投稿日 2025/05/06

かっこよく飲めるウォーターサーバー 「WATER BASE」 。マズローの五段階欲求説から捉える高次の顧客ニーズ

#マーケティング #顧客ニーズ #マズローの五段階欲求

今回取り上げるのは、アサヒ飲料が提供する 「WATER BASE」 です。水を飲むという基本的な行動を、価値ある体験へと変えようとするウォーターサーバーです。

マズローの五段階欲求説から、学べることを紐解いていきます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ウォーターサーバー 「WATER BASE」 


出典: PR TIMES

アサヒ飲料が実証実験を進める 「WATER BASE」 は、会員制のアプリ連動型ウォーターマネジメントサーバーです。

利用者は専用アプリでアカウントを作成し、表示された QR コードをウォーターサーバーにかざして給水します。水温 (冷水, 常温, 温水) 、給水量 (200mL, 300mL, 500mL) をタッチパネルで選ぶだけという簡単な操作で、いつでも清潔な水を飲めるというウォーターサーバーです。

加えて、専用アプリでは給水量が自動で記録されるため、1日2リットル水を飲むというような習慣にも対応しやすいです。

WATER BASE は水道直結型で、約3ヶ月ごとにフィルターを交換し品質を保ちます。設置をする側の手間も少なく、大学やオフィス、駅といった様々な場所へ設置しやすい点も特徴です。

有料会員制 (月額1000 ~ 1500円程度を想定) という仕組みによって、利用施設から費用をとる従来の 「無料給水スポット」 とは異なるエンドユーザーから課金をするというビジネスモデルです。

将来的にはアプリ内で健康や美容に関する情報発信、希釈飲料や関連グッズの販売を行う構想もあるとのこと。アサヒ飲料は WATER BASE の位置づけを、水をきっかけにした新たなライフスタイルの提案を目指しています。

マズローの欲求5段階説で考える価値提供


WATER BASE を、マズローの欲求5段階説というフレームワークで捉えると、マーケティング戦略の妙が見えてきます。

人の欲求は、① 生理的欲求、② 安全欲求、③ 社会的欲求、④ 承認欲求、⑤ 自己実現欲求という順序で高い次元に上がっていくとされます。

WATER BASE は、最も基本的な 「水を飲む」 という生理的欲求という基本的な行為に、上位欲求につながる様々な価値要素を付け足すことによって、利用者により高い満足度をもたらそうとしているのです。

[生理的欲求] ベースとなる水分補給

水を飲むことは生命維持に不可欠な 「生理的欲求」 に属する行為です。

普通であれば、ここに大きな付加価値は付きにくく、水はコモディティ (汎用品) として扱われがちです。しかし近年は、健康志向やサステナブル (持続可能性) への関心が強まっており、わざわざ水を買うという消費行動がもはや当たり前になりつつあります。

このトレンドが、コモディティである水を高付加価値サービスへ上げるチャンスになっているわけです。

[安全欲求] いつでも清潔で安心な水

安全欲求に目を向けると、人は 「安心してきれいな水を得たい」 というニーズを持っています。

WATER BASE は水道から直結するフィルター管理によって常に品質を確保し、有料会員制によって運営側が一定の収益を得られるため、しっかりとしたメンテナンスを維持できます。

この 「清潔さ」 と 「いつでも利用できる確実性」 は、安全性への欲求を満たし、利用者にとって 「WATER BASE のサーバーなら信頼できる」 という気持ちを呼び起こすでしょう。

[社会的欲求] 給水で感じる仲間意識

社会的欲求とは、人とつながり、社会の中で仲間意識を得たいという欲求です。

WATER BASE では、無料で使えるウォータースポットとは異なり、課金している会員になって利用するサービスです。また、洗練されたデザインはウォーターサーバーで水を飲むという行為そのものをかっこいいスタイリッシュな姿として演出します。

これにより 「無料で水をもらって、ケチな自分に見えてしまうかも…」 という後ろめたさが薄れ、「自分は有料サービスを利用し、環境や健康を考えている」 という社会貢献への実感を伴った行動ができているという感覚が得られるでしょう。

同じサービスを使う人同士での共感や、サービス導入拠点での一体感など、利用者は WATER BASE での給水を通じて社会的なつながりや価値観の共有を感じやすくなります。

[承認欲求] スマートに水を飲む自分への承認

承認欲求とは、他者から自分のことを承認されたいという欲求です。それにより有能感、達成感、名声を得たいという気持ちです。

洗練されたウォーターサーパーやアプリと連動する WATER BASE で水を飲む行為を、普通に水を飲むのとは違う方法を取っているところを友人や知人に知ってほしい、スマートに水を飲む自分を承認してほしいという気持ちに応えるのが WATER BASE です。

人と違うやり方を見せびらかしすぎず、さり気なく示せるところが、いい塩梅で承認へのアピールにつながります。

[自己実現欲求] 理想の自分へのステップ

マズローの欲求説の最上位にある自己実現欲求は、自分の能力を最大限に発揮し、理想の自分になろうとする欲求です。

WATER BASE は、ウォーターサーバーがアプリと連動しているという先進的な仕組み、洗練されたデザイン、そしてサステナブルな価値観 (使い捨てボトル削減や健康志向) を打ち出しています。

こうした特徴を持つ WATER BASE をお金を払って選ぶことで、利用者は 「自分は良い選択をしている」 や 「自分は環境にも健康にも配慮した行動を取っている」 という自尊心や自己肯定感を感じやすくなります。

WATER BASE での水分補給が自分らしいライフスタイルを肯定し、自分は賢く選べる消費者という自画像を強くする行為へと変わるわけです。利用者は毎日の何気ない行動によって、自分を少し高めているような感覚を得られます。

また、WATER BASE が用意するアプリの給水記録機能によって、利用者は日々の水分補給を記録データから見える化し、健康的な目標を立てることができます。例えば 「1日2リットルの水を飲む」 という目標を達成し続けることによって、利用者は 「理想的な健康状態やライフスタイル」 に近づく達成感を得られることでしょう。

マーケティングへの学び


アサヒ飲料のウォーターサーバー WATER BASE の事例が示唆するのは、ベーシックな商品でも、上位欲求と結びつけることによってお客さんに高い付加価値をもたらすことできるという点です。

もともとは水を飲むという生理的欲求や安全欲求のためであっても、デザイン性、有料制による付加価値、コミュニティ意識、承認、自己実現へのサポートなど、段階的に欲求レベルを引き上げる仕組みを設計することにより、消費者にとってその商品・サービスは消費財以上の存在になっていきます。

利用者は WATER BASE を使うことで、自らが 「より良い生き方」 をしていると感じられます。

サービスを提供する企業は、蓄積される利用データをもとに、パーソナライズされたサービスや新たな関連商品を提案することによって、お客さんとの関係をより深めることも可能です。長期的な顧客ロイヤルティやブランド価値の向上を期待できます。

WATER BASE が目指しているのは、生活者の高い次元の欲求に応え顧客満足度を向上させることです。お客さんとの絆を強め、自分の理想を叶えるためのパートナーのように位置づけることができます。それによってお客さんから 「選ばれる理由」 をつくれるのです。

この発想は、他のカテゴリーやサービスにも応用可能です。日常的な行為の中から高付加価値を生み出し、お客さんの欲求を満たす新たな市場を切り拓くヒントになります。

まとめ


今回は、アサヒ飲料のウォーターサーバー 「WATER BASE」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 水のようなベーシックなコモディティ品でも、より上位の欲求 (社会的つながり, 自尊心, 自己実現) と結びつけることで、高い付加価値を提供できる

  • コモディティ市場での価格競争から脱却するには、機能的価値にとどまらず、消費者・お客さんのライフスタイルや自己実現をサポートする要素を組み込む


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。

ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

最新記事

Podcast

多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信中。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。