#マーケティング #メンタルアベイラビリティ #フィジカルアベイラビリティ
マーケティングでは、テレビ CM や SNS を活用して認知度やブランド力を高める施策に力を入れていきます。しかし、そこで満足してしまうと、肝心の購入にはつながらないことがあります。
広告でお客さんに欲しいと思ってもらっても、実店舗や EC サイトなどのウェブ上で商品が見つからなければ、そのチャンスは失われてしまうのです。
今回は、花王 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 の事例から、広告や SNS と、店頭施策をつなげることの重要性と、その成功の秘訣を掘り下げます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ
今回のキーワードは 「メンタルアベイラビリティ」 と 「フィジカルアベイラビリティ」 です。
メンタルアベイラビリティとは
はじめに 「メンタルアベイラビリティ (Mental Availability) 」 の概念について整理しておきましょう。
メンタルアベイラビリティとは、お客さんの頭の中にそのブランドや商品が存在している状態を指します。
具体的には、
- ブランドが思い浮かぶこと (想起される)
- 購入シーンで選択肢として認識されること
- そのブランド / 商品の特長や魅力が頭にインプットされていること
などが挙げられます。
テレビ CM や動画広告、SNS 、口コミなどによって顧客接点を持ち、日常的にお客さんがブランドに触れる機会を増やすことで、メンタルアベイラビリティは高まります。思い出してもらえるかどうか、頭の中で購入候補のリストに入っているかどうかがメンタルアベイラビリティでは大事です。
フィジカルアベイラビリティとは
もうひとつの概念である 「フィジカルアベイラビリティ (Physical Availability) 」 とは、お客さんが実際に買いたいと思ったときに商品が買える状態になっていることです。
たとえば、
- 店頭で見つけやすい場所に並んでいる (陳列・棚割り)
- パッケージのデザインがひと目で分かる
- 在庫が切れていない、取り扱い店舗数が十分
などがフィジカルアベイラビリティに影響します。
どんなに広告などのコミュニケーションでお客さんから欲しいと思ってもらえても、実は棚に置いてあるにもかかわらずお店で見つからない、あるいはそもそも在庫がないなどの理由で店頭になければ、当然買ってもらえないわけです。
いかに商品が手に取れ、買える状態にあるか、すぐに発見できるかどうかがフィジカルアベイラビリティのカギとなります。
では、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの概念を、具体的な事例からさらに詳しく見てみましょう。
[事例] 花王 「アタック ZERO パーフェクトスティック」
2023年8月に花王が発売した 「アタックZERO パーフェクトスティック」 に当てはめます。
大規模なテレビ CM
花王は 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 を発売するにあたり、当初から大規模なテレビ CM を展開しました。
約1万 GRP という、花王がかつて 「アタック ZERO (液体タイプ) 」 を発売したときと同規模で、タレントの起用や演出を駆使して認知度を高めようとました。
CM のポイントは次の通りです。
- 新しさの訴求: 計量不要のワンショットタイプ洗剤がスティック形状で登場
- 大量出稿: 豪華俳優陣 (松坂桃李, 菅田将暉, 賀来賢人, 間宮祥太朗, 杉野遥亮) を起用し、テレビ CM でスティックの革新性をアピール
- 事前の想定: 大規模な CM により、店頭でも高い認知を獲得できると見込んでいた
実際に、花王のアタックから 「スティック型の新しいタイプの洗剤が登場した」 という新規性に関しては、花王の調査によれば過半数以上の消費者に伝わったことがわかりました (参考記事) 。しかし一方で、新商品のことを店頭で見つけてもらい購入してもらう段階で課題が浮き彫りになりました。
お店で消費者が新商品の存在に気づかず、スティックタイプの洗剤のことを知っているのに、期待したほど売れないという事態が起こったのです。
なぜ CM が売上につながらなかったのか
大量のテレビ CM を流したにもかかわらず、なぜ 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 は当初に想定したほど買ってもらえなかったのでしょうか?
その原因は、テレビ CM がアタックの洗剤のスティックという形ばかりを強調し、商品パッケージの印象が薄かったことです。
CM では、画面いっぱいに巨大なスティックが現れるシーンなど、スティック型が強く訴求されていました。しかし、実際に店頭に並んでいるのは小さめのパウチ容器で、このパッケージが CM 内で映るのは最後のわずか 1 ~ 2 秒でした。
消費者は 「スティック型の新しい洗剤が登場した」 ということは知っても、その新商品のことをお店で 「あ、コレだ!」 と気づきにくい状態に陥っていたのです。
また、店頭陳列の難しさと在庫数の問題もありました。パーフェクトスティックの発売初期は在庫数が限られ、液体洗剤ボトルなどの他の商品ほど棚での存在感を出せませんでした。
消費者は液体や粉末の洗剤を探すとき、縦長のボトルや大きめの詰め替えパックを頭の中でイメージしがちです。小さめパウチ容器にスティックが入った新商品である 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 は、消費者が認識する視界に入らず、見過ごされてしまうケースが発生していたわけです。
フィジカルアベイラビリティを高める対策とその効果
花王は消費者の中での認知ギャップ、すなわち、スティック型は知っているがお店で商品に気づかない・見つけられないというギャップを埋めるため、CM の中身 (CM クリエイティブ) を見直しました。
俳優が実際にパッケージを持ち、そこからスティックを取り出すシーンを増やすなど、商品パッケージを前面に押し出す内容に変更しました。「このパッケージです」 、「ここからスティックを取り出します」 と、消費者の視覚に訴えかける工夫を施しました。
また、お店での販促物として POP や什器で実物スティックを見せ、バッケージのアピールを強化しました。2024年3月の部屋干しバージョン発売に合わせ、1万セット以上の特製 POP を全国展開。パッケージを大きく写した什器や、実際のスティックがぶら下がった POP など、店頭での注目度を上げました。
消費者の購入理由で一番多かったのは 「ワンショットタイプは楽だから」 という声だったことから、CM でも 「頑張らずにポン」 や 「液体洗剤よりも楽」 の利便性を強調し、実際の消費者の購買動機を前面に出すことにシフトしました。
メンタルとフィジカルをつなげた成果
パッケージ認知度は、変更前の約28% ~ 30% から 44% に上昇しました。
スティック型の洗濯洗剤とパッケージのイメージを結びつけることで、店頭での発見率が改善しました。累計出荷スティック本数も増加に転じ、一定の市場浸透が実現されました。
学べること
今回の事例から分かるのは、「広告などでいくら認知 (メンタルアベイラビリティ) を高めても、店頭 (フィジカルアベイラビリティ) で見つけにくければ、消費者は購入に至らない」 ということです。
すなわち、メンタルアベイラビリティの強化だけでは十分ではありません。大量のテレビ CM で新商品の特徴が注目を浴びても、実際にお店の売場で見つけてもらえず、買ってもらわなければ当然売上は伸びません。
店頭でお客さんが 「これだ!」 とすぐにわかるパッケージや、販促からの訴求の重要性を忘れてはいけません。
花王の 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 の例では、それまでの 「洗剤 = ボトル」 という商品パッケージのイメージを覆すには、パッケージそのものを認知してもらうコミュニケーションが必要でした。あらためて反映した広告や POP での工夫がフィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティをつなげ、成果をもたらしたのです。
コミュニケーションにおいて、商品からのコアとなるの顧客価値を優先して伝えることも学びのポイントです。
花王の 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 は、消費者の本当の望みは 「洗濯 (家事) で楽がしたい」 であることがわかり、スティック型の利便性に焦点を当て直すことで、消費者の記憶に定着しやすくなり、購買行動も後押しされました。
メンタルアベイラビリティ (頭の中の存在感) と、フィジカルアベイラビリティ (店頭での発見・購入のしやすさ) は、マーケティングにおいて車の両輪のような関係にあります。
花王の 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 は、最初は CM での訴求によってメンタルアベイラビリティを高めることに成功した一方、店頭での存在感が弱く、購入につながりづらいという問題が起こりました。
広告クリエイティブの見直し (パッケージ重視) 、店頭 POP の大規模展開など、フィジカルアベイラビリティをより意識した施策を強化することによって、認知から購入への道筋をつなげることに成功したのです。
このように、お客さんの 「欲しい!」 という気持ち (メンタルアベイラビリティ) と、「すぐ買える」 という状況 (フィジカルアベイラビリティ) をいかに両立させるかが大切です。花王の取り組みは、お手本といえる事例です。
まとめ
今回は、花王の 「アタック ZERO パーフェクトスティック」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- メンタルアベイラビリティは、お客さんの頭の中に商品やブランドが存在していること。広告、SNS 、口コミなどによって認知や想起を高めることが重要
- フィジカルアベイラビリティとは、お客さんが買いたいと思ったときに商品を実際に手に取れ買うことができる状態。店頭での陳列、ネット EC 、パッケージ認知のわかりやすさなどがポイント
- 広告や SNS などのコミュニケーションでブランド・商品の頭の中での存在感 (メンタルアベイラビリティ) を高めるだけでは十分ではなく、店頭での発見や購入のしやすさ (フィジカルアベイラビリティ) が伴わなければ売上にはつながらない
- 両方を同時に強化し有機的につなげることにより、初めて認知から購入に結びつく成果が得られる
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