れてしまったお客さんを再び呼び戻します。例えば、割引クーポン、改良点の提示、一人ひとりのお客さんに合わせたパーソナライズした提案などによって、再度お客さんに戻ってきてもらいます。

■ なぜ重要か

離反した既存顧客に再び買ってもらうことのほうが、ときとして新規のお客さんの獲得より低いコストで済む場合があります。顧客離反はブランド損失につながりかねないため、復帰施策は顧客基盤の安定に寄与します。

ブランディング

■ 何を行うか

一連の顧客体験から得られた価値を、ブランドとして強固な 「記号化 (シンボル化) 」 を行います。フランドのロゴ、ストーリー、ビジュアル要素などでお客さんの記憶の中に 「良い体験や良い感情」 を定着する働きかけです。

■ なぜ重要か

お客さんが 「何となく良い」 や 「これでいいかな」 という認識にとどまらず、「これがいい」 、「この商品じゃないとだめ」 と思うくらいのブランドへの愛着感や必要性を育むことで、他にはない独自の顧客価値を提供できている状況を目指します。

ビジネス小説 「天空珈琲物語」 


それでは、ここまで見てきた戦略マップの 1 から 6 のポイントを、具体的なビジネスの例に当てはめたビジネス小説で見ていきます。


物語を通じて、マーケティング戦略全体の流れを追体験していきましょう。

顧客戦略から顧客と価値を定義 (Who × What) 

東京の郊外にある小さなオフィス兼倉庫に、若き起業家・深山 (みやま) がいた。彼は、自分の新しい事業 「天空珈琲 (てんくうコーヒー) 」 の計画表を前に、考え込んでいる。

狙うは単なるコーヒーショップではない。忙しいビジネスパーソン向けに、「朝の時間を特別な一杯のコーヒーでアップグレードする」 をコンセプトにした高品質コーヒー豆と淹れ方レクチャーの定期便サービスだ。

深山は注力顧客をイメージした。「都心で働く30代前後のビジネスパーソン。手軽に質の高い朝の体験を求める人」 。彼はより具体的な顧客像を頭に浮かべる。スマホを片手に忙しく出勤準備をする男女、しかし本当は一日の始まりをもっと豊かにしたいと思っている人たち。

お客さんへの価値は何か?

それは生産者から直送される希少なコーヒー豆と、プロが提案する朝5分でできる最高の一杯の淹れ方の動画のセット。天空珈琲は 「忙しい朝を、味わいと知的刺激が融合した体験に変えること」 を自社のコアバリューとした。

潜在客へ接触から What (価値と独自性) の提案

数日後、深山は会社近くのコワーキングスペースで、天空珈琲の SNS 運用担当の白樺 (しらかば) と打ち合わせをしていた。

 「潜在顧客は SNS をよく見ているはず。Instagram でコーヒーの淹れ方のショート動画を流してみよう」 

朝、オフィスに向かう途中の通勤電車内で、パッと目に留まるような、美しいドリップの映像と 「わずか5分で最高の朝を」 といったコピーを流す。加えて、都内で開催した小さなイベントを開き、無料でコーヒーの試飲会を行う。

天空珈琲は定期便サービスの独自性を打ち出した。「日常で忙しくても、朝の一杯のコーヒーの時間はあなたの味方」 という存在が、少しずつ潜在顧客たちの記憶に浸透していく。

新規 (初回購入) 

いよいよ天空珈琲の初回購入を促すキャンペーンが始まった。「初回 50% OFF」 や 「初回購入者には限定マグカッププレゼント」 など、初めて天空珈琲を試す人を惹きつける施策が打たれる。

早朝、スマートフォンをチェックした会社員の藤本は、Instagram で流れてきた天空珈琲の広告を見た。「忙しい朝だけど、ちょっとした贅沢が欲しいかも…」 と、そのまま公式サイトにアクセス。

シンプルな購入方法と、動画で分かりやすいコーヒーの淹れ方の説明を見て、迷うことなく藤本は初回セットを注文した。「週末に届くのが楽しみだな」 と、少しわくわくした気持ちで、その日をスタートする。

価値の再評価 (実際の使用体験) 

週末、藤本の家に天空珈琲の豆と、プロバリスタによる 「朝5分コーヒー術」 の動画にアクセスできる QR コードが入った小箱が届く。

月曜の朝、まだ眠気の残る藤本は、動画を見ながらコーヒー豆を挽き、お湯を注いでゆく。香りが立ち上がり、カップに注がれるコーヒー。ひと口含むと、心地よい苦みとほんのりした甘みが口に広がった。

 「おいしい…!」 

予想以上の体験に、藤本は驚く。「会社に行く前のこの一杯が、こんなに気分を変えるなんてとは」 。期待を上回る天空珈琲の顧客体験は、藤本の中でサービス価値を再評価させ、「これからはこのコーヒーかな」 と、継続購入を考え始める。

離反の復帰

しかし、その数週間後、藤本は仕事が残業続きで忙殺され、朝にコーヒーを淹れて飲む気力がなくなっていた。天空珈琲のコーヒーの豆が次第に余りはじめ、定期便を一時停止してしまう。

そこで天空珈琲は、離脱顧客向けに 「手間いらずのドリップパック版」 の提案メールを送った。さらに、割引クーポンと 「忙しい朝でも瞬時に上質な味を」 の動画メッセージを添える。

天空珈琲からのメールを見て 「そうか、ドリップパックなら楽かも」 と思い直した藤本は、再び注文ボタンをタップ。「やっぱり、朝の特別な体験は、忙しいときこそ必要なんだな」 。

こうして、一度は離反した顧客が、改善策やパーソナライズされた提案によって天空珈琲に再び戻ってきた。

ブランディング (価値を記号化し、強い記憶化) 

数か月後、天空珈琲はブランドロゴを目立たせ、オリジナルのコーヒードリップケトルや、朝食レシピとセットになった限定セットを発売。ロゴマークは朝日とコーヒー豆をモチーフにし、キャッチコピーは 「A New Day’s Sky in Your Cup (あなたのカップに新しい一日の空を) 」 とした。

SNS ではハッシュタグ 「#MyMorningSky」 をつけて、朝のコーヒー写真を投稿する様子が流れる。天空珈琲は 「朝をアップグレードするコーヒー習慣」 としての価値が認識され、それが記号化されて、お客さんの記憶とライフスタイルの中に刻まれていった。

藤本は今日も、仕事へ向かう前に天空珈琲で新しい一日をスタートする。いつしか、天空珈琲は 「なんとなくおいしいコーヒー」 ではなく、「朝を豊かにする確かな存在」 となっていた。

* * *

以上のマーケティング戦略マップの6つのポイントは、顧客接点を捉え、お客さんの認知・購入・評価・離脱・再購入・ブランド定着までを実現する戦略の指針となります。

まとめ


今回は、マーケティング戦略マップを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ マーケティングの戦略マップ
  1. 価値定義 (Who × What: 顧客戦略) 
  2. Who (潜在顧客) へ接触し What (価値と独自性) を提案
  3. 新規 (初回購入) 
  4. 価値の再評価 (実際の使用体験) 
  5. 離反の復帰
  6. ブランディング (価値を記号化・強い記憶に) 


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。