#マーケティング #顧客理解 #価値提案

今回は、Z 世代の若者の 「飲みニケーション」 に対する意識調査の結果と、その結果をマーケティングの視点から分析します。

Z 世代社員が望む上司との 「飲みニケーション」 

 「飲みニケーション」 をテーマに Z 世代の社会人 4 人にデプスインタビューを実施した調査結果が興味深かったです (参考情報) 。

出典: 日経クロストレンド

インタビューという定性調査なので、4 人の考え方や価値観が世の中の若者たちのことを代表しているとは必ずしも言えませんが、アンケートや数字の定量データだけでは分からない若年層の本音から、キャリア意識や職場でのコミュニケーションに求めることが見えてきます。

職場での飲み会の必要性

Z 世代にとって、飲み会は 「本音を語る場」 の選択肢のひとつであり、必須ではないと考えているようです。

積極派の意見

  • 高坂さん (26歳・女性) : 業務中に相談するほどではないことを話すのにちょうどいい。お酒が入ることで 「腹を割りやすくなる」 (アルコールのせいにできる緩さがあるため) 。飲み会でなくてもスイーツやカフェでも十分
  • 山本さん (24歳・男性) : 飲み会を 「情報収集の場」 として活用。上司の評価ポイントを武勇伝のような形で聞き出し、キャリア形成に役立てるなど、戦略的な視点を持つ

慎重派の意見

  • 内藤さん (26歳・男性) : 「飲み会じゃないと話せないのは格好悪い」 と感じる。1on1 など業務時間内の対話があれば十分であり、賃金が発生しない仕事の延長線のような飲みの場には疑問を持つ
  • 秋山さん (27歳・女性) : 戦略的に相手を選ぶ慎重派。必要な接点を持つ相手とは飲みの場も活用するが、やみくもには参加しない

共通のキャリア観

  • 積極派と慎重派でスタンスは異なるものの、根底には 「自分の成長」 や 「自分の市場価値をいかに上げるか」 を重視するキャリア観がある
  • 職場での飲み会は、社内での人間関係や出世のためではなく、自身のキャリアにとってプラスの価値があるかどうかで判断されている

行きたい飲み会、そうじゃない飲み会の境界線 (場作りに必要なこと) 

Z 世代が交流したいと感じる場は、「誰に誘われたか」 「なぜ誘われたか」 「何をしに行くのか」 の 3 点が明確であり、安心感と意味が共有されていることが重要ということがわかりました。

誘い方の工夫

  •  「今日空いてる?」 のような急な誘いやノリの誘いは避け、「この日とかどう?」 と前もって選択肢を与えてくれる誘い方や、「このメンバーで飲もうと思ってるんだけど」 と具体的な飲み会のイメージを伝える誘い方が好まれる
  •  「イベント起点」 で、自分が興味のあるテーマ (例: ワインセミナー) であれば、職場の人が関わっていても積極的に参加する

時間の区切り

  • ランチのように時間的な制約がある場や、終わりの時間が明確な飲み会 (例: 19 時スタートで切りが良い時間の設定) の方が気軽に参加しやすい

段階的な関係構築 (ステップバイステップで)  

  • 仕事とプライベートの区別を明確にする Z 世代には、いきなり夜の居酒屋に連れ出すような深い踏み込みは警戒される
  • まずは 「ランチ」 や 「1on1」 から始め、相手の状況 (お酒が飲めるかなど) を把握するなど、段階的に距離を詰める設計が求められる
  •  「完全アウェー」 で共通の話題がない、居心地の悪い飲み会は苦手

上司としゃべりたい話題、そうじゃない話題

Z 世代が上世代とコミュニケーションを取りやすい話題は、自己開示を含む本音であり、共感しやすい文脈がポイントです。

好まれる話題

  • 最初は仕事の話から入り、「部長としてはこう言わなきゃいけないけど、正直こう思ってる」 のような砕けた本音や裏話、失敗談など、人間味を感じさせる自己開示 (A 面だけでなく B 面的な要素)  
  • Z 世代は SNS を通じて 「自己開示 → 共感 → 対話」 のステップに慣れており、上司からの自己開示が場の和らぎと自己開示のしやすさにつながる
  • 上司からいきなり 「休日何してるの?」 と聞くのではなく、まず自分から軽く話すことで、相手が興味を持てば深掘りするという自然なやり取りが望ましい

嫌われる話題

  • 愚痴の多い場。共感すると自分も悪者になる、かといって否定もしづらいなど、どう反応すればいいか分からず気を使うのがストレスになる
  • 武勇伝ばかりの話。

Z 世代の 「飲みニケーション アリ or ナシ」 論争への当人たちの認識

Z 世代が飲みニケーションに消極的といわれる背景には、時間の使い方の多様化と SNS の影響、そして 「自己主張ができる時代」 への変化がありました。

時間の多様化

  • ひとりでも楽しめる娯楽が増え、仕事以外の時間を大切にする風潮から、飲みへの相対的な価値が低下
  • プライベートの過ごし方が多様化し、定時後の時間は 「コントロールできる自分の所有物」 として強く意識される

SNS による可視化

  •  「飲み会めんどくさい」 といったネガティブな書き込みが SNS で増幅され、「Z 世代 = 冷めている」 というイメージが一人歩きしている可能性がある

自己主張の増加

  • SNS などで自分の考えを発信する場が増え、「自分の考えを言っていいんだ」 という自己肯定感が醸成された結果、嫌なことは嫌と自己主張する人が増えた
  • 上の世代が経験した 「誘われたら絶対に行く」 という文化が薄れ、上司世代には戸惑いが生じている

* * *

今回の事例について、上司・企業側が提供する 「職場コミュニケーションの場」 という商品・サービスとして捉え、Z 世代社員を 「お客さん」 として見ると、マーケティングに示唆があります。

マーケティングの本質

まずは、そもそものマーケティングとは何かに立ち返って考察を始めていきましょう。

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。

このマーケティング視点で飲みニケーションを見直すと、 Z 世代にとって飲み会はもはや自動的に参加するものではなく、自ら選ぶ場へと変わりつつあることがわかります。

従来のように 「上司に誘われたら必ず参加する」 という強制力に頼る時代は終わりました。 Z 世代社員が自ら選んで参加したくなる場づくりが求められています。

マーケティングの出発点は常にお客さんです。誰に価値を届けたいのか、そしてなぜ他の選択肢ではなく飲み会を選んでくれるのか。プライベートの時間、 SNS 、趣味など多様な選択肢がある中で、 Z 世代社員の立場に立って深く具体的に理解することが重要となります。

顧客設定と顧客理解

では具体的に、顧客である Z 世代をどのように理解すれば、彼らに選ばれる理由をつくることができるのでしょうか?

注力顧客を定める

まずは 「顧客が誰か」 を定め、その解像度を高めていくことから始めます。

自分たちのお客さんは誰かをはっきりさせることが、マーケティングの一丁目一番地です。

今回の事例におけるお客さんは、漠然とした若手ではありません。 Z 世代という特有の価値観やキャリア観を持った明確な顧客層です。

顧客解像度を高める

顧客は誰かという問いかけは、あらゆるビジネスに当てはまります。自分たちのビジネスがどういうものかを知るためにも、顧客解像度を高めることが不可欠です。

先ほどご紹介した 4 人へのインタビューは、顧客解像度を高めるための活動です。

重要なのは、 Z 世代をひとくくりにせず、飲みニケーション積極派と慎重派が存在することを理解することです。

世の中で言われているステレオタイプな Z 世代像に頼るのではなく、彼ら・彼女らの実際の声に耳を傾けることにより、積極派や慎重派といった多様な側面や、その根底にある共通の価値観が見えてきます。

積極派は飲み会を情報収集やキャリア形成の場として戦略的に活用しています。上司の評価ポイントを聞き出したり、異動希望先との接点づくりに使ったりというようにです。一方、慎重派はプライベートの時間を重視し、業務時間内の 1on1 で十分と考えています。

調査から見えてきた Z 世代の文脈として、 2 ~ 3 年以内の転職を前提としたキャリア観があります。また、SNS で複数の人格を使い分ける分人化も特徴的です。仕事、プライベート、趣味など、それぞれの場面で異なる自分を演じ分けることが当たり前の世代です。

困りごとやニーズはどうでしょうか。

自己成長や市場価値向上への強い関心を持ち、時間をコントロールできるものとして主体的に使いたいと考えています。なぜ仕事の飲み会に誘われたか、何をしに行くのかが不明確な誘いには不安を覚えることでしょう。

自分をちゃんと見てくれているかに敏感で、本音や失敗談などの自己開示を通じた信頼関係構築を重視します。

同じ年代の Z 世代でも、このようにどんな状況にあり、その状況下で生じているニーズ、何に価値を見出すかの価値観を理解することが、効果的なアプローチの第一歩となります。

顧客文脈をターゲティングする

Z 世代の若者 4 人へのインタビューで得られた、武勇伝より失敗談が聞きたい、ランチから誘ってほしいといったリアルな声です。

Z 世代は定時後のアフター 5 への付き合いが悪いのではなく、人間関係に丁寧でありたいがゆえに、場の選択に慎重であることが判明したわけです。

理解した Z 世代の文脈に沿って、飲み会というコミュニケーションの場を再設計することが大事です。

従来の 「職場の人間関係構築」 という画一的な場ではなく、彼らの文脈をターゲットにしたアプローチが有効になります。

例えば、「成長につながる」 という Z 世代の文脈を狙うなら、上司の評価ポイントを知ることができるなど、キャリアのヒントが得られる場として訴求します。

また、「時間を有効に使いたい」 という文脈へは、終了時間が明確なランチミーティングや、目的がはっきりしたイベント形式を企画するといいでしょう。

他の文脈としては、「安心して話したい」 という心理を汲み取るなら、いきなり大人数での開催はなく、1on1 や少人数でカフェを利用するなど、段階を踏んで関係を構築します。

飲み会に参加しない 「未顧客」 である Z 世代がなぜ参加しないのか。その合理的な理由は彼らの 「未顧客文脈」 から見えてきます。

プライベートの方が自己成長につながる、ひとりでも楽しめる選択肢が豊富にある、目的不明な集まりに時間を投資したくない。

これらの文脈をもとに、会社の飲み会に参加してほしい 「顧客」 の本音を深く理解することで、飲み会の価値が根本から再定義できます。飲み会の存在意義を 「単なる飲み会」 から 「自己成長の場」 「情報収集の機会」 「適切な自己開示による信頼構築の場」 へと変わるのです。

本当の競争相手は 「変わり続ける顧客心理や顧客ニーズ」 である

今回の事例をマーケティングに当てはめたときに、本当の競争相手は 「変わり続ける Z 世代の心理やニーズそのもの」 です。

Z 世代が SNS で培った自己開示から始まるコミュニケーションを理解し、上司から先に失敗談や本音を開示することによって、 Z 世代の参加意欲を高められます。

行動の背景にある心理や価値観を読み解くことで、顧客が次に何を求め、どんな体験を期待するかを予測し、先回りして価値を提供できるのです。

満足は "飽き" の始まり

お客さんの満足は、お客さんから飽きられる始まりでもあります。

かつては有効だった終業後に居酒屋で語り合うというコミュニケーション手法も、それに安住していては顧客 (若手社員) から変わり映えのしない 「当たり前」 だと思われ、やがてマンネリ感から 「飽き」 へと変わります。

従来型の飲み会に満足していた世代の価値観にあぐらをかかず、 Z 世代が求めるイベント化、終わりの時間を明確にするなど新しい場づくりを提案し続ける必要があります。

売り手である上司側が過去の成功体験に固執しマンネリに陥ることが、顧客を失う最大の原因なのです。

上司の武勇伝を聞く会というマンネリ化した飲み会ではなく、ワインセミナーのような学びの要素を加えるなど、常に新鮮な体験を提供することが、会社の飲み会においても重要なことでしょう。

常に変わる顧客ニーズを理解する

本当の競争相手は変わり続けるお客さんのニーズです。会社以外の飲み会でもなく、 TikTok 、副業、自己投資の時間など、 Z 世代の多様化した時間の使い方が競合になります。

得られる示唆を汎用化すると、業界の常識や他社の動向に固執するのではなく、顧客が今何を求めているのかを理解する。常に潜在ニーズを探求し、自ら変化し続ける。彼らの変化し続けるライフスタイルとニーズを理解し、商品やマーケティングのあり方を常に進化させ続けることが大切です。

まとめ

今回は、会社での 「飲みニケーション」 の話を取り上げ、マーケティングの視点で考察をしました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 注力顧客を定めることはマーケティングの出発点。価値を届けたい 「顧客は誰か」 という対象を明確にすることで、施策の方向性が定まる
  • 顧客解像度を高めるには、お客さんが置かれている状況や価値観といった 「文脈」 まで深く理解する
  • 顧客理解によって得られた 「文脈」 に沿って、商品やサービスの価値を再設計する。顧客文脈をターゲティングすることにより、お客さんが自分ごと化できる価値提案につながる
  • 本当の競争相手は他社ではなく、常に変化し続ける顧客心理やニーズ。顧客ニーズは常に変化するため、過去の成功に安住せず、自らも変化し新しい価値を模索し続ける