#マーケティング #遊休資産 #顧客価値の再定義
古くて売れない、使い道がない…。そんな遊休資産に頭を悩ませていたりしないでしょうか?
放置すればコストがかかるだけの負の資産が、実は別の誰かにとっては 「喉から手が出るほど欲しいもの」 かもしれません。
今回は、誰も見向きもしなかったボロボロの空き家が人気ロケ地になったという事例から、モノの価値を再定義し、新たな市場を生むマーケティングの秘訣を紐解きます。
ボロボロのアパートが映画や CM のロケ地で人気
売れ残っている古い空き家や閉園したテーマパークなどが、映画・テレビ・ミュージックビデオのロケ地として活用され、新たな価値を生み出している事例をご紹介します (参考情報) 。
荒れた雰囲気がむしろ評価され、観光スポット化する例も出ています。
都心の廃墟が生み出す収益
不動産会社 「ジェーガイア」 は、東京 23 区内の路地奥にある築数十年の空きアパートを映画やドラマのロケ地として貸し出しています。
アパートは、ドアはボロボロ、外階段はさびだらけという状態。周囲はきれいなマンションばかりという環境の中で都心の廃墟といった佇まいです。
ジェーガイアは2023年頃から本格的にロケ地として活用を開始し、1時間あたり約2万円で貸し出します。深夜撮影では割増料金も設定され、年間の固定資産税を十分にカバーできる収入を得ています。
これまでに数十件の撮影実績がありました。ホラー映画はもちろん、バラエティー番組や CM、昭和の風景を撮影する作品など、幅広いジャンルで活用されています。
2025年春には著名俳優も参加する映画撮影が行われ、撮影チームは近隣の飲食店を休憩所として貸し切るなど、地域経済への波及効果も生まれています。
実家を映画の舞台に変える
2つ目の事例は 「ほそい住宅 FP」 が2022年からサイト運営をしている 「実家ロケ」 です。
古くて売れず、貸すこともできず、壊せない家の新たな活用方法として、ロケ地としての貸し出しを提案するサービスです。
実家ロケは全国約20件の物件を掲載しており、東京近郊の一軒家では有名俳優やアイドルが参加する撮影も実施されました。この物件はリフォーム工事の途中でしたが、古い外観が映画のイメージにぴったり合い、外観のみの撮影で活用されています。
映画やドラマの舞台になったという実績は、将来的な売却時のアピールポイントになります。実家の処分に悩む所有者にとって、ロケ地活用は物件の価値を高めながら、次のステップへの準備期間を確保できる選択肢となります。
地方創生とロケ地誘致の融合
地域活性プランニングという会社が運営するのが 「ロケなび!」 という検索サイトです。
約2万3000人のユーザーに地域の撮影可能施設を紹介しています。
地域活性プランニングは 「ロケーションジャパン」 という情報誌の発行や、地域商品の取り寄せサイト 「LJ マルシェ」 の運営も手がけ、ロケ地を軸とした地域活性化を総合的に支援しています。
千葉県茂原市の事例では、閉園したテーマパーク 「レイクウッズガーデンひめはるの里」 が、2024年に配信ドラマ 「ワンダーハッチ −空飛ぶ竜の島−」 の撮影地として活用されました。
地域活性プランニングは撮影支援だけでなく、セット展示イベントのアドバイスやロケ地マップの制作も行い、聖地巡礼という新たな観光需要を創出しています。
また、静岡県西伊豆町では、4年半でロケ数が約10倍に増加。廃校を活用した宿泊施設が撮影に使われ、今では人気の観光スポットに成長しました。一度使われると再度注目される好循環が生まれ、持続的な地域活性化につながっています。
では、ボロボロのアパートが映画や CM のロケ地で人気となっている事例から学べることを掘り下げていきましょう。
価値の再定義
今までは使っていなかった遊休資産に新しい意味合いを与え、顧客価値をつくり出した事例として示唆が得られます。
遊休資産の放置コスト
何十年も空き家や廃墟のまま放置すれば、当然ながら固定資産税や建物の劣化に伴う維持管理コストが発生します。
しかし、通常は売れない、貸せない、壊せないといった理由で放置されたままというのが多いことでしょう。
今回のケースでは、潜在ニーズとのミスマッチもあります。
不動産オーナーは、古いアパートを居住用として再活用する需要がないと見做し、適切な市場を探索できていませんでした。その結果、「映像制作用」という全く新しい市場の可能性に気づけずにいたのです。
この状況を打開したのが、顧客と価値、そして戦う市場を捉え直す「価値の再定義」でした。
顧客と価値
注力顧客を定めることが最初のステップです。
今回の事例では、映画・CM・ドラマの制作プロダクションや映像ディレクター、廃墟イメージを演出したいコンテンツ制作者などが主要な顧客となりました。彼ら・彼女らは常に新しいロケーションを探しており、特に都心でアクセスしやすい廃墟は希少価値が高いわけです。
提供価値を定義することにより、競争優位性が明確になります。
昭和レトロや廃墟の恐怖感といった独自のシチュエーションを格安で提供できること、都心にありながらアクセス可能なリアル廃墟という希少性が顧客価値になります。セットを組むコストや時間を削減できる点も、制作側にとって大きなメリットです。
注力顧客と提供価値が明確になれば、戦う領域も決まってきます。
居住用・事務所用の不動産マーケットではなく、映像制作市場へ参入するという決断です。既存のロケ地検索サイトやマッチングプラットフォームとして活用されることを目指しました。
汎用的な学び
事例から、あらゆるビジネスに応用できる重要な示唆が得られます。
遊休資産の有効活用
活用されていない既存資産をコアバリューの源泉として再評価し、新しい市場に展開することで価値を創出できます。
重要なのは、資産そのものの特性を変えるのではなく、その資産を必要とする新たな顧客を見つけることです。
廃墟は廃墟のままでも、それを求める消費者や企業がいれば立派な商品になります。自社が保有する遊休資産を洗い出し、別の文脈で価値を持つ可能性を探ってみましょう。
顧客の文脈で価値を捉え直す
今回の事例では、物件が持つ廃墟らしさに潜在的価値を見出し、顧客ニーズに合わせて再定義しました。
自社の商品やサービスの意味合いについて、誰のどんな課題を解決できるかという顧客視点で価値を考え直してみるといいでしょう。
ボロいアパートが最高のホラー映画セットに変わったように、顧客の置かれた状況によって価値は変わります。
弱みを一点突破の強みに変える
万人受けを狙う必要はありません。むしろ、ニッチでもこの点だけは誰にも負けないという強みを見つけ、それを求める顧客に深く刺さる提案をすることが大事です。
多くの人にとっての弱みが、特定の顧客にとっては代替不可能な強みになります。都心の廃墟という矛盾した存在こそが、他では得られない価値となったのです。
機能を超えた "意味" や "物語" を付加する
商品は使われることで体験となり、語られることによって物語になります。
あの映画で使われた場所というストーリー性は、物理的な価値を超えた強い引力を生み出します。自社の商品やサービスに、お客さんが語りたくなるような意味を付加できないか考えてみましょう。
ただの空き家ではなく、作品の一部となった特別な場所という新たな意味が価値を生み出します。
以上のように、何もしなければゴミ同然だった遊休資産を、顧客のユニークな体験ニーズにマッチさせることで新たな顧客価値を創出した点が、この事例のマーケティング的なおもしろさです。
まとめ
今回は、ボロボロの空き家が映画や CM のロケ地で人気という事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 活用されていない既存資産 (遊休資産) を、新たな価値の源泉となりうるものとして見直すことにより、新しい市場で展開できる可能性が生まれる。「古い = 価値がない」 という固定観念を捨て、別の文脈では 「古い = 希少価値」 になりうる
- 顧客文脈で価値を捉え直す。自社の製品やサービスが 「誰の、どんな課題を解決できるか」 という顧客目線で価値を見出す
- 弱みを強みに転換する。万人受けを狙わず、ニッチな市場で 「弱み」 を 「一点突破の強み」 として捉え、それを求める特定の顧客に深く刺さる提案を行う
- 物理的な価値だけでなく 「あの映画で使われた場所」 のような 「意味」 や 「物語」 を付加価値として加えることによって、顧客の体験価値を高められる
- 再定義には市場・顧客・提供価値の再構築が必要。従来の用途やターゲットから一度離れ、新たな市場に合った価値設計を行うことが重要
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