#マーケティング #アイデア #手段の目的化

イノベーションの多くはゼロからの全く新しい発明ではなく、すでにあるものの 「組み合わせ」 から生まれています。

しかし、ただのかけ算では意味がありません。画期的なアイデアには、一見バラバラな要素を結びつける共通点が隠されています。

今回は、水鉄砲を使ったユニークなスポーツ 「ポイポイバトラー」 から、アイデアをつくるための発想方法を紐解きます。

ポイポイバトラー

出典: 一般社団法人ポイポイバトラー協会

猛暑が続く日本の夏に、「ポイポイバトラー」 という子どもから大人までを熱狂させる新しい水遊びが生まれています。

全国のイオンは 2025 年、涼を感じる様々なイベントを開催し、その中のひとつがポイポイバトラーでした。

7 月にイオンモール長久手 (愛知県) とイオンモール新利府 (宮城県) 、8 月にイオンタウン津城山 (三重県) などで実施され、子どもたちが水鉄砲バトルに熱狂しました。

新しい水遊びスポーツ

ポイポイバトラーは、水鉄砲で相手の頭に装着した 「ポイ」 を撃ち合う水遊びの対戦型スポーツです。

ルールはシンプルです。専用ゴーグルに、金魚すくいで使う 「ポイ (薄い紙で作られた金魚をすくう道具) 」 を頭にセットし、水鉄砲で相手のポイ紙を狙います。先にポイを破いた方の勝ちです。

1 チーム 3 人で制限時間は 2 分。ポイに水をかけられ破れたら退場し、最終的にコート内に残っている人数が多いチームが勝利します。

運動の得意不得意や体格差もあまり関係なく、誰もが主役になれる水遊びスポーツです。

誕生の背景

ポイポイバトラーを開発したのは、名古屋の玩具問屋である堀商店です。

誕生のきっかけには、専務取締役である堀新太郎さんの日本の地域産業への思いがありました。

堀商店があるのは名古屋市ですが、名古屋の南西に位置する弥富市は、金魚の名産地として知られています。

堀さんは金魚すくいのポイメーカーの人たちから、コロナ禍でお祭りがなくなりポイの需要が落ち込んでいる状況を知りました。

そこから、金魚すくいという日本の伝統文化を守るため、水鉄砲とポイをくっつけるアイデアを思いつきました。

会社の営利より競技普及を優先

堀商店は、ポイポイバトラーを広めるためにある決断をします。それは、自社の利益よりも競技が広まることを最優先するという方針でした。

最初こそ商品を売る目的で大会を開きましたが、実際にプレイする子どもたちの笑顔や大人の熱中ぶりを目の当たりにし、方針を変えたのです。目的は競技を広げること、商品はその手段と位置づけたのです。

参加者の表情や声がその決断を後押ししました。

子どもたちは 「狙うところとか、戦う感じが楽しい!」 と目を輝かせます。

大人も 「子どものころに戻った感じで楽しかった」 「大人もやりたくなるような戦い」 と熱中しました。母親からは 「おもしろいと思います。家でもポイを使ってやろうかと」 という声も上がりました (参考情報) 。

2023 年、堀さんは 「ポイポイバトラー協会」 という一般社団法人を設立します。

競技を広げようとしても、特定企業の営利目的とみられると賛同してくれる人は限られます。新たな人や団体を巻き込むためには、一緒に社会課題を解決していくことを明示する社団法人の設立が最適でした。

大会の開催には、ポイポイバトラーと水鉄砲、あとは人件費さえあれば実施できるようにしました。

営利目的ではなく、純粋に 「楽しい場を広げたい」 という想いが伝わるからこそ、人々は共感し、ポイポイバトラーの輪は自然と全国に広がっていったのでしょう。

アイデアのつくり方

ポイポイバトラーの成功は、私たちに新しいアイデアの生まれ方を教えてくれます。

アイデアは 「異なるもの同士の組み合わせ」 から生まれます。

イノベーションは、全くのゼロから生まれるわけではありません。多くの場合、すでにあるものとあるものの掛け算によって生まれます。

一見すると全く関係のない領域のものを組み合わせるほど、そのアイデアはユニークなものになります。

ポイポイバトラーの組み合わせの妙

ポイポイバトラーがまさにそうでした。

水鉄砲という昔からある玩具、金魚すくいのポイという日本の縁日文化です。

また、これはあとからの結果論かもしれませんが、任天堂の人気ゲーム 「スプラトゥーン」 に似ている点があります。

出典: GameWith

ちなみにスプラトゥーンは、ヒトの姿に変身できる 「イカ」 や 「タコ」 を操作し、専用の水鉄砲のような銃を使ってインクを塗り合って、陣地を広げて勝敗を争うゲームです。

このように、水鉄砲、金魚すくい、スプラトゥーンという 3 つの要素を組み合わせているのがポイポイバトラーなのです。

水鉄砲は昔からあるおもちゃです。しかし、金魚すくい用のポイを命中させる的にしたことで、ポイ紙が水で破れるという視覚的にわかりやすい体験が、ゲーム性を高めたわけです。

ここに、子どもたちの心をつかむのがスプラトゥーンとの類似性です。

多くの子どもたちがスプラトゥーンで遊んだ経験があり、水鉄砲ゲームのおもしろさを感覚的に知っていました。子どもたちにとって水鉄砲ゲームは、ドッジボールや野球と比べて身近ではないかもしれません。しかしスプラトゥーンに似ていることが、子どもたちを引き付けたのです。

奥にある共通点

異なる領域の要素を組み合わせる際、距離が遠いほど独自性は高まります。

ただし、接続を意味のあるものにするためには、異なるもの同士の奥にある共通点がカギを握ります。

ポイポイバトラーで興味深いのは、水鉄砲、金魚すくい、スプラトゥーンという 3 つの要素が、「水」 という共通点で結ばれていることです。

水鉄砲は水で攻撃します。金魚すくいは水の中の金魚を狙います。スプラトゥーンはインクという液体を撃ち合います。これらに水という共通項があることで、組み合わせが自然で納得感のあるものになったのです。

価値の転換

ポイポイバトラーは、ただのゲームではありません。

ポイを使いスプラトゥーン的な世界観を再現することにより、子どもだけではなく大人も夢中になる 「スポーツ」 に変えました。組み合わせた要素の文化的な背景を俯瞰して再解釈し、競技としての社会性を持たせているわけです。

ポイポイバトラーは、説明不要で直観的に遊べる上、運動の得意不得意や体格差の影響も小さいため、子どもと大人が一緒になってバトルできます。

初対面の人と顔を合わせて作戦を練ったり、一緒に喜んだり。出会いや接点から地域コミュニティーとしてのつながりが生まれます。

目的と手段の逆転

もうひとつ、ポイポイバトラーの事例で注目したいのは、堀商店の戦略の転換です。

私たちが学べるのは、「目的」 と 「手段」 を意図的に逆転させたことにあります。

競技化による需要創出

一般的にビジネスは、商品を売ることが目的です。商品販売のために広告、販促、流通拡大が手段になります。

しかしポイポイバトラーは、目的と手段を逆転させました。競技を広めることが目的で、商品を販売することが手段にしたのです。すなわち、ポイポイバトラーの 「競技化」 を目指しました。

この戦略転換を象徴する施策が、ポイポイバトラーの協会設立とライセンスフリー化でした。

堀商店の自社のビジネスだけを考えたら、ポイポイバトラーというコンテンツを抱え込んでライセンスフィーを取ったほうが有利でしょう。しかし堀商店はそうはしませんでした。

ポイポイバトラーというスポーツを普及させる。その競技に参加したい、楽しみたい、という人々を増やす。そうすれば、競技に必要な公式グッズは自然と売れていく。

商品を売ることを直接の目的にするのではなく、ポイポイバトラーの 「競技の普及」 という大きな目的を掲げたのです。

需要の自然生成メカニズム

ポイポイバトラーの目的と手段を逆転させた結果、需要を生み出すメカニズムが自然に回り始めました。

競技の認知がひろがると、名古屋や愛知県内だけではなく全国各地でイベントが開催されます。

参加者が体験すると、自分たちもやりたいという気持ちが芽生えることでしょう。そして公式商品を購入し、さらに競技が広がっていくという好循環が起こったのです。

ポイポイバトラーで使うアイテムの性質もこの戦略と相性が良かったのでしょう。ポイ紙は消耗品のため、リピート需要が自然発生します。イベント用セットは大会ごとに必要です。商品を無理に売り込まなくても、競技が広がれば自然と売れる仕組みができあがりました。

目的を手段にする戦略

子どもの遊びとして生まれたのがポイポイバトラーでした。

利用者の姿を見てそのルールや解釈を柔軟に変化させた結果、世代を超えた競技として広がる可能性を秘めています。目先の利益より、長期的な普及を選んだからこそです。

ビジネスの最終的なゴールが 「事業を成長させること」 であるのは間違いありません。しかし、そのゴールを達成するために、あえてそれを直接の目的としない。まず商品の浸透率を上げることが、結果的に堀商店の利益を底上げします。

広めるというより上位の目的を掲げ、事業成長や商品販売をそのための 「手段」 として位置づける――。この 「目的と手段の逆転」 、あるいは 「目的の手段化」 という主従関係を逆にする発想も、ポイポイバトラーから学べることです。

まとめ

今回は、新しい水遊びスポーツのポイポイバトラーの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

アイデアのつくり方

  • 新しいアイデアは、既存の 「異なるもの同士の組み合わせ」 から生まれる。特に、一見無関係に見える分野のものをかけ合わせるほど独自性は高まる
  • 異質な要素を組み合わせる際は、その根底にある 「本質的な共通点」 を見つけることが重要。共通点がアイデアに説得力と一体感を与える

目的の手段化

  • 最終目的 (売上など) を達成するために、あえてそれを直接の目的とせず、より上位の目的 (体験の提供や文化としての普及) を掲げる。商品はその上位目的を達成するための 「手段」 と位置づける
  • 体験への参加を促すことで、その体験に必要な商品への需要を自然に生み出せる。売り込むことなく、結果的に消費者や企業が自ら求めるという好循環をつくれる