#マーケティング #ビジネスモデル #注力顧客の明確化

今回は 「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」 を取り上げます。

なぜ若者を熱狂させ、急成長できたのか――。その裏には、激安のドリンクだけではない、お客さんを起点としたビジネスモデルの設計図がありました。

その秘密をぜひ一緒に紐解いていきましょう。

 「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」 

出典: 楽天ぐるなび

 「若者の酒離れ」 という言葉が当たり前になったこの時代に、連日若者たちで満席となり、熱気に満ちあふれる居酒屋があります。その名は 「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」 (以下 「鶏ヤロー」 ) です。

鶏ヤローは 2020 年前後から急拡大を始めた居酒屋チェーンです。

特徴は、レモンサワー 55 円、ハイボール 109 円という物価高の今では考えられない価格設定にあります。飲み放題も 120 分 1099 円、180 分 1429 円、時間無制限のエンドレスでも 2200 円という安さです。

鶏ヤローの店内に足を踏み入れると、お客さんも従業員もほとんどが 20 代前半です。渋谷道玄坂店のオープン時には 「U40 専門店」 という、40 歳以上入店禁止を掲げたほど、若者だけの空間を意図的につくり出しました。

テーブルには 「押すな」 と書かれたテキーラベルが置かれ、押すとテキーラが提供される仕掛けがあります。他には、水鉄砲にテキーラを入れて口に向けて発射する演出も人気です。

こうしたエンタメ性が、同世代で盛り上がる体験を後押ししています。

鶏ヤローは 2024 年度には 15 店舗を出店し、全国の店舗数は 82 店に到達しました。売上高は 28.4 億円、経常利益は 3.6 億円を実現しています (参考情報) 。

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では、鶏ヤローの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は、ビジネスモデルの観点で示唆に富みます。

ビジネスモデルの要素分解

ビジネスを分析する上で、ビジネスモデルを解像度高く捉えることは有効です。

次の 5 つの要素で見ていきます。

  • 注力顧客
  • 競合
  • 顧客価値
  • 事業能力 (事業を遂行する能力やリソース) 
  • 収益モデル

順番に補足をすると、まずはターゲットとなる注力顧客です。

顧客は誰かという事業の根幹となる問いです。自分たちは一体、誰のために価値を提供するのか。注力する顧客を明確に定義することが、あらゆる戦略の出発点となります。

次に競合です。注力顧客が持つ選択肢は何かですが、それは必ずしも同じカテゴリーの製品やサービスとは限りません。お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢が競合となり得ます。

注力顧客と競合のあとに顧客価値が来ます。注力顧客に対して、他にはないどのような独自の価値を提供できるのか。お客さんがあなたの会社や商品を選ぶ理由そのものです。

事業能力は、その独自の価値をどうやって安定的に提供し続けるのかというケイパビリティです。実現のために必要な、自社が持つべき資源 (リソース) と、それを実行する仕組み (オペレーション) の両方が含まれます。

そして収益モデルです。提供した価値を、どのようにして事業の利益に変えるのか。事業を継続させ、成長させていくための財務的な設計図になります。

鶏ヤローのビジネスモデル

それでは、鶏ヤローのビジネスモデルを 5 つの要素で見ていきましょう。

注力顧客

ビジネスの出発点は 「顧客は誰か」 という問いから始まります。

鶏ヤローの注力顧客は、お金はないが、仲間と集まって気兼ねなく騒ぎたい 20 代前半の若者、特に学生層です。

こうした若年層が求めているものは、ただ安くお酒を飲むことではありません。金銭的な負担なく、仲間と集まりたい。周りの目を気にせず盛り上がりたい。世代が違う人がいなく同世代だけの空気感の中で楽しみたい。

鶏ヤローは、注力顧客がのぞむことに真正面から向き合います。

競合

鶏ヤローの競合は、他の居酒屋チェーンだけとは限りません。

注力顧客である若者が 「仲間と集まって楽しい時間を過ごしたい」 と考えたときに思い浮かぶ、あらゆる選択肢が競合となります。

直接的な競合は、他の低価格居酒屋チェーンです。新時代、とりいちず、あるいは鳥貴族のような均一価格帯の居酒屋などです。

さらに間接的な競合もいます。

最も安価に集まれる宅飲み、個室で騒げるカラオケボックス、長時間滞在しやすいファストフード店、遊びながら飲食ができるダーツバーやアミューズメント施設。これらも鶏ヤローの競合になり得ます。

顧客価値

では、こうした競合 (注力顧客の頭の中の選択肢) に対して、鶏ヤローの魅力 (顧客価値) はどこにあるのでしょうか?

レモンサワー 55 円、ハイボール 109 円という圧倒的な低価格は、金銭的な余裕が少ない若者にとって最大の魅力です。

この価格は 「お金があまりかからずに飲み食いできるから鶏ヤローに行こう」 と、誰もが気軽に友人を誘える集まるきっかけを生み出します。

鶏ヤローの店内を見渡せば、他のお客さんも従業員も自分たちと同じ世代の若者ばかり。その空間がもたらすのは、周りの目を気にせず、思い切り騒げるという解放感です。鶏ヤローは、気兼ねなく騒げる 「自分たちの居場所」 をつくっているのです。

また、鶏ヤローの魅力は日常を忘れさせてくれるエンタメ性にもあります。

ユニークな 「テキーラベル」 や 「テキーラ水鉄砲」 といった仕掛けやメニューは、飲食の時間に仲間と盛り上がるイベントのようになることでしょう。

鶏ヤローは SNS で共有したくなるような非日常的な体験をいくつも用意することで、あそこに行けば絶対に楽しいという期待感を醸成します。

事業能力 (事業を遂行する能力やリソース) 

独自の価値を安定的に提供し続けるため、鶏ヤローはユニークで強力な事業能力を持っています。

リソース

第一に、居抜き物件の活用です。コロナ禍で撤退した店舗の跡地に低コストで出店するノウハウにより、鶏ヤローは固定費を抑えながらスピーディーな店舗拡大を実現しています。

次に 2 つ目に、若く熱量のある人材です。従業員の多くが注力顧客と世代が近いため、顧客ニーズを肌感覚で理解し、お店も一体感のある雰囲気を作り出す源泉となっています。

3 つ目は SNS 映えする商品です。

出典: 日経クロストレンド

盃サイズのドリンクなど、来店したお客さんが自発的に SNS に投稿したくなるような商品を開発する企画力を持っています。

オペレーション (仕組み) 

次に仕組みとなる鶏ヤローのオペレーションについて見ていきましょう。

1 つ目は原価管理です。鶏ヤローはドリンクの原価率を 32% と高くして集客につなげる一方で、フードの原価率を 20% とし、これで全体の原価率を 27% 程度に収めています。加えて、家賃などの固定費を抑制することで利益を確保します。

2 つ目は現場への権限移譲です。

鶏ヤローの名物となったテキーラベルは、高田馬場の店舗で働いていたアルバイト従業員のアイデアから生まれました。「ゴールは示すがやり方は任せる」 という本部方針によって現場に権限を委譲した結果、各店舗でアイデアが次々と生まれているとのことです。

3 つ目のオペレーションの特徴はユニークな人事制度にあります。

店長を投票で決める店長選挙は、従業員の当事者意識と責任感を育み、お店全体の活力を高める仕組みです。立候補者は就任したらどのような店舗運営を行うかをメンバーにプレゼンし、日頃から一緒に働いている仲間から支持を集めなければなりません。

4 つ目には、SNS マーケティングを実行する組織体制です。各店舗の自主的な SNS 投稿を本部が表彰制度で後押しすることにより、広告費をかけずに認知度を上げ、鶏ヤローは楽しそうな店というイメージを打ち出しています。

収益モデル

ビジネスモデルの 5 つ目の要素は収益モデルです。

鶏ヤローの収益モデルは、「フロントエンド」 と 「バックエンド」 という考え方で解き明かすことができます。

フロントエンドとは集客の役割を担う商品です。鶏ヤローではレモンサワー 55 円などの激安ドリンクがこれにあたります。

フロントエンドとは利益を度外視した 「客寄せパンダ」 のような存在です。まずはお客さんに店内に足を運んでもらう、そのための戦略的な投資です。

次にバックエンドですが、バックエンドとは収益を稼ぐ商品です。

鶏ヤローの 「和田ちゃん唐揚げ」 や 「メガ盛りポテト」 といったフードメニューが、利益を確保する役割を担います。

和田ちゃん唐揚げ (左) , メガ盛りポテト (奥) (出典: 日経クロストレンド

調理の手間が少なく、原価を低く抑えられるメニューで構成されており (フード原価率は 20% ) 、ここで収益を上げます。

鶏ヤローの激安ドリンクに惹かれて来店し、楽しい雰囲気の中で利益率の高いフードメニューを次々と注文する。その結果、客単価は 2200 円程度で着地します。

さらに、居抜き出店や家賃の安い本社などで固定費を徹底的に圧縮。これらすべてが組み合わさることによって、鶏ヤローは全体の原価率を 27% 程度に抑え、営業利益率は 25% 前後という高い水準を維持しているのです (参考情報) 。

来店してくれたお客さんは最高の価値を感じてもらい、企業としてはしっかりと利益を出す。この両立こそが、鶏ヤローの持続的な成長を支えています。

まとめ

今回は 「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 注力顧客 : 顧客は誰か。注力顧客の設定がすべての戦略的思考の出発点となる
  • 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況での心理的モードやモーメントにおいて解決策となりえる候補が競合
  • 顧客価値 : ターゲット顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
  • 事業能力 (事業を遂行する能力やリソース) : 顧客価値をどのようにして提供するか。必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を包含する
  • 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか。収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理