投稿日 2025/05/25

ゴミうんち展。魅力の再解釈から新しい価値を見つける方法

#マーケティング #価値の再定義 #価値創出

商品に新しい視点が見出され、隠された可能性を発見できるとしたら、ビジネス機会は生まれないでしょうか?

商品やサービスが変わらなくても、視点を変えるだけで新しい価値を生み出せることがあります。

今回は、東京で開催されたユニークな展示会 「ゴミうんち展」 を取り上げ、商品価値の再定義について考えます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ゴミうんち展


出典: 美術手帖

東京ミッドタウンで期間限定 (2024年9月27日 ~ 2025年2月16日) で開催されていた 「ゴミうんち展」 。普通なら避けたいと思われる 「ゴミ」 や 「うんち」 をテーマに、新しい切り口で捉え直した展示がされていました。

来場者は11月初旬時点で2万人に達したとのことです (参考記事) 。ゴミうんち展は 「ゴミやうんちは汚いもの」 という人々の固定概念に挑戦し、廃棄物と排せつ物が地球や文化の循環の中で果たしてきた役割に光を当てました。

企画展の中のひとつに 「糞 (くそ) 驚異の部屋」 がありました。


ここでは、化石や貝殻、リサイクル資源、さらにはミミズの糞を使った作品など、多様な 「ゴミうんち」 にまつわるものが展示されました。

他には 「Rust Harvest|錆の収穫」 は、金属の錆 (さび) の新たな価値を提案した作品です。


金属板から錆のみをアクリル樹脂に転写させ、錆を模様として利用しました。錆を剥がした金属板はまた再び錆させることで、何度も錆を利用できることを教えてくれる展示でした。

ゴミうんち展のメッセージは明確です。汚いもの、不要なものへの価値観を問い直し、実は隠れている可能性を見つけること。来場者に 「これまで見えていなかったものの存在」 に気づいてもらうことを狙った展示会でした。

新しい視点から価値をつくる


では、「ゴミうんち展」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

示唆的なのは、ゴミうんち展の 「視点の転換」 です。マーケティングに当てはめれば、商品やサービスそのものの特徴は変えずとも、新しい切り口や文脈を提示することで、お客さんから 「選ばれる理由」 をつくれるということです。

固定概念を覆すことで生まれる価値

多くの人がゴミやうんちを嫌悪の対象として見るのは、社会的・文化的にこれらが 「汚いもの」 とみなされているからです。

しかし、ゴミうんち展は歴史や環境問題の文脈でゴミやうんちを再解釈し、新しい価値を示しました。マーケティングにおいても、商品やサービスが抱える 「ネガティブな特性」 を 「ユニークな特徴」 に転換することによって、新たな魅力を打ち出すことができます。

例えば、耐久性に欠ける素材の商品があるとします。その弱点を 「環境に優しくリサイクルしやすい素材」 として再定義すれば、環境やサステナビリティに関心のある人には魅力に映る存在になれます。

文脈をつくり、時代に即した意味を与える

ゴミうんち展は、環境問題や循環型社会といった現代的な課題を背景にして展覧会のテーマが設計されました。

これにより、ただのゴミやうんちを扱う展示というイメージはなくなり、時代に即した課題としてつくられた展示会として人々に受け止められます。

マーケティングでも、商品やサービスがどのような文脈でどんな意味を持つのかを捉え直すことが重要です。例えば、古くからある技術を活用した製品も、古き良き伝統へ再発見や持続可能な暮らしといった文脈で提案することにより、今の時代感に合った新たな価値を提示できます。

体験価値の設計

期間限定で開催されたゴミうんち展では、展示物を見せるだけにとどまらず、来場者が新しい視点を持てる体験も提供しました。

具体的には 「糞驚異の部屋」 や 「Rust Harvest」 といった展示は、来場者に見たことがないものを見せるだけではなく、そこに存在する意味、ゴミや排泄物が社会において循環することの意味と可能性を考えさせるように設計されていました。

マーケティングも同様です。お客さんが商品を使うことで 「どのような体験」 を得られるのかを丁寧に設計することが、顧客価値に直結します。

マーケティングコミュニケーションでは、利便性や高機能といった機能的価値を訴求するだけで終わらず、この商品を使うことにより実現する新しい世界観や未来イメージという情緒的な顧客価値を訴求することによって、お客さんの心を動かせます。

マーケティングへの示唆


ゴミうんち展から汎用的に学べるのは、視点の転換、文脈づくり、顧客価値の設計といったマーケティングへの示唆です。

企画展のアプローチをさらに具体的なポイントに分解して考えることによって、日々のマーケティング活動に活かせるヒントが得られます。

視点の転換による可能性の発見

一般的にマーケティング活動では、すでにある商品の特性、理解しているお客さんの価値観に焦点を当てます。

それに対してゴミうんち展のように、一見すると価値がないように見えるものを別の視点で再解釈をすることによって、新たな可能性が広がります。

例えば、地味だったり目立たないと思われる製品に対して、控えめでありながら安心感をもたらしてくれるという存在意義を再定義すれば、新しい見込み顧客にリーチすることができるでしょう。

文脈を読み取り活用する

ゴミうんち展に多くの人が足を運んだ理由のひとつは、現代社会における環境問題や循環型社会への関心をうまく取り入れた点だったからでしょう。

社会や時代の文脈を踏まえてマーケティング活動を設計することの重要性を示しています。

お客さんの心に響くメッセージを生み出すには、お客さんの置かれた状況、その状況での心理状態、状況下で生まれる困りごとやニーズなどの顧客文脈の理解が重要です。それに加え、いまの時代にどんな意味を持つかという広い視野に立っての文脈設定を考える必要があります。

顧客文脈や社会文脈を読み取り、商品開発やマーケティングに取り入れることで、お客さんや世の中に寄り添った活動につなげられます。

顧客体験を中心に据える

マーケティングは、ただ商品を売る活動にとどまりません。商品やサービスをお客さんに使ってもらうことによって、お客さんにどのような体験をもたらし、顧客価値を届けられるかが重要です。

ゴミうんち展が提供したのは、廃棄物や排せつ物を通じての新しい価値観や世界観に触れる時間と、そこでしかできない体験から得られる顧客価値でした。

同じように、ビジネスにおいても商品を中心とするのではなく、商品を使うことでお客さんの生活や気持ちがどのように変わるか、顧客企業のビジネスの成果がいかにより良くなれるかを描き、自社のビジネス活動によってお客さんのより良い成功を実現できるかが重要なのです。

まとめ


今回は、期間限定の企画展であった 「ゴミうんち展」 を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品価値の再定義: ゴミうんち展が一般的には避けられるゴミやうんちに新たな価値を見出したように、既存商品の特性を異なる角度から見直すことで新しい価値を創造できる

  • 時代に即した文脈づくり: 展示会は環境問題やサステナビリティという現代的な課題と結びつけた。商品やサービスを時代のニーズに合わせて位置づけ、古い製品や技術でも、現代的な文脈で再解釈することにより新しい価値提案が可能

  • 体験を通じた価値提供: 機能や性能といった実用的価値だけでなく、情緒的な要素が入った価値をもたらす。商品使用を通じて顧客の生活や感情がどう変化するかを考慮し、より豊かな顧客体験を設計する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。