#マーケティング #ブランドコア #広告
「ブランドらしさ」 とは何でしょうか?
プリングルズは、パッケージをコンパクトに変えた際に、中身の内容量が減ったという誤った情報が消費者の間で広がってしまいました。しかしプリングルズは、ユニークな対応により、ポジティブな状況に変えました。
今回は、危機をチャンスに変えたプリングルズの事例から、ブランドのあり方やブランディングについて考えます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
プリングルズ
「パッケージがコンパクトになったことで、内容量も少なくなった」 という意図せぬ誤解が、SNS 上で拡散してしまったポテトチップスブランドのプリングルズ。
実際には中身の量は変わらず、プリングルズにとってこれは想定外の事態でした。誤情報によるブランド毀損を回避するためにプリングルズが注目したのは、屋外広告でした。
消費者からの誤解を解消するため、プリングルズは 「内容量そのまま」 を伝えるコミュニケーションを多方面から検討しました。当初は以下のようなアイデアも考えられました。
- コンパクト化で得られるベネフィット (利点) を強調する
- パッケージ変更の経緯や理由を丁寧に説明する
しかしその後、最終的には 「一番伝えたいことは『容量は変わらない』という事実そのもの」 であるとプリングルズは再認識し、できる限りシンプルかつ誤解を生みにくい手段に絞り込みました。
こうして選ばれたのが、X 線スキャンを用いた屋外広告です。
新宿駅構内に掲出された 「透け透けプリングルズ広告」 では、パッケージの缶を X 線で透かして見せ、中身のチップス枚数が従来と変わらないことを視覚的に示しました。
この施策には次のような特徴があります。
- シンプルなメッセージ: 余計な情報を省き、「中身は減っていない」 という一点に焦点を当てた
- ブランドらしさの演出: プリングルズの片面からは通常のパッケージ、反対側からは中身が透けて見えるという遊び心を加え、プリングルズらしいユーモアをもたせた
- UGC (ユーザー生成コンテンツ) 誘発: 屋外広告を見た消費者が写真や動画を SNS に投稿することによって、ファンから他の消費者へと中身が減ったという誤解をなくす情報が自然に拡散した
プリングルズはさらに、ブランド公式キャラクターの 「Mr.P」 を使った SNS 上の 「スキャン実験中」 の投稿も行いました。
SNS でただ事実を告げるだけではなく、ちょっとしたユーモアを添えることで、プリングルズならではの世界観を表現しました。
プリングルズの 「ブランドらしさ」
プリングルズは日本市場において、「外国っぽさ」 や 「ご褒美感」 、「食べると気分がアガる」 といった情緒的価値で支持されてきたブランドです。
これまでのマーケティングコミュニケーションでも、プリングルズは消費者の気分を高めることを重視してきました。
たとえばプリングルズの 「Hi! CHEESE!」 フレーバーの発売時には、気分の高揚をテーマにした CM や音楽を提供し、ブランドが持つポジティブな情緒価値を強く打ち出しました。
ブランドコア
プリングルズは、ブランドとしての 「らしさ」 に一本の軸がしっかりと通っているブランドです。
今回のプリングルズの事例から学べるのは、他とは違う認識や価値をもたらす 「ブランドらしさ」 を持つことの重要性です。ブランドらしさのことを、別の表現をすれば 「ブランドコア」 となりますが、ブランドコアを明確にすることによって、コミュニケーション施策での一貫性も高められます。
プリングルズが大切にするのは 「遊び心や好奇心をくすぐる」 というパーパス (ブランドの使命) です。
今回の誤情報と消費者に受け取られた誤解の訂正においても、ただ 「内容は減っていません」 と伝えるだけではなく、「プリングルズらしい、おもしろい切り口」 で訴求することにより、ファンに寄り添いながらブランド体験を維持することに努めたのです。
ブランドコアがあることの恩恵
では、ブランドらしさにつながるブランドコアがあることで、どんな恩恵があるのでしょうか?
たとえば新商品やキャンペーンごとに異なる切り口を用いる場合でも、ブランドが根本的に大切にしている世界観や価値観がブレなければ、表面的な企画内容が入れ替わろうと、消費者は一貫したブランドからの 「らしさ」 を感じ続けることができます。
また、ブランドコアの明確化は、ブランドチーム内の共通認識の醸成にもつながります。
マーケティング活動では、マーケティング担当、営業担当、クリエイティブチーム、広報担当など、さまざまな部門や、さらには広告会社などの外部パートナーが関わります。そんな中で、ブランドが 「本来どんな存在で、何を提供したいのか」 という目指す先を示すコンパスがはっきりしていれば、関係者全員が同じ方向を向いて施策を展開することができます。
プリングルズの事例は、内部での明確なビジョンがブランドコア (ブランドらしさ) に落とし込まれ、認識の共有があったからこそ、消費者の誤解を解くために迅速かつブランドらしい対応が可能になったわけです。
さらに、ユーザーが感じる価値を損なわないコミュニケーションは、長期的なブランドロイヤルティ形成にも寄与します。
仮に今回のプリングルズのような誤情報が生じても、ブランドらしい対応によって消費者は 「あのブランドなら問題が起きても誠実かつおもしろい展開を打ち出してくれる」 と思ってもらいやすくなるでしょう。
こうした期待感は、次に消費者がお店で商品を手に取るときや、SNS で話題にする際にポジティブな心理や行動を生み出し、ブランドとお客さんの関係をより強くするものへと導いていきます。
ブランドピラミッド
では、ブランドらしさから着想を広げ、プリングルズのブランド像を具体的に言語化してみます。
プリングルズの事例を踏まえ、ブランド設計の基本フレームとなるブランドピラミッドに当てはめます。
- ブランドコア: ブランドのビジョン・ミッション・価値観 ← ブランドらしさ
- パーソナリティ: ブランドを人に見立てた時の性格
- ベネフィット: 機能的な価値、心理的 (情緒的) な価値
- エビデンス: ベネフィットがなぜ実現できるか
- メッセージ: ブランドのことを端的に伝える表現
では各要素を順番に見ていきましょう。
ブランドコア
まず 「ブランドコア」 です。
プリングルズのブランドコアは、「人々の遊び心や好奇心をくすぐり、気分を上げる」 という点にあります。
プリングルズというスナック菓子を食べることで心地よい感情、テンションの上がる気持ちの高まり、ちょっとした海外気分を味わえる存在であるという、他にはないプリングルズの独自の世界観です。消費者は、プリングルズから日常の中に "非日常的な楽しさ" を感じることができ、ブランドとしてのらしさが息づいています。
ブランドパーソナリティ
2つ目のブランドピラミッドの要素は 「パーソナリティ」 です。
パーソナリティとは、ブランドを人に見立てた時の性格のことです。プリングルズを人にたとえるならば、ユーモアあふれる、ちょっと悪ノリもできる陽気な友だちといったキャラクターでしょう。
外国のお菓子ブランドというイメージに遊び心が合わさったパーソナリティは、一緒にいるだけで自然と楽しくなれるような存在です。そんな仲のよい友人のような雰囲気は、プリングルズを身近で親しみやすく感じさせます。
ベネフィット
3つ目の要素である 「ベネフィット」 は、日本語にすればブランドがお客さんにもたらす便益です。
ベネフィットは大きく機能的な便益と感情的な便益に分けることができます。プリングルズの機能的ベネフィットとしては、いつでも安定した品質で楽しめるスナックであることが挙げられます。独特の筒型パッケージに収められたチップスは、割れにくく持ち運びやすく、サクサクとした食感や濃厚な味わいです。
心理的なベネフィットは、プリングルズを食べると気分が上がる顧客体験をもたらします。普段の日常の中にプチご褒美的なうれしい気分になれるというふうにです。
エビデンス
ブランドからベネフィットを裏付ける証拠となる要素が 「エビデンス」 です。
プリングルズというブランドからの便益を示すエビデンスは、長年にわたり愛されているグローバルブランドであること、均一なチップの形状と安定した品質、そして幅広いフレーバー展開が 「いつでもおいしい」 という安心感を保証します。
加えて、ユニークで毎回どこかプリングルズらしい雰囲気のあるキャンペーンや CM 、例えば 「透け透け広告」 からの成果や実績は、プリングルズがブランドらしさを常に提供する証拠ともいえます。
こうした一貫性のある取り組みと成果が、プリングルズの 「食べれば気分がアガる」 という情緒的価値をしっかりと支えているのです。
メッセージ
5つ目のブランドピラミッドの要素が 「メッセージ」 です。
プリングルズの 「食べれば、アガる。」 といったフレーズは、ブランドがもたらす高揚感をストレートに伝えます。
また 「いつもの日常がちょっと楽しくなるスナック」 という表現は、プリングルズが日常の先にある小さなハッピー体験を提供してくれることを強調します。
これらのメッセージは、プリングルズというブランドの魅力を端的かつ的確に言い表し、消費者がプリングルズという存在をすぐに理解できるものになっています。
まとめ
今回は、プリングルズの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントのまとめとして、ブランドピラミッドです。
- ブランドコア: ブランドのビジョン、ミッション、大切にする価値観。ブランドらしさの根幹となる部分
- パーソナリティ: ブランドを人に見立てた時の性格やキャラクター。ブランドの人格的な特徴
- ベネフィット: ブランドが顧客にもたらす便益。機能的な価値と感情的 (情緒的) な価値がある
- エビデンス: ベネフィットがなぜ実現できるのかの証拠。ブランド価値を裏付ける要素
- メッセージ: ブランドのことを端的に伝える表現。ブランドの魅力を簡潔に言い表した言語化
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