#マーケティング #ビジネスモデル
ユニクロが UNIQLO UNIFORM の本格展開を発表しました。
BtoC で培った強みを BtoB に横展開していく戦略です。
今回は、ビジネスモデルを 4 つの要素に分解し、ユニクロの戦略を紐解きます。
UNIQLO UNIFORM
出典: 日経クロストレンド
ユニクロが 2025 年 9 月、法人・団体向けサービス 「UNIQLO UNIFORM」 の体制刷新と事業拡大を発表しました。
UNIQLO UNIFORM は、企業や学校、スポーツチームなど、ユニフォームが必要な法人や団体に向けたサービスです。ユニクロの商品をベースに、ロゴや刺繍を加えることで、オリジナルのユニフォームを作れます。
もともとサービス自体は 2000 年代初頭から提供されていましたが、今回の発表で注目すべきは、ユニクロが中核事業のひとつとして本格的にユニフォーム市場へ参入する姿勢を打ち出したことです。
UNIQLO UNIFORM の記者発表会で、ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員の柳井康治氏は、こう話しました。
「ユニフォームというと一からデザインしなくてはいけないと考えていたが、むしろお客様のほうが進んだ考えを持っており、無地のシャツにロゴを入れればそれでユニフォームになるということに気付いた」
この言葉が示すように、UNIQLO UNIFORM は、一からユニフォームを開発するのではなく、すでに消費者に支持されているユニクロの既製品を活用する方針です。エアリズムやヒートテック、ブロックテックといった機能性商品に、企業ロゴを入れるだけでユニフォームになる。この発想の転換が、ユニクロを BtoB 市場への本格展開を可能にしたのでしょう。
ユニクロは新たに 「ユニフォーム & カスタマイズ部」 を発足させ、営業やシステム運用を担う法人営業チームと、スウェーデン五輪・パラリンピック代表のウェア開発で培った生産管理や、マーチャンダイジングの知見を持つチームを融合。お客さんからのフィードバックを商品づくりにすみやかに反映する体制を整えました。
利用企業は 2026 年 8 月期中に 2 万件を超える見通しとのことです。柳井氏は 「将来的にはグローバルでも本格展開し、ユニフォーム市場においても圧倒的ナンバーワンを目指したい」 と、強い意欲を語っています。
UNIQLO UNIFORM のビジネスモデル
ではここからは、BtoB (法人向け事業) へのユニクロの新たな挑戦である UNIQLO UNIFORM をビジネスモデルの観点で分解し、期待できる強さの秘密を紐解きます。
注力顧客
UNIQLO UNIFORM の BtoB 事業においてユニクロが注力するお客さんは、従来の画一的なユニフォームに課題を感じているあらゆる法人・団体です。
企業や学校、スポーツチームなど、幅広いセグメントが注力顧客になるでしょう。ユニクロは 2026 年 8 月期中に2万件超の UNIQLO UNIFORM の利用を見込んでおり、市場の大きさを物語っています。
より具体的には、特定の労働環境に適した機能性を求める企業がメイン顧客です。
たとえば、屋外や工場内の現場での熱中症対策や昇降動作に対応する機能性、倉庫での長時間作業に対応できるウェアなどが求められます。
こうした企業は、作業環境に特有の課題を持ちながらも、オフィスやクライアント訪問など複数のシーンでの着用も想定しています。機能性と見た目の両立が必要です。
また、従業員のエンゲージメントや企業イメージ向上を目指す企業も重要な注力顧客です。旧来型の作業着ではない洗練されたデザインで、従業員の満足度やモチベーションを高めたいと考える企業です。
他には、導入の手間やコストを削減したい企業も顧客になることでしょう。
導入し、社内ユニフォームを変更するにあたって、ユニクロというと名前も商品の特徴もみんなが分かるため、社内説明がしやすくなることが期待できます。ゼロからユニフォームを開発する手間を省き、信頼と実績のあるブランドでスムーズに合意形成を図りたい企業にとって、UNIQLO UNIFORM は魅力的な選択肢になります。
中小企業やスタートアップなど、オリジナルデザインまでは不要だが品質と信頼性は欲しいという企業も、ユニクロが開拓しようとしている新しい顧客層です。
競合
直接的な UNIQLO UNIFORM の競合は、専門ユニフォームメーカーです。
特定の業界に特化し、専門的な耐久性やデザインのユニフォームをゼロから企画・製造する企業がいます。完全なオーダーメイドが可能ですが、コストが高く、納期が長く、デザインが画一的になってしまうという側面があります。
UNIQLO UNIFORM の競合は、ユニフォームの専門メーカーだけにとどまりません。
というのは、想定する注力顧客が 「従業員のユニフォームをどうするか」 と考えるときに思い浮かぶすべての選択肢が競合となり、UNIQLO UNIFORM はそれらと比較される立場にあるからです。
このように広く競合を捉えると、UNIQLO UNIFORM の競合になり得るのは、例えばワークマンなどの高機能ウェア専門店です。特に現場作業系のユニフォームにおいては、低価格で高機能な製品を強みとするプレイヤーが強力な競合となります。
また、小規模なオーダーメイド業者や、スポーツブランド、セレクトショップなども、社員ユニフォームをファッションで選ぶ企業にとっては選択肢になります。
より広く競合を設定するなら、「ユニフォームを導入しない」 という選択肢自体も競合です。特にオフィスワーク中心の企業では、ユニフォームを設けず、服装を従業員の裁量に任せるケースが一般的です。
ユニクロは、こうした企業に対して 「手軽に導入できて従業員満足度も上がる」 という新たな選択肢を提示し、ユニフォームのなかった市場の開拓も視野に入れていることでしょう。
提供価値
UNIQLO UNIFORM が注力顧客に対して提供する独自の価値は、「高い安心感」 と 「日常着をユニフォームにする」 という新しい体験です。
まず、ユニクロの服全般に通じる機能性の価値があります。
エアリズム、ヒートテック、ブロックテックといった、BtoC 向けの服ですでに何百万人もの人々が体感し、信頼している高機能な製品をそのままユニフォームにできるという安心感があります。
作業環境に合わせた機能性商品を選べるため、夏場の熱中症対策にはエアリズム、寒冷環境にはヒートテック、風を通さない環境にはブロックテック、スーパーノンアイロンジャージーのような作業中の動作に対応する服など、環境と用途に応じた選択ができます。
次に、導入の容易性という大きな価値があります。ユニクロはほぼすべての国民が知っているブランドであるため、社内での説明や合意形成がスムーズに進むでしょう。
また、UNIQLO UNIFORM はユニクロの既製品がベースなので、一般的なオーダーメイドのユニフォームより納期とコストの両方で有利です。オンラインストアで手軽に注文できるのも、多忙な担当者にとって魅力です。
価格の透明性も見逃せません。加工代が枚数によって明確で、10 枚から 99 枚では 1 商品 1 カ所あたり 300 円、100 枚から 999 枚では 240 円といった具合です。最低注文金額は 10 万円からと、従業員の少ない企業にも手が届く価格設定になっています。
さらに、ユニクロの洗練されたデザインと従業員満足度の向上という価値も提供することでしょう。
旧来の 「制服」 「作業着」 といったイメージではなく、普段から着られる洗練されたデザインの服をユニフォームとして提供することで、従業員は仕事中も快適かつスタイリッシュでいられます。社員のパフォーマンス、モチベーション、エンゲージメント向上や、業界イメージ向上への貢献が期待できます。
このように、UNIQLO UNIFORM は 「オリジナルを一から作るよりも安く・早く・品質保証が付いた新しいユニフォーム」 という存在になれます。
事業能力 (価値実現の源泉)
UNIQLO UNIFORM の顧客価値を安定的に提供するために、ユニクロは BtoC 事業で培った事業能力を活かします。
まず、既存資産の活用があります。
ユニクロの事業能力の中心にあるのは、長年の BtoC 事業で獲得した高機能素材の開発力、高品質な製品を低コストで大量生産するグローバルなサプライチェーンです。世界規模のサプライチェーンと SPA (製造小売) モデルによる在庫最適化、グローバルで統一された品質基準と生産管理能力は、新規参入企業が容易に模倣できるものではありません。
また、「ユニクロ」 というブランド名自体が、品質と信頼性を保証する事業資産です。圧倒的な認知度があるからこそ、企業は安心して導入を検討できます。
UNIQLO UNIFORM のために新設された専門組織も重要な能力です。
新しく発足した 「ユニフォーム & カスタマイズ部」 では、従来の法人営業チームに加えて、スウェーデン代表のウェア開発で培った 「顧客のフィードバックを迅速に商品へ反映するノウハウ」 を持つチームを融合させました。BtoB 特有の細かな要望にも応えられる組織になることでしょう。
将来的な拡張能力も期待できます。
専用生産ラインの構想があり、小ロット製造やセミカスタム対応が可能になります。たとえば、長袖のエアリズムが欲しいという要望があった場合、身頃の生地はそのままで袖だけ長袖に付け替えるというような柔軟な対応です。これにより 「BtoB 向けカスタムを大量生産品質で提供できる」 というユニークな事業構造的強みを持ちます。
UNIQLO UNIFORM では既存のデジタルインフラも活用されます。2016 年から運営しているオンラインストアなど、BtoC の販売チャネルを活用することで、BtoB 事業をスムーズに展開できます。
そして、ユニクロにはグローバル展開の基盤もあります。グローバルな製造・物流ネットワークを活かし、将来的にはグローバルでも本格展開し、ユニフォーム市場で世界的にもナンバーワンを目指せます。
ユニクロが切り拓く新しいユニフォーム市場
UNIQLO UNIFORM の戦略の要諦は、BtoC 事業で構築した資産を、最小限の追加投資で BtoB 市場に転用している点にあります。
新たに一からユニフォームを開発するのではなく、既存商品に 「ロゴ入れ」 という付加価値を加えると法人向けのユニフォーム市場に参入できるという発想の転換が、この事業モデルの肝です。
ユニクロは、すでに消費者から支持を得ている商品群、圧倒的なブランド認知、グローバルな生産体制という BtoC で培った強みを、BtoB 市場でそのまま活用しています。顧客企業にとっては、品質が保証されたユニクロの商品を選ぶだけで、従業員にも社内にも説明しやすく、かつ機能性の高いユニフォームが手に入ります。
従来のユニフォーム市場では、一からデザインし、サンプルを作り、品質を検証するという長いプロセスが必要でした。しかしユニクロは、「無地のシャツにロゴを入れればそれでユニフォームになる」 という新しい選択肢を提示することにより、このプロセスを大幅に短縮し、コストも削減します。
ユニクロは 「BtoC ブランドとしての圧倒的認知・信頼」 を武器に、ユニフォーム市場におけるマスブランド的存在という新しいポジションを UNIQLO UNIFORM で築こうとしているのです。
まとめ
今回は、UNIQLO UNIFORM の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 注力顧客: 顧客は誰か?注力顧客の設定がすべての戦略的思考の出発点となる
- 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況で解決策となりえる候補が競合
- 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
- 事業能力 (事業を遂行する能力やリソース) : 顧客価値をどのようにして提供するか?必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を包含する
