#マーケティング #独自化戦略 #POPとPOD
今回は、淡路島にあるユニークなホテル 「あわかん」 を取り上げます。
この事例から差異化によって、いかにお客さんへの価値を生み出し、お客さんから 「ここがいい」 と選ばれる存在になれるかを紐解きます。
あわかん
出典: あわかん
あわかん (旧 「淡路島観光ホテル」 ) は、淡路島の海沿いにある 「釣りと家族の体験型旅館」 です。
宿の魅力の中心となっているのが 「フィッシング」 と 「お子さまは王様」 というふたつの柱です。
フィッシングホテル - 誰もが楽しめる釣り体験
出典: あわかん
あわかんでは、釣りの初心者から上級者の人まで、誰もが気軽に釣りを楽しめる環境とサービスが徹底されています。
ホテル専用のプライベート釣り場があり、宿泊者は目の前で 24 時間いつでも釣りを楽しめます。
手ぶらで OK というのも魅力です。釣り竿や仕掛け、エサ、ライフジャケットなど、釣りに必要な道具一式を無料でレンタルできます。
初心者も安心のサポート体制が整っています。釣り場には専門スタッフが朝 8 時から夜の 23 時までは常駐して、道具の使い方から釣りのコツまで丁寧に教えてくれます。
さらに、本格的な船釣り体験もでき、ホテルが提携するチャーター船で船釣りを体験することもできます。
釣った魚を味わえるサービスも用意されています。釣った魚は有料で調理してもらえ、夕食の一品として味わえます。調理しない魚も下処理をして預かってもらえ、チェックアウト時に氷と一緒に持ち帰ることができます。
お子さまは王様 - 子どもが主役に
あわかんでは、子どもが主役となって楽しめる仕掛けが館内の至る所に散りばめられています。
その象徴が 「若女将・若旦那体験」 です。
3 歳から 12 歳の子どもが若女将・若旦那になれる日本文化体験プログラムです。子どもたちは衣装に着替え、あわかんの女将から挨拶の仕方や料理の出し方を学べ、接客も体験できます (有料 3,300円) 。
体験が終了すると認定制度が用意されており、子どもには若女将・若旦那認定の証が授与されます。
他にも子ども向けの企画やイベントがたくさん用意されています。
* * *
なぜあわかんは、これほどまでに人々を惹きつけるのでしょうか?
その理由を、マーケティングの観点から 「POP」 と 「POD」 を考え方使って解き明かしていきましょう。
差異化の 2 つの要素 - POP と POD
差異化を図っていくにあたって重要な考え方が、「POP」 と 「POD」 です。
POP (負けない要素)
POP (Points of parity) は、あるカテゴリーにおいて商品やサービスが 「最低限として満たすべき基本的な要素」 を指します。Parity は 「等価」 という意味の単語です。
POP は自社だけではなく競合も同じように満たすものです。たとえば、自動車であれば安全性、食品であれば美味しさが POP に該当します。
POP はお客さんがそのカテゴリーの商品・サービスを買うかどうかを考えるときに必須の条件となります。POP は他社には "負けない" 要素です。
POD (勝てる要素)
一方の POD (Points of difference) は 「自社商品を競合から差異化する要素」 です。その商品が市場においてユニークな特徴を持ち、お客さんにとって独自の価値になるので、お客さんから競合商品ではなく自社商品が選ばれる理由となります。
たとえば、他には決してないほどの高コスパ、高い技術に裏打ちされた使いやすさ、自分好みに合わせたカスタマイズ性です。
POP は他社に "負けない" 要素でしたが、POD は他社に "勝てる" 要因です。
あわかんの POP - 旅館としての信頼の土台
あわかんの成功は、POP と POD を巧みに組み合わせることで、お客さんにとっての独自の価値を生み出している点にあります。
まずは POP から順番に見ていきましょう。
POP とは、そのカテゴリーにおいてお客さんが 「あって当たり前」 と期待する、最低限満たすべき基本的な要素でした。
あわかんの場合、カテゴリーをあえて言えば 「 (淡路島の) 温泉旅館・ホテル」 です。この土俵で戦う上で、競合他社に負けないための POP という消費者が宿選びの前提とする要素は次のようになります。
- 快適で清潔な客室と館内施設: 安心してリラックスできる空間が提供されている
- 心地よい接客サービス: スタッフの丁寧で親切な対応
- 地元の恵みを活かした美味しい食事: 新鮮な海の幸など、その土地ならではの食事が楽しめる
- 温泉・大浴場の完備: 旅の疲れを癒やす温泉体験ができる
- 美しい景観: オーシャンビューなどの旅館での滞在価値を高めるロケーション
これらは、多くの競合旅館も提供している基本的な価値です。
あわかんは、こうした POP を高いレベルで満たし、宿泊客の基本的な期待に応え、宿としての不満や不安を取り除いています。
POP というしっかりとした土台があるからこそ、次に詳しく見ていく POD が真価を発揮します。
あわかんの POD - 他にはない独自の体験価値
POD とは、競合他社にはない、お客さんを強く惹きつけ、それでなくてはならないと思わせる独自の差異化要素でした。
あわかんの POD は、特に 「フィッシングホテル」 と 「お子さまは王様」 のふたつに集約されます。
手軽で本格的な究極の釣り体験
あわかんでのフィッシングは、ただホテルで釣りができるというレベルではありません。あわかんは、海釣りの魅力を最大限に引き出し、誰もが楽しめるエンタメにしています。
ホテル敷地内のプライベート釣り場で 24 時間いつでも釣りができ、道具やエサが全て無料で、さらに専属スタッフのサポートもあることで、特に初心者やファミリー層にとっては気軽に釣りに挑戦できます。
もっと本格的に釣りを楽しみたい人には船釣り体験も用意して提供するなど、釣りの初心者から釣り好きな人まで満足できる場が用意されています。自分で釣った魚を食べられるという体験も、あわかんならではの魅力です。
釣り体験は、あわかんでのアクティビティと食と学び体験を融合させた、POD です。
子どもが主役になれる 「お子さまは王様」 コンセプト
もうひとつのあわかんの POD の柱が子ども向けの企画やイベントです。
キッズスペースがあるホテルは珍しくありませんが、あわかんは子どものことをホテル滞在中の主役 (王様) として扱うという立場をとります。
例えば 「若女将・若旦那体験」 では、子どもはサービスの受け手から、もてなす側へと役割が変わり、若女将や若旦那という普段はできない特別な体験ができます。子どもの成長にもつながる価値ある体験と言えます。
その他にも、あわかんは子ども向けサービスや企画を数多く用意しています。
100 の体験プログラムでは、小学生以下を対象にスタンプラリー形式で滞在中に様々な体験にチャレンジでき、達成すると記念品のオリジナルバッジと修了証が贈呈されます。
CHALICO (ちゃりこ) 会員制度は、0 歳から 12 歳の子ども向けで、入会費 1,000 円 (年会費無料) で入れます。会員になればスペシャルイベントの無料招待、期間限定プレゼント、個室キッズルーム 1 時間無料、誕生日ケーキプレゼントなどの特典があります。通常、会員制度は大人向けですが、あわかんでは子どもが主役なので、子どもも会員になれるわけです。
あわかんでは、子どもが楽しめる企画やイベントが満載です。
- 小学生以下を対象にしたスタンプラリー形式の 「100 の体験プログラム」
- 0 歳から 12 歳の子ども向け会員制度 CHALICO (ちゃりこ)
- スタッフを見つけてスタンプを集める 「グラッシーを探せ!」 イベント
- 土曜日や祝日前日、夏休みや年末などの休み期間中に開催される 「あわかん縁日屋台」 (玉ねぎすくい, 輪投げ, 射的, 型抜き, くじ引きなど)
- ホテルの屋上から広がる満天の星空を楽しめるあわかん星空ツアー
- 釣った魚との記念撮影とオリジナルフォトフレームのプレゼント
これらは、子どもが心から楽しんでくれるなら、親も幸せという家族旅行へのニーズを的確に捉えています。親にとって、子どもを最高に楽しませてあげられるホテルという理由で、あわかんを選ぶ強い動機 (POD) となるのです。
POP と POD の相乗効果 - 選ばれる理由の創出
あわかんの巧みさは、POP と POD の相乗効果を生んでいる点にあります。
まず旅館としての基本的な品質 (POP) でお客さんの期待に応えます。
その上で、他にはない 「釣り体験」 と 「主役はお子さま」 という強力な POD を打ち出し、さらにふたつの POD を組み合わせることで 「釣りと家族の体験型旅館」 という独自のポジションを確立しました。宿泊客の期待を超える驚きや感動を生み出します。
もし、旅館としての基本的な品質 (POP) が低ければ、いくら釣りが楽しくても顧客満足度は上がりません。逆に、基本的な品質が高いだけでも、他の多くの旅館との違い (POD) がなければ、積極的に選ばれる理由にはなりにくいでしょう。
盤石な POP という土台の上に、他にはない唯一無二の POD を築き上げる――。
あわかんはこの両輪を効果的に回すことで、家族で特別な体験ができる、信頼の宿という独自のポジションを確立し、お客さんから熱烈に支持される選ばれる理由を創り出しています。
口コミで 「スタッフさんの笑顔、丁寧親切な接客で毎回癒されます」 「来る度に新しいサービスが増えている」 と評価され、「来年また家族で伺います」 というリピーターを生み出し続けているのは、POP で基本的な満足を提供し、POD で期待を超える体験を創出しているからにほかなりません。
チェックアウトの際に子どもが 「帰りたくない」 と泣いてしまう。これこそが POP と POD を組み合わせた差異化の成功を物語る、最高の証と言えるでしょう。
まとめ
今回は、淡路島のホテルの 「あわかん」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングでは差異化の概念として POP と POD のふたつがある
- POP (Points of parity) はカテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- 一方の POD (Points of difference) は、自社商品・サービスの差異化になり、他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
- POP が土台となる顧客価値を保証しつつ、POD からの他にない差異化を図ることが大事。POP があってこその POD という差異化が生きる

