#マーケティング #差異化 #デザインとストーリー
ペンや手帳などの文具は、手頃な価格と便利さを兼ね備えているのが魅力的です。最近は、高価格帯の文房具も注目を集め、一部の商品は抽選販売になるほどの人気ぶりです。この現象の背景には、何があるのでしょうか?
今回は、文房具市場の最新トレンドを見ていき、マーケティングに活かせるヒントを探っていきます。
文具市場の新しいトレンド
デジタル化の進展に伴って、紙に文字を書くという行為は減っていくと思われましたが、実際には文房具市場では活況を呈しているジャンルもあるようです。
高価格帯・高機能のペンやノートの売り切れや抽選販売になる現象が起きています。これほどの盛り上がりを見せる背景にあるのは、値段の安さや機能性だけでなく、感情的な価値、具体的にはデザインや物語 (ストーリー性) の重要性が高まっているからです。
では、こうしたトレンドを示す具体的な事例を見ていきまながら、ビジネスに活かせる示唆を考えてみましょう。
高級シャープペン 「俺ペン」
文房具が持つ感情的価値の例としてひとつめに見ていきたいのが、小中学生の間で盛り上がっている 「高機能シャープペン」 への人気ぶりです。
少子化の影響を受けて学用品市場は縮小傾向にあると思われますが、1000円を超えるようなシャープペンが抽選販売になるくらいの盛況ぶりを見せています。
シャーペンのスペックを追求するだけではなく、子どもたちが 「俺の1本」 「私の1本」 を自慢し合い、愛着や所有感を得る存在としてお気に入りのシャーペンが選ばれているわけです。モノ以上のストーリーを感じられるかどうかが購買に影響を与えている好例でしょう。
文具メーカー側も、「芯が折れにくい構造」 「重心バランスを調整」 「限定カラーによる希少感」 など、多様な付加価値を次々に打ち出しています。こうした機能やデザインの多彩さに加え、抽選販売というレア感の演出が、持っていること自体の誇らしさにつながっていることでしょう。
ビジネスへの示唆を考えてみると、お客さんからは低価格の商品が喜ばれるという想定から、なるべく安く商品を提供しようと考えるのではなく、お客さんにとっての自分だけの特別感を提案することによって、感情的な価値を打ち出せるという点です。
ブランドや商品の世界観を掲げ、それを伝える仕掛けを展開していくことで、成熟市場やコモディティ市場でも十分に勝機があります。
プチ不満解消に宿るストーリー
次に見ていきたい文房具のトレンドは 「プチ不満の解消」 です。
100円ショップが普及し、低価格帯の文房具を手軽に買える時代だからこそ、ほんの少しの不満を解消するアイデア商品が注目を集めるようになりました。例えば、「本を開いたままキープできるクリップ」 や 「アルコール消毒でもインクが消えないペン」 、「ノートとペンがドッキングするホルダー」 です。
一見すると地味に見えるかもしれませんが、それぞれ消費者が 「こんなものがあったらいいのに」 というニーズに応える文具です。「日々の生活でちょっとだけ困っていたことを、こんな風に解決できるなんて」 と、買った人はちょっと感動したり、新しい発見があるはずです。
小さな感動こそが、使うたびに味わえる喜びになり、文具のことを自分の生活を変えてくれる存在だと感じさせるのです。
他の業界でも、お客さんが抱える 「プチ不満」 を見逃さず、解消するアイデアを打ち出すことは価値創出の一手になります。
お客さんが自分ごと化しやすい物語までを描くことによって、機能説明だけにとどまらず、利用シーンや導入後の気持ちを具体的に想起させる演出につながります。
がんばらない手帳とライフログ文化の広がり
スマホアプリでデジタルのスケジュール管理が当たり前になった今、手帳の使われ方が変化しています。
手帳を 「予定 (未来) 」 ではなく 「過去の出来事を記録するライフログ」 として使う人もいます。日々の自分の行動や感情を書き留めて、後から見返し、自分自身を見つめ直すためのツールとして手帳が新しい使われ方をしているようです。
書き込むことが少なくても余白が気にならない、シールやスタンプで簡単にデコレーションできるという手帳のサポートアイテムも充実しています。手帳を 「がんばって使うもの」 から 「楽しんで続けるもの」 へ変えてくれます。
手帳が予定管理だけではなく、自分の気持ちを肯定し、振り返る物語の場という手帳の新しい役割や意味合いを消費者が感じているのでしょう。
文具以外にも、お客さんが義務感ではなく楽しさ・ワクワクを感じ続けられる仕組みにできないかを考えてみると、新しい着想が得られます。
商品・サービスを使い続けるモチベーションを左右するのは機能以上に感情面です。手帳でのデコアイテムのように、お客さんが自分なりの物語を紡ぎやすい設計を取り入れることにより、継続利用を促すことにつながります。
マーケティングの示唆への考察
文房具市場における100円ショップの影響力は依然として強く、手軽さやコストパフォーマンスを求める層に支持されています。一方で、ここまで見てきた文具の事例が示すように、高機能・高価格帯にも確固たる需要が存在します。
このトレンドは文房具市場に限らず、他の業界で起きるであろう共通の事象として注目しておきたいです。
「安さ」 と 「特別感」 の二極化をどう捉えるか
消費者やお客さんが一律に安さだけを求めているわけではなく、ここぞという場面では多少高くても感情的な満足感を得られる商品に出費を惜しまない──。次のような両極化の中で、いかにして感情的価値を高めるかがビジネスの生き残りを左右します。
- 価格訴求の商品: 必要最低限の品質・デザインを満たしつつ、流通や製造コストを削減し、「お手頃感」 と 「手軽さ」 で勝負
- 感情価値の商品: お客さんが 「所有する喜び」 「誰かに語りたくなるストーリー」 「特別な体験」 を得られるよう、機能面・デザイン面を尖らせて差異化する
このふたつの方向性を捉え、それぞれに合った戦略と施策を立てることが大事です。
物語とデザイン
ここまで見てきたように、抽選販売にまで発展する高価格帯の 「俺ペン」 、プチ不満を解消するアイデア文具など、文房具は多様な商品が感情的な価値を消費者に提供していることがわかります。
背景には、人々が 「自分ならではのものを持ちたい」 という欲求を抱いているであろう消費者としての現状が見て取れます。
文具を書くなどの道具としての機能性だけを追求するとともに、ユーザーの思い入れ、ポジティブな感情移入をどうやって深められるか――。デザインやストーリーをうまく掛け合わせることによって、購入後も愛着が継続する商品になり得るのです。
例えば、学生向けのシャープペンなら 「勉強が楽しくなる」 「自慢したくなる」 ようなデザインとストーリーを、ビジネスパーソン向けのボールペンなら 「長時間書いても疲れない」 「会議や商談で出すとスマートに見える」 という自分の仕事を少しアップグレードしてくれる価値を提供するというふうにです。
商品を使うことで 「どんな生活を送りたいか」 「どんな自分になりたいか」 というユーザーの理想像に訴えかけることによって、商品としてのストーリーや世界観を提示し、お客さんに 「これは自分の生活を彩ってくれるアイテムだ」 と思ってもらうことができれば、ありふれた商品だったものが無二の存在へと変わります。
まとめ
今回は、文房具の新しいトレンドをいくつかを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 最近の文房具市場では文具の安さや機能性だけでなく、デザインやストーリーといった感情的な価値のある高機能・高価格文具 (例: 小中学生の間でブームの高価格帯シャープペン) が人気に)
- 日常の 「小さな不便」 を解消する文房具 (例: 本を開いたままにするクリップやアルコールに強いペン) も注目され、小さな感動が購買を後押しする
- また、手帳は予定管理から 「過去の振り返り」 を目的とするライフログツールへと役割も果たしている。デコアイテムや余白を気にしない手帳が人気に
- もともとあった 「安さ」 に加え、「特別感」 を求めるという二極化。100円ショップで売られている手頃な文具と、高機能・高価格帯の文具が共存する環境で、消費者は場面に応じて感情的満足やコストパフォーマンスを見定めている
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