投稿日 2025/05/16

怠惰は悪ではない。創造性と幸福感を生む 「何もしない時間」 のすすめ

#マーケティング #生き方 #本

最近、何もする気が起きない…。そんな時、自分を責めたりしていませんか?

タイパや効率性を重視する現代においては、怠けることは何か悪いことだとされ、常に生産性を求められる風潮があります。しかし、休みたい、怠けたいという感情は、実は心と体が発している大切なサインかもしれません。

今回は、書籍 「怠惰」 なんて存在しない - 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論 (デヴォン・プライス, 佐々木寛子) を取り上げます。


 「何もしない時間」 があなたの創造性や幸福感を育むこともあります。怠惰に対する固定観念を捨て去り、自分らしいペースを取り戻す方法を一緒に探っていきましょう。

本書の概要



こちらの本は、生産性至上主義と言える風潮に一石を投じる内容で、真の幸福とは何かを探求する一冊です。

成果主義に疲れた人や、常に生産性を求められる現代社会に生きる人に向けて書かれています。特に、過労やストレスを感じている人にとって、心の安らぎを得るためのヒントが得られる内容となっています。

読み進めると、怠惰という 「怠けること」 は決してダメな行為ではなく、バタバタしている状況において怠惰はむしろ必要なことだと再認識できます。生産性を際限なく高め続ける競争から解放され、より人間らしい生き方について考えさせられる本です。

怠惰は 「悪」 ではない


怠けて過ごすという 「怠惰」 に対して、罪悪感や自己嫌悪を抱くことが多いかもしれません。例えば、「今日は何もする気が起きない」 「ただゴロゴロしていたい」 と感じた瞬間に、「自分はダメな人間だ」 と思ったことはないでしょうか?

本書では、こうした感覚は悪いものではなく、怠惰になりたいという気持ちは自分の体や心からの大切なサインであることを強調します。

仕事や家庭での責任が重なり、心身が疲れているときに怠惰と見なされる行動をとりたくなるのは自然なことです。体が 「もうこれ以上はがんがりすぎないで」 というメッセージを脳に送っている状態です。

仕事中に集中力が切れて無意識にスマホを触ってしまったり、週末に起きる気力が湧かず布団の中でいつもまで過ごしてしまう行動も同じです。

こうした怠惰をする自分のことを否定せず、「自分を守るための本能的な感情や行為である」 と捉え直すことが、過労や燃え尽き症候群を防ぎ、自分の健康を保つために大事なのです。

怠惰のウソ


この本では、「怠惰のウソ」 と呼ばれる3つの誤解を明らかにしています。

  • 人の価値は生産性で測られる
  • 自分の限界を信じるべきではない
  • もっとできることがある


これらへのとらわれや思い込みが、働きすぎからの過労、バーンアウトと言われる燃え尽き症候群を引き起こす要因となっていると述べます。

[ウソ 1] 人の価値は生産性で測られる

仕事やプライベートでも、どれだけ多くのことを達成できたか、どれだけ効率的に仕事をこなせるかが、人の価値を決める尺度になりがちです。

こうした価値観に縛られると、自分が何も生産的なことをしていない時には自分に対して価値がないと感じ、ともすると罪悪感を覚えるようになってしまいます。

例えば、休日に家で何もしない日を過ごしただけで、「時間を無駄にしてしまった」 や 「もっと役立つことをすべきだった」 と後悔することになるというふうにです。

このような考え方は、「休息は怠惰であり、悪いことだ」 という刷り込みから生まれています。しかし、本書は、何もせずただ休むこともまた大切な活動のひとつであり、怠惰はむしろ次の生産性を高めるための必要な行為であると言います。

[ウソ 2] 自分の限界を疑え

2つ目のウソは自分の限界についての認識です。「もっとがんばればできるはずだ」 「限界を突破することで成長する」 といった考え方も、怠惰にまつわるウソのひとつです。

こうした考え方は、心身が疲れている時でさえ無理をして続けることを正当化します。例えば、仕事で毎日残業を繰り返し、「ここでがんばらなければ自分の評価が下がる」 とか 「周囲に遅れを取ってしまう」 と思ってしまうことはないでしょうか?

しかし、実際には、限界を無視して働き続けることは、燃え尽き症候群や深刻なストレスにつながる危険があります。著者は 「無理をしてまでがんばることが必ずしも正解ではない」 と述べ、自分の限界を受け入れることの重要性を説いています。

[ウソ 3] もっとできることはあるはずだ

 「自分にはまだ余力がある」 、「まだやれることが残っているはずだ」 と考えるのも、怠惰のウソのひとつです。

これらの思い込みは、休息を取るべきタイミングなのに先延ばししてしまい、結果的に心身を疲弊させます。何かを達成するたびに 「次はもっと」 という際限のない無限ループに陥ると、いつまでも満足感や幸福感を得られなくなります。

例えば、ある人がランニングを始めたとしましょう。最初は健康のために楽しんでいたのに、次第に 「もっとタイムを伸ばしたい」 「もっと長い距離を走るべきだ」 と考えるようになり、いつしかランニングという趣味がプレッシャーやストレスの原因になってしまうという本末転倒の状態です。

本書では、こうした 「もっとできるはず」 という考え方が、人生の楽しみや本来の目的を損なう危険性を指摘しています。

怠惰になる方法


この本のメッセージはシンプルです。怠惰への価値認識を変え、身体や気持ちが怠惰になることを求めているなら、その欲求に従い、怠惰になる自分を受け入れようというものです。

ここからは、怠惰になるためのポイントを見ていきましょう。まずは 「怠惰への認識」 を変えることからです。

 「何もしない」 を肯定する

本書では、何もしない怠惰の時間がもたらす価値を知ることが、自分に優しくする第一歩だと述べます。

もし 「何もしない時間」 を取り入れることが難しい場合、まずは 「怠惰」 の再定義から始めるといいでしょう。

この本では、怠惰のことを 「自己回復のための時間」 と捉え直してみるという提案をしています。ただダラダラとスマホやテレビを見ている行為は怠けているのではなく、実は心身のストレスを解消し、次の行動に向けたエネルギーを蓄える時間と位置づけるというようにです。

怠惰という行動を決してネガティブに捉えず、怠惰の背後にある 「休息の必要性」 や 「これ以上に今の状態を続けることへの身体からの危険サイン」 と解釈するのです。

非生産的に思える行動が、実は創造性や幸福感を育む時間になることがあります。例えば、部屋でただぼんやりと窓の外を眺めている時や、公園でベンチに座りながら何も考えず自然を見ている時間です。

家で子どもやペットと遊ぶ、庭で草花の世話をするといった一見すると何も生み出していない非生産的に思える時間は、実はストレスを軽減し、心を癒す作用があります。こうした 「怠惰の時間」 を意識的に大切にすることによって、日常の忙しさやプレッシャーを和らげることができます。

意図的に怠惰に過ごす

それでもまだ、怠惰な時間を取ることに罪悪感を持つ人は少なくないでしょう。しかし、ダマされたと思って怠惰の時間を意図的に取り入れることによって、蓄積した疲労の回復や心身の健康促進が期待できます。

本書で示される具体的なエピソードには、慢性的な過労状態にある男性が、週末の朝だけ 「何もしない時間」 を取るようになり、それが習慣となることで心身のバランスを取り戻したという例がありました。

この本で紹介されている具体的な方法のひとつが、「何もしない20分」 です。

具体的には、仕事の合間や休日に、20分だけ 「何もしない時間」 をスケジュールにあらかじめ入れておきます。20分の間はスマホの通知はオフにし (可能なら電源を切る) 、テレビも消し、何も考えずにただ静かに座ったり、横になったりして過ごします。目を閉じて自分の呼吸に意識を向けたり、窓から外の景色を眺めるだけでも OK です。

* * *

この本からは 「怠惰」 という概念が私たちの生活にどれほど必要で、価値のあるものかを理解できます。

怠けたいという自然な感情や欲求を受け入れ、怠惰を健康的で豊かな人生のための一歩として活かしてみませんか?

まとめ


今回は、 「怠惰」 なんて存在しない - 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論 (デヴォン・プライス, 佐々木寛子) という本を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 私たちが持っている 「人の価値は生産性で測られる」 「限界を突破すべき」 「もっとできるはずだ」 という3つの思い込み (怠惰のウソ) が心身の健康を損なわせている

  • 怠惰は身体と心からのサイン。怠惰は悪いものではなく、自分の心身が休息を必要としているという自然な状態。自己防衛のための反応として捉え直すといい。休息や 「何もしない時間」 が次の行動のエネルギーを蓄える重要な行為

  • 何もしない20分を意図的につくる。公園でのんびりする、ペットと遊ぶなど非生産的に見える活動が創造性や幸福感を育む時間になる。怠惰を日常に取り入れることで、心身の回復を図り、より健康的で充実した生活を送れる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。