#マーケティング #消費者理解 #差異化からの価値化
市場の常識や競合の強さをただ覆そうとするのではなく、生活者の視点から小さな不便を見抜き、それを解消することで新しい価値を提供する――。
ここにビジネスチャンスがあります。
今回は、家庭用冷凍餃子の市場での逆転劇から、消費者視点を貫くマーケティングの本質に迫ります。
王者を倒した冷凍餃子市場の異変
家庭用冷凍食品市場の餃子カテゴリーにおいて、長らく味の素が築き上げてきた絶対王者の地位に変化が起こりました。
後発の大阪王将が、2023 年以降、市販冷凍餃子の市場シェアでトップの座を奪取したのです。
出典: イートアンドフーズ
2015 年から 2024 年の 10 年間で、大阪王将の冷凍餃子の主力商品 「羽根つき餃子」 シリーズの売上は 27 億円から 183 億円へと 6.7 倍に拡大。シェアは一桁台から 20% 台半ばへと伸び、味の素を抜き市場トップへ躍り出ました。
味の素と大阪王将の冷凍餃子の特徴
味の素と大阪王将の冷凍餃子がどのような特徴を持ち、どこに違いがあったのかを整理しておきます。
味の素のギョーザは 1972 年に発売されました。
油も水もいらず、家庭で誰でも失敗なく焼けるという簡単さを武器に、半世紀以上にわたり冷凍餃子のトップを維持。2020 年時点では冷凍餃子市場のシェアは 40% 超を誇り、不動の地位にありました。濃いめでジューシーな味付けは、家族向けの定番商品として存在感を放ってきました。
一方、大阪王将は外食ブランドを背景に、2005 年にタレ付き冷凍餃子を投入しました。
当時はシェア数 % 台とランキング圏外でしたが、2015 年の売上 27 億円から 10 年間で 183 億円へと急成長。インテージ SCI の調査によると 2023 年に初めて味の素を抜きシェア 1 位となり、2024 年もその座を守りました。
濃厚さで勝負する味の素に対し、大阪王将はあっさりめの味、羽根つきの見栄え、タレ付きという特徴がありました。
大阪王将の冷凍餃子がシェアトップに躍り出た最大のブレイクスルーは、誰もが常識として見過ごしていた消費者の現実に光を当てたことにあります。
誰も気づかなかった 「フタがない」 という真実
大阪王将の冷凍餃子の商品開発のきっかけとなったのは、当時の仲田浩康社長へ寄せられた一人の若い男性社員の何気ない一言でした。「独身者は家にフライパンのフタがない」 という言葉です。
冷凍餃子メーカーが 「油いらず・水いらず」 まで簡略化すれば十分だと考えていた中で、この一言は、消費者のリアルな生活状況を浮き彫りにしました。
この発言がきっかけとなり、アンケート調査を実施すると、一人暮らしの層がフライパンのフタを持っていないことが判明しました。
餃子を調理する上で面倒なのは 「フタを洗うこと」 という声も寄せられました。冷凍食品を買って調理をする人の究極の要求は 「手間ゼロ」 ですが、フタを使わなければならず、調理後に洗う必要があることはその手間に含まれるのです。
大阪王将は、消費者理解をもとに冷凍餃子の商品開発に反映し、2018 年に油も水もいらず、さらにフライパンのフタさえ不要の羽根つき餃子を発売しました。
特許取得の独自製法により、フライパンひとつで失敗せずにきれいな羽根が広がる。消費者の小さな不便を見逃さず、新しい価値に転換した瞬間でした。
後発ながらシェアトップへ躍り出た要因
一人暮らしの消費者の家には、実はフライパンのフタがないという実態。
これをもとに、大阪王将は冷凍餃子の開発に参入した視点と、もともとの外食企業ならではの柔軟性をもって取り組みました。これが、後発ながら味の素という王者の牙城を崩した要因となります。
「フタいらず」 が生んだ簡便性
消費者の 「フタがない」 という声に対し、大阪王将はすぐに動きました。
若手社員の発想を短期間で実現に移し、油も水も使わないだけでなく、フタさえも不要な独自製法を開発し、特許を取得しました。
大阪王将が成し遂げた 「油いらず・水いらず・フタいらず」 という冷凍餃子は、調理にかかる物理的・心理的なハードルを下げ、冷凍餃子を 「料理」 というより 「レンジでチンするだけに近い感覚」 のレベルに引き上げました。忙しい人や、調理を面倒に感じる消費者層にとって、手間ゼロの価値は絶大だったことでしょう。
タレ付きで専門店の体験を家庭へ
調理の簡便性を追求する一方で、大阪王将は外食企業としての強みである 「味の専門性」 を冷凍餃子に持ち込みました。それが 「特製タレ付」 です。
他の冷凍食品メーカーは、生産工程の効率化やコスト増を嫌い、タレを付けないことが一般的でした。しかし、大阪王将は 「店舗で餃子にタレをつけないお客様はまずいない」 という現場での消費者の餃子の食べ方を知っていました。
そこで、原価は数円上がりますが、専門店のタレを付けることにより、専門店さながらの本格的な餃子を自宅で手軽に食べられるという商品に仕上げたわけです。大阪王将のタレ付餃子が、冷凍餃子事業の出発点にしてヒット商品となり、市場での存在感を確立するきっかけとなりました。
値ごろ感を外さない逆算思考
大阪王将は技術や味付けの追求だけでなく、消費者から長く愛される商品となるために、価格設定においても徹底した消費者目線が貫かれました。
大阪王将の仲田社長は大手スーパーの流通部門出身という経験から、「良い商品だから高く売れるわけではない」 という考え方を持っていました。
消費者のスーパーでの買い物カゴの合計金額 (バスケット単価といいます) は、今も昔も 2000 ~ 2400 円前後。10 品購入すると 1 品あたり 200 ~ 240 円が適正価格となります。そこから、多くの消費者が求める冷凍餃子の 「値ごろ感」 は 200 円前後であると見極めました。
このように、大阪王将は商品開発の当初から 「売価ありきの逆算」 を徹底しました。まずはじめに 「この商品をいくらなら消費者が買うか」 を起点に考え、設定した売価から逆算して原価を決めていきました。
大阪王将は、餃子 12 個入りを 200 円程度の低価格で実現。2020 年以降、冷凍食品全体が値上がり傾向にある中でも、価格感覚を生活者と同じ目線でとらえ続けたことが支持を集めました。
競合へのリスペクト
大阪王将の戦略を語る上で、仲田社長の 「競合へのリスペクト」 は欠かせません。
「競合の良いところは素直に認めて取り入れたい。その上で負けている点をどう克服するか考える」
こうした現状に慢心せず前を向く姿勢が、大阪王将のさらなる成長への原動力となっています。
仲田社長は他社の商品も実際に食べて研究を続け、「技術的な課題もまだある。負けてる、負けてる言うてね、もう毎週言うてますわ」 と笑います (参考情報) 。
競合の技術力や味の完成度を客観的に評価しつつ、「うちはまだ負けている」 と毎週のように社内で発言することで、常に製品改善への熱意を社内に植え付けています。
仲田社長には、他社の良いところを自然体で認める姿勢が見て取れます。大阪王将がシェアトップを獲得した後も、「お世辞抜きで味の素さんの餃子が一番」 だと公言しています。
この姿勢は単なる謙遜ではありません。競合の良いところは素直に認めて取り入れ、劣っている箇所をどう克服するか考えるという、現状に決して満足しない、進化し続けるための向上心があります。
「王者を認めつつ、王者の見ていないところを徹底的に突く」 という姿勢こそが、大阪王将の強さの源泉です。
消費者の視点を貫く
大阪王将が、家庭用冷凍餃子市場の長年の王者であった味の素を打ち破り、トップに立てた理由を整理すると、次の 3 つに集約されます。
1 つ目は、競合を尊重しつつ、自社ならではの違いを消費者価値に転換したことです。
冷凍餃子そのものの味でも負けず、そこに 「タレ付」 という餃子専門店ならではの付加価値で、独自の商品をつくりあげました。競合の技術優位性を認めつつ、自社の強みの源泉である外食ノウハウを活かした差異化による価値化です。
2 つ目は消費者の生活状況を起点に、不便を解消する商品を実現したことにあります。
一人暮らしの人の家の台所には 「調理用のフライパンのフタがない」 、あってもフタを使って餃子などの揚げ物の料理をすると 「フタを洗うのが面倒」 という、これまでメーカーが見過ごしてきた消費者のリアルな実態と不便を大阪王将は発見しました。
消費者を理解したのちに 「フタいらず」 という他にはない簡単にできる冷凍餃子によって、その不便を一掃しました。
3 つ目は、値ごろ感を守り、消費者感覚を貫いたことです。
メーカーによくありがちな 「良い商品だから高く売れる」 という売り手側の論理ではなく、「スーパーに来る普通の消費者はいくらなら買うか」 という買い手の立場や目線を徹底しました。はじめから売価ありきの逆算によって値ごろ感の価格設定を守り抜きました。一人の消費者としての感覚を貫いたわけです。
* * *
大阪王将の快進撃は、消費者の小さな声に耳を傾け、それを価値に変える姿勢が生んだ必然の結果だったのかもしれません。
後発メーカーが業界の巨人を超えた事例からは、どんな企業にも可能性があることを教えてくれます。大切なのは、消費者や顧客の生活に寄り添い、自社ならではの価値提供の道筋を見つけ、それを適正な価格で届けること。この基本を貫いた先に、市場を変える力が生まれます。
まとめ
今回は、大阪王将の家庭用冷凍餃子の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 消費者の 「当たり前」 に潜む不便の発見と解消。消費者の実際の生活状況において見過ごされがちな日常の小さな不満や手間に着目し、その解決を商品・サービスに落とし込む
- 既存プレイヤーの優位性を認めながらも、自社独自のリソースや視点を活かして顧客価値を創出する
- 生活者や顧客の感覚にもとづいた適正な価格設定の追求。作り手の論理ではなく、実際の購買シーンや利用シチュエーションでの消費者の判断基準を起点に価値と価格を設計する
