投稿日 2025/05/21

オーケー銀座店。市場への "思い込み" から脱却し、未充足ニーズを満たしての顧客創造

#マーケティング #顧客創造 #思い込みからの脱却

東京の銀座といえば、高級店が立ち並ぶ 「富裕層の街」 というイメージが強いことでしょう。

2023年10月にマロニエゲート (地下1階・2階) にオープンしたディスカウントスーパーの 「オーケー銀座店」 は、開店から1年を迎えたあとでも売上が前年比で2割以上伸び続けています (参考記事) 。

EDLP (Everyday Low Price) を掲げるオーケーが、なぜ 「高級エリア = 富裕層の街」 というイメージの銀座で成功しているのでしょうか?

その背景を探ると、マーケティングやビジネスのヒントが見えてきます。

オーケー銀座店



 "買い物難民" という都市型ニーズを捉えた

銀座エリアは、庶民向けの買い物施設はあまりなく、食品スーパーも少ないエリアでした。高級ブランドの路面店が立ち並び、レストランも高価格帯が中心で、日常的に利用しやすい店が見当たらない――。銀座周辺で暮らす人々にとって悩みになっていました。

こうした状況でオーケー銀座店が新たにオープンしたことによって、これまでは高級店のイメージが先行していた銀座に、いつでも安く必要な食料品がそろう場所が誕生しました。再開発前から住む高齢者や、節約志向の若い世帯にとっては救世主のような存在です。

タワーマンションが建ち並ぶ東京の勝鬨や晴海から自転車で15分ほどでアクセスできる点も見逃せません。近隣住民は 「銀座なのに品揃えが豊富で価格も安いので、毎日の買い物がラクになった」 と評価している声も聞かれます。

高級エリアの意外な "ランチ需要" を取り込む

銀座で働く人にとって、銀座周辺でのランチは1000円を超えることが当たり前です。オフィスワーカーや現場作業員の人たちからすると、1000円超のランチを毎日食べるとで出費がかさむので、できればリーズナブルに済ませたいという思いがあることでしょう。

オーケー銀座店では、 「ロースカツ重 (カナダ産三元豚使用) 299円 (税抜) 」 や 「本格ガパオライス358円 (税抜) 」 といった驚きの低価格弁当を多数用意しています。他にも、黒毛和牛 A5 ランクを使用した 「すき焼き弁当」 が999円 (税抜) という、コストパフォーマンス抜群のお弁当まであります。

これらの商品が 「銀座ランチは高い」 という常識を覆し、忙しいビジネスパーソンの胃袋と財布を同時に満たす存在になっているのです。

また、夕方には仕事終わりの会社員がオーケー銀座店に寄り道をして夕食の買い物をするケースも見られ、こうした需要を同時に応え続けることが好調な売上につながっているのでしょう。

学べること


では、オーケー銀座店の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

 「高級 = 富裕層」 では見えない未充足ニーズを満たす

銀座では高級ブランドショップが立ち並び、高級飲食店、高級クラブもあります。

しかし、銀座エリアに集うのは富裕層だけとは限りません。銀座周辺には多様なライフスタイルを持つ人々が暮らしています。オーケーは、そんな人たちの 「もっと手ごろに暮らしたい」 や 「近所で買い物を済ませたい」 といったリアルな声を逃しませんでした。

とはいえ、オーケーが打ち出す EDLP を掲げるだけでは 「銀座らしさ」 に合わないと思われるかもしれません。ところがオーケー銀座店には、実際には1万円を超える塊肉や高級フルーツの盛り合わせも店内に並び、銀座らしいハレの商品も手に入ります。一方で、リーズナブルな惣菜・弁当・生鮮品も豊富に売っているという商品の幅広さが魅力です。

オーケー銀座店にはタワーマンションに住む人も、近隣の高齢者も、周辺で働く会社員も、それぞれのスタイルで利用できる店舗となりました。

ランチや日常需要を満たすだけでなく、オーケー銀座店では周辺の飲食店が業務用に仕入れを行う光景も見られるようです。高級和牛 A5 ランクのブロック肉をまとめ買い、焼き肉のたれの大容量ボトル、業務用のミックスナッツ 1kg など、飲食店にとってもありがたい商品がそろっているため、まとまったロットで欲しい需要も満たしています。

市場への思い込みを打ち破っての着想

銀座と聞くと 「高級ブランド・富裕層向け」 と思い込んでしまいがちですが、オーケー銀座店は外国人観光客の需要までしっかり取り込んでいます。

海外からの団体客が免税対象の商品を大量購入、海外赴任中のビジネスパーソンが日本のパンや弁当を探しに立ち寄るといった光景も珍しくありません。銀座店はオーケーのなかでも外国人比率が最も高い店舗になっているというのも頷けます。

お菓子やお酒、チューブわさび、化粧品だけでなく、最近では日本産フルーツを目当てに来る外国人も増えているそうです。スマホの翻訳アプリやカメラでパッケージの日本語を読み取りながら商品選択をする海外観光客の姿も見られます。

オーケーはこうした消費ニーズの多様化を見逃さず、「高級食材 & 低価格帯の商品群」 、「富裕層 & 庶民層」 「日本人客 & インバウンド外国人客」 という様々な異なる組み合わせを柔軟に取り込んだことが、オーケー銀座店成功のポイントです。

未充足ニーズを探し出し、新たな客層を取り込む

今回のオーケー銀座店が示すのは、市場への 「思い込み」 にとらわれず、潜在的な未充足ニーズを探り、その層が本当に求めている価値を定義し、的確に提供すれば、従来とは異なる客層を取り込み、成功につなげられるということです。

銀座という一般的な高級イメージに引きずられていたなら、見落としてしまったであろう都市型買い物難民や、高級エリアでのリーズナブルなランチへのニーズ、さらにはインバウンド需要まで、多様な顧客セグメントを取り込んだ事例は、固定概念を捨てた柔軟なアプローチの重要性をあらためて教えてくれます。

あなたのビジネスにおいても、いま一度 「本当に満たされていないお客様のニーズは何か」 を見つめ直し、注力するお客さんの状況とその状況下で生じているニーズに合わせて、自社の強みをどう活かせるかを考えることが大事です。

まとめ


今回は、オーケー銀座店を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 銀座は 「高級店のエリア」 というイメージがあるが、実際には日常的な買い物ニーズや手頃な価格帯のランチ需要も存在している

  • このように表面的なイメージだけでなく、実際に 「その場所で消費者から何が求められているか」 を理解することが重要

  • オーケーは 「高級エリアだから高級店しか成功しない」 という固定観念を捨て、実在する顧客ニーズにもとづいて柔軟に対応。市場に対する 「思い込み」 を捨て、潜在的な未充足ニーズを満たすことで、新たな顧客価値を生み出せる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。