投稿日 2025/05/11

花王 「冷タオル」 に学ぶ、"観察" と "再解釈" からの新しいアイデアのつくり方

#マーケティング #アイデア創出 #顧客価値

普段の生活で目にする光景やちょっとした行動が、実は人々の困りごとや潜在的なニーズを映し出していることがあります。

身のまわりを注意深く観察することによって、新たな価値を生むきっかけが見えてくるかもしれません。

今回は、花王の 「冷タオル」 という商品を例に、観察からアイデアが生まれるまでのプロセスを探ります。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

日常に潜むビジネス機会とアイデアの本質


ビジネスでは 「お客様をよく見ること」 が重視されます。

この大事さをことさら声を大にして言う必要はありませんが、この言葉の意味は普段の日常生活に潜む小さな気づきが、実はビジネスへのヒントになるということです。

アイデアが生まれるのは、全くのゼロから突拍子もない発想によって生まれるというよりも、むしろ日常での観察や既存の事象の組み合わせから生まれることを示しています。

この文脈で今回ご紹介したいのが、花王の 「冷タオル」 です。

出典: 花王

2020年に発売された冷タオルの開発のきっかけは、担当者がテレビの高校野球中継で、観客が汗拭きシートを肩や頭に乗せている光景を目にしたことでした (参考記事) 。

この行動自体は特別ではなく、夏の甲子園をテレビやネットで見ていれば、誰でも目にする可能性があるものです。しかし、花王の担当者はそこに注目し、自社の既存商品と結びつけ 「汗拭きシートを冷却グッズとして活用する」 という新しい着想を得たのです。使い切りの冷却グッズという新たなカテゴリーを生み出しました。


冷タオルの開発プロセスは、新しいアイデアが生まれることの本質を示しています。

アイデアとは 「既存のものと既存のものを新たな視点で結びつけること」 に他なりません。冷却という概念と汗拭きシートという既存のものを組み合わせることで、新商品が生まれたわけです。

新しいアイデアから価値創出


では、花王の 「冷タオル」 の事例から、アイデア創発についての示唆を掘り下げていきましょう。

異なる分野の 「点」 を結びつける

Connecting the dots 、すなわち 「異なる点を結びつける」 という発想を花王の冷タオルに見ることができます。

もともと、汗拭きシートは体のべたつきを拭き取る日用品として発売されました。ここに新たに、花王は猛暑やスポーツ観戦などの文脈で 「冷却」 という別の視点に注目し、既存製品と結びつけたわけです。

従来の 「汗拭きシートは汗を拭くためのもの」 という用途から広がり、手軽に体を冷やすというニーズの受け皿になりました。

結合がつくる顧客価値

冷タオルの事例が示す通り、異なる点と点の結びつきは 「既存の製品」 と 「新しい文脈」 を見つけ出すことで生まれます。

大切なのは、ただ単に別の要素を合わせるだけにとどまらず、その結びつきがお客さんの役に立ち、生活の中や世の中に 「新しい価値」 を提供することです。

本当にそのアイデアが有益になるためには、新しい視点が発想の転換を促すだけではなく、お客さんの生活の中にしっかりと根付く 「意味合い」 をつくる必要があります。

花王の冷タオルの場合、猛暑時に使うことによって手軽に体を冷やし、快適さが得られる顧客価値をもたらしました。スポーツ観戦やアウトドア、さらには防災時など、さまざまなシーン (ニーズが生じる顧客文脈) で役に立つ商品になります。この価値が消費者が受け入れられたことで、暑い日の困りごとを解決する商品として支持されました。

このように、新しい視点で結びつけたアイデアが本当に意味を持つのは、実際にお客さんの困りごとを解決し、世の中に役立つといった明確な顧客価値を提供できたときなのです。

アイデアのつくり方


では、ここまで見てきた 「既存のもの同士を結びつける力」 を高めるためには、どうすればいいのでしょうか?

アイデアを形にするためには、日々の観察と発想の組み合わせを鍛えることがポイントです。順に詳しく見ていきましょう。

観察力を高める

観察力とは、日常の中にある 「小さな変化」 や 「不便さ」 、「ちょっとした違和感」 に気づく力です。

花王の冷タオルでは、担当者が夏の高校野球のテレビ中継で汗拭きシートを肩に乗せる人に気づいたように、何気ない事象の中にこそ、お客さんのニーズや困りごとのヒントが隠れています。

普段から身の回りの現象や人の行動を 「なぜ?」 と問いながら観察する習慣を持つことで、結びつけるためのきっかけとなる種が見つかります。

意味を再定義する

次に、観察から得た事実や困りごとを、そのまま受け止めるのではなく 「本質的な課題は何か?」 を考え直すことが重要です。

例えば 「汗を拭く」 という行為から 「体を冷やしたい」 という普遍的なニーズを見出すようにです。目の前の事象や用途を深掘りし、ときには再解釈を重ねながら、本当の課題や人が求める便益を捉え直し再定義することが 「結びつける力」 を高めます。

試行錯誤を繰り返す

結びつけたアイデアは、すぐに形になるとは限りません。

そこで必要になるのが磨き上げです。具体的なアイデア、企画書、プロダクトに落とし込む過程では何度も試行錯誤を重ね、やり抜くことが大事です。

例えばプロダクト開発では、使用感やデザイン、機能性など細部までこだわることにより、最初は 「点」 だったアイデアが最終的に 「線」 や 「面」 となり、価値ある商品として実を結びます。

日常に潜む点と点を結びつけ、新しい視点で価値を生み出す――。その積み重ねがビジネスの機会を広げ、社会やお客さんに貢献するアイデアから価値を生み出していくのです。

まとめ


今回は、花王の 「冷タオル」 を取り上げ、アイデア創発への示唆を考えました。

最後にアイデアのつくり方のポイントをまとめておきます。

  • 観察力を高める: 何気ない日常にこそビジネスのヒントが隠れている。「なぜ?」 と問い続け、身の回りの現象や行動を注意深く観察する

  • 意味を再定義する: 観察から得た現象や困りごとを深掘りし、「本質的な課題は何か?」 を考え直す。既存の行為や用途を新たな文脈で再解釈する

  • 試行錯誤を繰り返す: 結びつけたアイデアを形にするためには試行錯誤を重ねる。細部までこだわり抜きながら磨き上げる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。