#マーケティング #戦略 #ニッチ
限られたリソースでどうやって市場で勝つかーー。
大手企業がしのぎを削る全国市場やグローバル展開を目指す中で、リソースに限りがある企業が同じ舞台で競争するのは容易ではありません。
しかし、視点を変えてみると、地域やニッチな市場で存在感を持つ 「小さな池で大きな魚を育てる」 という戦略があることに気づきます。
今回は、北陸製菓のスナック菓子ブランドの 「ビーバー」 を事例に、戦略やマーケティングに学べることを紐解きます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
北陸製菓 「ビーバー」 のリブランディング
北陸製菓 「ビーバー」 のリブランディング事例がおもしろかったです。
リブランディングの背景
背景と課題から見ていくと、石川県の創業106年の老舗菓子メーカーである北陸製菓は、自社ブランドの認知度の低さが解決すべき問題点でした。
自社商品には米蜜ビスケットのほか、ドラえもんやサンリオなどのキャラクターをかたどったクッキーや乾パンなどを展開していましたが、自社ブランドの認知度が低いという状況でした。
そこで、認知を獲得できる商品を打ち出すため、2018年にリブランディングの対象として白羽の矢を立てたのが、当時はまだ全体の売上の1割にも満たない商品の 「ビーバー」 です。
小さな市場で圧倒的な存在感を目指す
この後に詳しく見ていきますが、北陸製菓のリブランディングの事例から学べるのは、リソースの限られたプレイヤーがいかにして市場で生き残るかという競争戦略です。
マーケティング戦略を考える際、多くの企業が全国展開やグローバルといった広い市場を目指します。しかし、そこでは激しい競争があり、資金やリソースを大量に消耗してしまうことも少なくありません。
そのような中、北陸製菓が 「ビーバー」 のリブランディングでとった戦略は、大きな市場に飛び込むのではなく、小さな市場で独自の地位を確立するという 「小さな池で大きな魚を育てる」 というアプローチでした。
北陸製菓は、「北陸トップのブランドになる」 という目標を掲げました。
全国展開を焦るのではなく、地元の北陸でまずは圧倒的な支持を得ることを目指したのです。
勝負の場所を定める
日本全国という大きな市場では大企業がしのぎを削っています。全国や世界規模でいきなり勝負をすると、製造、流通、広告、販売に多大なリソースが必要になります。しかし、舵取りを謝ると、例えば、大規模な広告投資を行ったものの、流通網の確保や需要予測のミスにより資金が枯渇し撤退を余儀なくされます。
一方、地元地域にフォーカスをすれば、限られたリソースを効率的に活用し、そこでの優位性を築きやすくなります。
北陸製菓は北陸という特定地域に絞って勝負をしています。地元へのこだわりは、「北陸の特産品を使った限定フレーバー」 の開発です。「白えびビーバー」 や 「カニビーバー」 は北陸の名産を活かした商品で、地元住民にとっては 「地元の誇り」 、観光客にとっては 「旅行先の北陸の味を楽しめるお土産」 となります。
地域とのつながりを強化するリブランディング
北陸製菓がビーバーのリブランディングで重視したポイントは、地域に根ざした展開です。
地域の名産品や企業と手を組むことで、地元らしさを強調し、他にはない独自の価値を提供しました。
北陸限定商品の開発
「白えびビーバー」 や 「カニビーバー」 といった限定フレーバーは、北陸ならではの味わいから地元住民だけでなく観光客にも北陸のお土産としての魅力を打ち出しました。
これらの商品には 「サクサクの食感と白えびの甘みが絶妙」 や 「カニの風味が濃厚でおつまみに最適」 といったポジティブな声が消費者から寄せられています。地元らしさが商品のアイデンティティとして消費者に伝わり、地域性を楽しめる存在として認識されるようになったことがうかがえます。
地域イベントへの積極参加
北陸製菓は地元のイベントでの露出にも注力しました。
例えば、ビーバーのキャラクターの着ぐるみが地域のお祭りや学校行事に参加し、子どもから大人まで幅広い層に親しまれる機会をつくりました。地元の人たちがビーバーのことを自分たちの文化や生活に溶け込む存在として捉えるようになったのです。
ブランドストーリーの明確化
北陸という地域を起点にしたブランドストーリーは、地域の消費者にとってわかりやすく、共感を生みやすいものです。
北陸製菓は北陸生まれを前面に押し出し、地元の素材や名産品を活用した限定商品やコラボ企画を展開することにより、地元の誇りや愛着を喚起することにつなげました。
具体的には、北陸新幹線の延伸に合わせて行われた 「ビーバーと行く西日本の旅」 というキャンペーンです。JR 西日本と提携し、駅構内のコンビニやお土産売場でしか購入できない限定フレーバーを発売しました。北陸を訪れる観光客が地域の魅力を感じ、商品購入を通じて北陸ブランドに親しむきっかけを生むことが期待できます。
SNS を活用した施策
北陸製菓は SNS を有効に活用しています。Instagram や X でビーバーの公式アカウントを開設し、テーマソングを作ったり、商品の魅力やキャンペーン情報を積極的に発信しました。
LINE スタンプやキャラクターの着ぐるみも用意することで、地元のイベントやキャンペーンでの露出を増やしました。例えば、北陸地方の伝統的なお祭りである 「金沢百万石まつり」 や 「白えび祭り」 といった観光客が集まるイベントにビーバーの着ぐるみが参加し、訪れた人々が親しみを感じる機会をつくり出しました。
また、地元の小規模なフリーマーケットや学校行事にも積極的に登場し、SNS を通じて情報が広がるという循環が生まれたのです。
一貫した目標を掲げてぶれない姿勢
北陸製菓のリブランディングの成功を支えた要因は、「北陸トップのブランドになる」 という一貫した目標を最後までブラさなかった点にあります。
アメリカプロバスケットボールリーグの NBA 選手の八村塁選手が 「白えびビーバー」 をチームメイトに紹介したことをきっかけに、ビーバーが世の中から注目が集まった出来事がありました。
北陸製菓は勢いに乗り、地元スーパーでの特設コーナーの設置や関連キャンペーンを展開することで、売上が一時的に倍増するなど、顕著な成果を上げました。
しかし、北陸製菓はここで焦って全国展開に踏み切ることはしませんでした。むしろ 「地元北陸でのブランド価値をより強固にする」 という戦略を貫いたのです。
地元のスーパーでの大量展示や地元限定キャンペーンの強化に注力することによって、ビーバーが一時的な流行で終わることがないよう、地元での持続的なポジションの確立を目指しました。
小さな池で大きな魚を育てる
ビジネスでは、自社の強みを最大限に活かせる市場 (戦場) を選び、その戦場で存在感を放つことが大事です。
北陸製菓のビーバーの事例から学べるのは、次のようなポイントです。
- 参入する市場での強みの発揮: 資源に限りがある企業にとって、小さな市場でも高い存在感を示すことで、大企業との競争を避けながら持続可能な成長を実現できる
- 地域ブランドの構築: 地域性を活かした独自の商品やストーリーを展開することにより、地元住民の支持を集め、その地域を訪れる観光客への訴求も可能になる
- 持続的な戦略展開: 短期的な流行り廃りに流されることなく、長期的なビジョンにもとづいてブレない展開を続けることによって、信頼性の高いブランドを構築できる
北陸製菓の 「小さな池で大きな魚を育てる」 という戦略は、資源に限りがある中小企業や新興ブランドにとっても有効です。
競争の激しい大海原に飛び込む前に、自社にとって最適な 「池」 を見つけ、その中で圧倒的な存在感を築くーー。このアプローチは、限られたリソースで生き残れるビジネスを成功に導くカギとなります。
まとめ
今回は、北陸製菓 「ビーバー」 のリブランディングの事例を取り上げ、戦略の観点で学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 地域とのつながりを強化するリブランディング
北陸製菓は地域に根ざし、白えびやカニなど地元の名産を活かした限定商品開発、地域イベントでのキャラクター露出、提携した会社とのコラボ施策を展開。地元住民には誇りや愛着が持て、観光客には地域体験として認識される独自のブランドポジションを目指す - 一貫した目標を掲げてブレない姿勢
NBA の八村塁選手の発信で全国的な注目を集めた際も、北陸製菓は全国展開への誘惑に流されなかった。代わりに地元スーパーでの販売強化や地域限定キャンペーンに注力し、一過性の人気に終わらせない戦略を貫いた - 小さな池で大きな魚を育てる
全国展開に進みたくなる中、北陸製菓は地域市場での存在感を発揮する道を選択した。限られたリソースを効率的に活用し、大手との直接的な競争を回避。地域に特化した商品開発やマーケティングで独自性を発揮し、持続可能な成長を目指している
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